IDC Japanは12月17日、2021年の国内IT市場においてカギとなる技術や市場トレンドなど主要10項目を発表した。2020年の国内IT市場は、新型コロナウィルス(COVID-19)の感染拡大の影響を大きく受け、国内企業のデジタル化、デジタルトランスフォーメーション(DX)が加速された。デジタルテクノロジーの重要性はさらに高まり、企業にとってDXを実現していることが今後も成長を続ける前提条件である「デジタル優位」の社会が、数年後には訪れると、同社はみている。
こういった環境の中、同社では、主にITのサプライサイドで2021年に起こるイベントを、以下の10項目にまとめている。
DXとFuture Enterprise
2021年の国内ICT市場は前年比1.1%増にとどまるが、COVID-19を契機とした国内企業のDX支出は継続すると見込んでいる。
また、2021年の国内ICT市場は、前年比1.1%増にとどまるとし、クラウドへの移行、5Gへの投資、アナリティクスやデータ管理、デジタル関連のコンサルティングやシステム構築などの新規技術によって、IaaS、事業者向け通信機器、ビジネスサービス、プロジェクトベースサービスなどが平均よりも高い成長を見せるとの見解を示している。
同社は、ITサプライヤーに対し、「コロナ禍」で緊急的に行ったデジタルプロジェクトの棚卸を実施すべきと提言している。緊急で個別対応を行ったプロジェクトが、負債になったり、レガシー化したりしないように、確認、評価を行うことを推奨している。
AIによる自動化
IDCJapanリサーチバイスプレジデントの寄藤幸治氏は、2021年度はさらにAIによる自動化が進むと述べた上で、「非接触が組織横断的な業務プロセスの自動化を牽引し、AIがサイロ化されたインテリジェンスをエンタープライズ全体に解き放つ」と話した。
さらに、ITサプライヤーによる新たな取り組みも始まっていると、寄藤氏は説明した。ERP(Enterprise Resource Planning)ベンダーは自社製品へのAI機能の組み入れを活発化しており、企業の組織横断的な業務の自動化を可能にするプロセスも提供されている。
寄藤氏は、「ITサプライヤーは自社のリアルな体験とノウハウをサービスとして顧客に提案し、自社製品が提供するオープンなプラットフォーム上においてAPI経由で他社製品を連携することで自社の機能補完を行うべきである」と、ITサプライヤーへの提言をしていた。
次世代インフラ
次に、寄藤氏は2021年度のインフラに関する予測を発表した。同氏は次世代インフラを実現するためには、現状のインフラからの変革が必要であり、それはDeployment(提供形態)、Technology、Operationsの3つの側面から進んでいくという見解を示した。
Deploymentに関しては、クラウドシフトの加速、CAPEXモデルからOPEXモデルへのシフト、エッジ/コアモデルの普及が進み、Technologyは、アクセラレーテッドコンピューティング、オールフラッシュアレイ、Software Definedのインフラなどが普及し、Operationsについては、AI・MLをインフラ管理やデータ管理に利用する企業が増加することが見込まれる。
クラウドセントリックIT
一方で同社は、2021年度のICT市場に関して、DXを推進するデジタルレジリエンシー(既存業務の継続およびDX・データ駆動型ビジネスを実践する能力)を強化するために、クラウドセントリックなITが広がるとみている。
寄藤氏は、「クラウドファーストの戦略をとる企業は増加したが、システムごとの個別最適(サイロ型)に留まっているケースも多く、多様なデータの活用やシステム間連携が困難な状態にある。クラウド移行時に運用を変革しなかったことで、コストの最適化ができず、拡張性や縮小性にも課題がある」と説明した。
またクラウドセントリックITは、すでにデジタルネイティブな企業では実践されている。寄藤氏は、ニューノーマルが進む中、企業はクラウドファーストからクラウドセントリックITへと、IT戦略をシフトする必要があると指南した。
セキュリティの進化
