後発の楽天モバイルの弱みとなるのが、エリア展開が不十分なことです。それを補うためにスタート当初ではau網も使えるようにしていますが、ローミングエリア内では「使い放題」の特長を生かせません。
そのため楽天モバイルでは、エリア展開を積極的に進めていく方針を取っています。当初、総務省に提出した基地局の開設計画では、2026年までに人口カバー率96%を目指す計画でした。
1月29日の発表では、楽天グループの三木谷社長が「2021年夏に人口カバー率96%を達成する」と表明しました。つまり、当初の計画を5年も前倒しして基地局を建設するということです。
先行する3キャリアの4G LTEでの人口カバー率は99%を超えており、楽天モバイルは(電波をつかみにくい)屋内エリアなど、密度の高さでは今後しばらくは後れを取ることになるでしょう。
楽天のエリア拡充の武器は“完全仮想化”を実現したというネットワーク設備です。従来は専用の通信機器が必要だった基地局設備の機能の大部分をサーバーマシンで再現し、設備を柔軟に増強したり、ソフトウェア上の設定変更で電波の出力を調整できたりするといいます。
三木谷氏は「AIを活用して効率的な基地局の配置を探ったり、基地局ごとに必要な電波出力をファインチューニングで実現できる。楽天の技術は革新的で、車に例えると従来キャリアはトヨタ自動車で、楽天はテスラのようなものだ」と自信を示しました。
5Gエリアの進展は示されず
今夏までのエリアカバー率96%という大胆な整備目標ですが、これは4G LTEエリアに限定したものとなっている点には注意が必要です。
先発の3キャリアは2020年3月から、楽天は同年9月から「5G」のモバイル通信サービスを開始しています。このエリア展開の進捗について、1月29日の発表会では触れられていません。
5Gについては当初のエリア展開の少なさでも注目を浴びていますが、楽天は特に顕著です。楽天モバイルのWebサイト上で紹介されている5Gサービスエリアは、全国6都道府県の21か所が案内されているのみ。このデータは2020年9月のサービス開始時点から更新されていません。
楽天モバイルに5Gエリアの拡充状況について確認したところ「5Gのエリア展開は総務省に提出した開設計画通りに進めていく。前倒しが可能なエリアについては前倒しで展開していく」という見解でした。
三木谷氏は楽天モバイルの過去の発表会にて「4G LTEのエリア展開時点から5G化を前提としているため、基地局にアンテナを取り付けるだけであっという間に5Gエリア化できる」という発言をたびたびしています。今回の発表会ではこの大言壮語は飛び出さず、5Gエリア化については一切のコメントがないままプレゼンテーションが終了しました。
宇宙からLTE通信で全国を圏内に?
人口カバー率がたとえ99%に達しても、日本には携帯電話が圏外となる地域がたくさんあります。なぜなら、日本の国土のうち人が住んでいる地域は約32%の面積に集中していて、大部分を占める山間部をカバーしてもほとんど人口カバー率は増えないからです。同様の理由から、過疎地域のエリア拡充も遅くなりがちな傾向があります。
楽天モバイルにはこうしたエリア展開の盲点を埋めるための秘策があります。その名も「スペースモバイル計画」。宇宙からの4G LTEの電波を飛ばして、エリア化するという壮大な計画です。
これは楽天モバイルが出資するアメリカのベンチャー企業AST & Science社が開発中の技術を活用したもの。AST社は大量の衛星を打ち上げて4G LTE通信を行う、いわば宇宙に基地局網を展開する計画を進めています。
三木谷氏はこのスペースモバイル計画で「2023年度をめどに、世界で類を見ない率100%のエリアカバーを目指す。」と意欲的な目標を掲げ、「他社にはまねできないだろう」と誇りました。
5Gが普及する時代には、モバイル通信が必要とされる場がこれまで以上に広がると見込まれています。たとえば自動運転のための道路上のエリア化や、ドローン輸送のための山間地のエリア化、海上での高速モバイル通信といった需要がでてくるでしょう。宇宙からのモバイル通信網の構築は、エリア展開が難しい地域を補完するための手段の一つとして有望視されています。
ところで、宇宙からエリア展開を構想しているのは楽天モバイルだけではありません。たとえばソフトバンクは、HAPSモバイルという子会社を設立し、高高度インターネットの技術開発を進めています。HAPSモバイルの計画は、米AeroVironmentが開発した無人飛行機に基地局を搭載し、宇宙に近い成層圏からモバイル通信を行うという内容です。
また、GoogleやFacebookといった米IT大手も上空からの携帯エリア化技術を進めています。空からのモバイル通信に積極的な競合企業の状況をみても、楽天モバイルが描く計画は完全な夢物語になるとは限りません。
ただし、「2023年に」という短いタイムスパンで実現するのはやはり高い目標となりそうです。電波は干渉という技術的特性があるため、携帯電話の基地局を立てる際、総務省から周波数免許を地域ごとに受ける必要があります。宇宙から広域のLTE基地局を展開する計画を実行するには、どの周波数帯域を使うのかも含めた、制度面の整備も不可欠となるでしょう。
宇宙インターネット構想については、総務省も支援する姿勢を見せており、2020年から通信事業者向けに意見交換会も実施されています。楽天モバイルの山田社長は「この会合には楽天モバイルからも定期的に出席し、各社との情報交換も行っている。スペースモバイル計画は夢物語ではなく、現実的に実現可能なものだ」と述べています。
宇宙からの全国の完全エリア化が「他社には真似できない」かどうかはさておいて、技術開発や制度面での整備が順調に進めば、実現する見込みは十分にありそうです。
【お詫びと訂正】初出時、「Rakuten LINK」を使った場合もデータ容量を消費するとしていましたが、誤りだったため、該当箇所を修正しました。Rakuten LINKはデータ消費のカウント対象外となり、データ容量を全て消費しても通常速度で通話やメッセージができます。読者ならびに関係者各位へお詫び申し上げます。(2021年1月31日 11:30) |