日本放送協会(NHK)の前田晃伸会長は、2月4日に開催された定例記者会見での質疑応答において、受信料の値下げに言及。「衛星波(BS放送)の割高感をまず解消するのが先」と述べ、地上波の値下げについては明言しなかった。

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現行のNHK受信料、BS放送は地上波よりも「割高」

NHKは1月に次期3カ年経営計画を発表しており、2021〜2023年の3年間で550億円規模の支出削減を進めつつ、経営資源をコンテンツの取材・製作に集中。BSとラジオの放送波の整理・削減や、受信料の値下げを行う方針も示していた。

現行のNHK受信料は、地上波のみの契約が月額1,225円(口座・クレジット支払い)、地上波放送とBS放送の両方が見られる衛星契約が月額2,170円(同)で、衛星契約の方が約1.8倍程度高い。衛星契約の件数は、2019年度末時点で契約全体の52.7%にあたる2,223万件。

「地上波含めて値下げできればいいが矛盾解消されず、賢くない」

記者会見の質疑の中で、NHKの放送総局長が過日、衛星契約の受信料の1割値下げを目指したいと表明したことについて説明を求められた前田会長は、「(受信料の)値下げは恒常的にと考えており、それを前提とすると、衛星契約の受信料を下げるのが今の状況ではいいのではないか」とコメント。

前田会長は衛星契約には割高感があることを認めつつ、「(衛星波を)当初スタートしたときは、衛星を打ち上げるコストが非常に高いとか、いろいろな問題があったのも確か。現在、衛星の新たな打ち上げが必要という状況ではなく、ある意味では少し平準化してきている。衛星と地上波の格差を少し縮める方向で、衛星契約の方を下げるのがいいのではないかというのが現時点のアイディア」とした。

「地上波は値下げの対象にはならないということか」と報道陣から問われた前田会長は、「総合受信料という形の検討も必要だと思うし、いろいろな意見があるところなので、それを聞きながらやっていきたい」と返答し、地上波の値下げについては明言しなかった。現時点では衛星契約の割高感を解消するのが先という考えを重ねて示し、「地上波を含めて両方下げられればかっこいいが、そうすると矛盾が解消されない。それはあまり賢くないなと思う」(前田会長)。

「地上波だけの契約者からは物足りなさもあるのではないか」という質問に対しては、「この先のことも考えると、地上波と衛星波のこういう区別の仕方でいいのか、というのも検討の余地がある。地上波の価値をもうちょっと上げる必要がある。私も昔は、地上波しか見ていなかったので、確かに違いや違和感はある。地上波と衛星波の格差を是正することと、地上波は今のままでいいか、というのはもう一度検討する。割高感や、批判が出ないようにしたいというのが本音」(前田会長)とした。

具体的な値下げ額は2022年度に判断するとしていた点については、「2年ぐらい状況を見ないといけないと思う。値下げの原資がしっかり貯まっていないといけないし、勘定科目もまだできていない。コロナの状況がどうなるかも分からず、来年度(2021年度)は受信料収入が大幅に減る予算なので、その赤字がどれくらいになるのかも読み切れないところがある」という。

なお、菅総理大臣が1月の施制方針演説で「NHK受信料の月額1割超の値下げ」に言及したことについて、前田会長は総務省や国会議員、総理大臣への説明や相談はしておらず、「そういう説明をすることでもないと思う」とコメント。「事業収入7,000億円と、(還元の原資とした)700億円という数字があり、紛らわしかったが、短絡的に全部1割下げるとか、そういうことではない。下げるからにはずっと下げられるような状態にする」とのこと。

高精細映像で文化財を楽しむ8K番組を放送。N響も財団改革の対象に

NHKの定例記者会見ではこのほか、「8K文化財プロジェクト」についての説明があった。東京国立博物館(東博)と共同で、8K技術を活用した文化財の新しい楽しみ方や鑑賞法などについて研究を進めており、東博などが所蔵する文化財を3Dスキャナーで形状計測・撮影を行い、超高精細な3DCG「8K文化財」を作成。このプロジェクトによる8K番組「見たことのない文化財」を3月に放送すると発表した。

また、NHKの財団改革に関連して、NHK交響楽団(N響)も含めて統合するという一部報道について、前田会長は(N響も統合の)検討対象に入っているとし、「(さまざまな財団の)サイズが小さすぎる。役割は重要だが、似たような機能があるものがたくさんある。財団を一回大きな形で統合し、社会貢献を主軸にしたような財団にできないかと考えている。収益事業ではないので収支をバランスさせるのが大変だが、小さくては本来の目的もなかなか達成できない。私はちょっとサイズを大きくして、機能を強化したいと思っている」と述べた。