今週はWindows 10周りの動きが凪いでいるので、日々の疑問について少し考えてみたい。人間はいつまでマウスを使い続けるのだろう。

今この瞬間も左手をキーボードに添え、右手はキーボードとマウスを行き来しているが、改めて考えると決して効率的ではない。一時期、キーボードから指を離さずマウスカーソルを操作できるThinkPadのポインティングデバイスを愛用した背景から、現在もThinkPadトラックポイントキーボードを使用し、数台のストックを用意している。Windows 7あたりからはAeroスナップなどマウス操作を重視する場面が増えたが、Windows 10以降はSurfaceのようなタッチ対応の2in1 PCを使うようになってから、物理的なポインティングデバイスの使用頻度は減ってきた。

筆者のデスクトップPC環境は、ThinkPadトラックポイントキーボードに加えて、ロジクールのマウスを使っている。初のレーザーセンサーマウスだったMX1000から始まり、最近はMX Anywhere 2、そしてMX Anywhere 3に乗り換えた。MX Anywhere 2とMX Anywhere 3の差は少なく、MX Anywhere 3では使い勝手がそのまま向上している。

特に、MagSpeed電磁気スクロールホイールを気分や場面に応じて、ラチェットモードとフリースピンモードに切り替えられるのは大きい。もう、MX Anywhere 2に戻ろうとは思わない。MX Anywhere 3の性能や使い心地は本誌のレビューをご覧いただくとして、MX Anywhere 3を約2カ月間使い続けた結果、冒頭の疑問にたどり着いた。

  • 筆者の入力デバイス環境。右手のMX Anywhere 3は十分に働いてくれているが、左手にあるSurface Dialの使い道が見つからない……(筆者の使い方では)

Windows 10のタスクバーにピン留めしたアプリを「Windows」+「数字」キーで起動し、複数のアプリは「Windows」+「Tab」キー(または「Alt」+「Tab」キー)で切り替える。不要なアプリは「Alt」+「F4」キーで直接終了。

ウィンドウの位置も、「Alt」+スペースキーでアプリのコントロールメニュー(ウィンドウ左上のアイコンをクリックして開くメニュー)を開いて「移動」で調整するか、「Windows」+矢印キーで4分の1にリサイズ。なお、「Windows」+左右キーの動作は、「設定」-「システム」-「マルチタスク」-「ウィンドウのスナップ」を無効にしていると機能しない。

最近では、PowerToysのFancyZonesでレイアウトを設定しておけば、「Shift」キーを押しながらウィンドウを移動することで、好みのウィンドウサイズに調整できる。あっ、これはマウスで操作した方が簡単だ。

このように、大半の操作はキーボードで補えるが、どうしてもマウスが欠かせない場面はある。いっそWindows Terminalでウィンドウを分割し、テキストエディターやファイラーを各ウィンドウで起動した方が使いやすいのではないか……と一考してみた。あくまで文章作成とファイル操作が主目的となる筆者の使用スタイルからたどり着いた考えだが、日本語入力が問題。Windows環境のATOKを上回るDOSベースのIMEは存在しないだろう。最近ではWSL 2(Windows Subsystem for Linux 2)によって、Windows 10上でLinux環境をほぼネイティブに使えるようになったが、日本語入力という一点においては、Windows+ATOKを上回る環境は見当たらない(電子辞典を使わなければ、MS-IMEやGoogle日本語入力で不便を感じていないユーザーも多いと思う)。

  • DOS/PowerShell環境の日本語入力は全滅といってもいい状況なので、WSL 2上でファイラーの「mc(Midnight Commander)」と「Vim」で環境を整えてみた。やはり日本語入力環境は厳しい

Microsoftの研究機関であるMicrosoft Researchは、NUI(Natural User Interface)研究の一環としてMicrosoft KinectやMicrosoft PixelSenseにたどり着いたが、いずれも2010年代の話。2020年代に入ってNUIに関する進捗は聞こえてこない。NUIはタッチ操作やボディーランゲージに限らず、マウスの動きを学習してインタフェースを簡易化するような研究も行われたが、具現化に至っていないことは現状が示している。MX Anywhere 3の品質が高く、アプリごとのカスタム設定で効率化を実現しても、マウスという枠は越えていない。

  • Microsoft Researchの注力分野(2021年1月25日時点。日本マイクロソフトのプレゼンテーションから)

マウスといえば、肩こりとの関係も長年言及されてきた。筆者もコロナ禍で外出できず、運動不足も伴って筋力低下が著しいため、ほぼ指先だけで操作できるトラックボールに食指が動きつつある。自身のPC歴を振り返ってみると、最初にマウスに触れたのは1980年代。当時の8ビットPCで『上海』をプレイするためにシリアルマウスを購入した記憶があり、マウスの使用歴は約40年におよぶ。なのでマウスの長短は述べることはできても、ほとんど使用経験がないトラックボールは門外漢。一度はしっかり使ってみようと思っている。

と、マウス、GUI、CUIを見返してみたが、いまのところマウスに変わるインタフェースは見当たらない。Douglas Engelbart氏がマウスを産みだしてから50年強。GUIという直感的に操作できるコンピューターが世に出てから、進化は停滞しているともいえる。「タッチUIを備えたタブレットが正統進化の1つ」という見方もあるが、コンピューターが備える多様な機能をすべてタブレットで実現できるとはいいがたい。我々は肉体的苦痛に耐えつつ、マウスというデバイスに依存する生活を続けなければならないようだ。