東京大学、東京都健康長寿医療センター、日本医療研究開発機構(AMED)の3者は、AI(ディープラーニング)が認知機能の低下した患者と健常者の顔写真を見分けることができることを示したと共同で発表した。

同成果は、東大医学部附属病院(東大病院) 老年病科の秋下雅弘教授、同・亀山祐美助教(特任講師(病院))、東京都健康長寿医療センター 放射線診断科の亀山征史医長らの共同研究チームによるもの。詳細は、米国科学誌「Aging」に掲載された

日本を先頭にして、世界の多くの国で高齢化社会が進んでいる。高齢化社会において、最も深刻な問題のひとつとされているのが認知症だ。今後の治療戦略においては、早期診断が重要視されているが、認知症の診断のための検査はさまざまな制約が大きな課題となっている。

たとえば、アルツハイマー病の主病変タンパク質である「βアミロイド」が脳への蓄積を検出するための検査方法として、陽電子断層撮像検査「アミロイドPET」があるが、その検査費用は非常に高額だ。そのうえ、検査対象者の脳脊髄液を必要とする侵襲的な検査方法であり、体力が落ちてきた高齢者に身体的に大きな負担を強いることにもなる。そのため、簡便かつ非侵襲的で安価な認知症の検査方法の開発が望まれているところだ。

そうした中、簡便・非侵襲的・安価な検査手法として期待されているのが、顔の見た目の年齢だ。老化は全身的なプロセスであるため、顔で判断する見た目の年齢は余命、動脈硬化、骨粗鬆症の指標となることが知られている。実際、東大病院の秋下教授らも、見た目の年齢が実年齢よりも認知機能と強い相関を示すことをこれまでの研究で把握してきた。そこで共同研究チームは今回、AIを使って、顔の情報から認知機能の低下を見つけ出すことができるかどうかの研究を開始した。

顔写真のモデルは、東京病院 老年病科を受診して物忘れを訴える患者と、同大学 高齢社会総合研究機構が千葉県柏市在住の高齢者を対象に実施している大規模高齢者コホート調査「柏スタディ」の参加者の中から、同意を得た人のものが使われた。正面の表情のない顔写真を使い、認知機能低下を示す群(121名)と正常群(117名)の弁別ができるかどうかについて、AIワークステーションでの解析が行われた。

何種類か試した中で最もよい成績を示したAIモデルは、感度87.31%、特異度94.57%、正答率92.56%と高い弁別能を示すことができたという。そしてAIモデルが算出するスコアは、年齢よりも認知機能のスコアに有意に強い相関を示したとした。

  • 認知症

    AIが算出したスコアと認知機能検査(MMSE)との関係を表したグラフ。AI算出スコアの高い方が認知機能が低い (出所:共同プレスリリースPDF)

さらに年齢の影響を少なくするため、年齢で2つのグループに分けてAIが弁別したところ、どちらの群でも良好な成績を収めることに成功。このことから、年齢による影響は少ないものと考えられたという。

  • 認知症

    AIが算出したスコアと年齢との関係を表したグラフ。AIモデルが算出するスコアは、年齢よりも認知機能のスコアにSteiger検定に有意に(p=3.25×10-35)に強い相関が示された (出所:共同プレスリリースPDF)

またAIワークステーションによる判断は、顔のどの部分で行われているのかわかりづらく、ブラックボックスの側面があるため、顔を上下で分けて解析が行われた。すると、どちらもよい成績となったが、顔の下半分の方が若干よい成績を示したとした。

今回の研究は顔写真のモデルの人数も限られているため、そのまますぐに応用ができるわけではないとする。もっと多くの顔写真を集め、AIに学習させることができれば、将来的にAIを用いて顔で認知機能低下をスクリーニングすることができるようになる可能性があるという。共同研究チームは実用化を目指し、今後も今回の成果から得られた方法について研究を深めていく予定とした。