セキュリティ市場に関しては、セキュリティの複雑化によって、統合されたエコシステムやプラットフォームフレームワークによるセキュリティソリューションの導入が加速すると、同社はみている。
コロナ禍における大規模な在宅勤務によるVPNリモートアクセスで、企業ネットワークが逼迫してレスポンスが遅延するなど、業務効率の劣化の問題が顕在化した。2020年8月にVPN機器の脆弱性を突かれてVPNの認証情報が不正に搾取されインターネット上に公開される事件が発生したが、在宅勤務でVPNリモートアクセスの利用が増えたことで、企業では不正侵入のリスクが高まったという。
寄藤氏は、「セキュリティ対策は、デバイスに対するエンドポイントセキュリティ、セキュアなアクセスコントロール、クラウド上のアプリケーションやデータの利用状況の可視化と防御、情報漏洩対策など、さまざまな機能を持ったものへと複雑化する。セキュリティ人材の不足は慢性化する」と語り、2021年も在宅勤務は続くが、課題解決への動きは加速すると説明した。
ベンダー間のパートナーエコシステムの下で各社の製品が連携したセキュリティソリューション、複数のセキュリティ機能がプラットフォームとして提供されるセキュリティソリューションの導入を進める企業が増加するなど、複雑化するセキュリティ対策と慢性的なセキュリティ人材不足を解消する取り組みが加速することが見込まれる。
5G
5G(第5世代移動通信システム)市場の予測としては、5Gタブレットの登場やローカル5Gへの取り組みの加速に加え、5Gエリアの拡大によって新しい産業アプリケーションの可能性が広がると同社はみている。
具体的には、消費者向けでは、4Kのマルチアングル動画やストリーミングゲームサービスが増加し、法人分野では、LIDAR(Laser Imaging Detectionand Ranging)を搭載した5G対応タブレット端末の採用に向けた取り組みが進むという。
また、製造業の工場やプラントなどを中心に、ローカル5GのPoC(Proof of Concept)が増加し、生産のフレキシビリティ向上、人による作業の自動化、作業員の安全性向上、技術継承などがユースケースの候補であると同社は考えている。
さらに、DSS(Dynamic Spectrum Sharing)を活用したLTE(Long Term Evolution)帯域における5G NR(New Radio)の導入も始まり、5Gのサービスエリア拡大が見込まれ、5G SA(Stand alone)の導入も2021年中に始まると同社はみている。
ソフトウェア開発革新
ソフトウェア開発に関して寄藤氏は、「2021年は、クラウドネイティブとローコード・ノーコードの進展により内製化が加速し、ITサプライヤーにビジネスモデルの変革が迫るだろう」と説明した。
同社によると、2020年8月時点でローコード・ノーコード開発プラットフォームを導入中あるいは導入を進めている企業は20.9%だといい、2021年末には35%にまで拡大すると予測している。
これを受け、これまでアプリケーション開発に関する人的リソース提供を行ってきたITサプライヤーにとっては脅威になるとし、内製化を志向する企業に対する価値提供やマネタイズ方法の見直しがITサプライヤーにとって必須になるとの見解を示した。
IT人材、IT組織
寄藤氏は、「DXに向けた国内企業のIT人材やIT組織変革の流れは加速し、それに向けたITサプライヤーの支援サービスも強化される」と説明した。また、ITサプライヤーによる、企業IT人材育成支援も活発化すると見込んでいる。
具体的には、ビジネス部門とデジタル部門との協業、自部門の業務自動化推進、部門人材の「デジタル人材化」に向けた動きが加速し、それを支援するITサプライヤーも増加するとの見込みだ。
デジタルガバメント
一方で寄藤氏は、、国内のデジタルガバメントの進展によって、官民連携のデータ流通が加速し新しい産業エコシステムが形成されるという見解を示した。
近年、行政手続きのデジタル化の推進、国民IDとしてのマイナンバーカードの利活用領域の拡大、これまで独自に構築してきた中央省庁や地方自治体のITシステムを統一するための議論が始まっている。デンマーク、韓国、エストニアなど電子政府先進国では、デジタル手続きの先にある、国民へのサービス向上と産業創出を行う社会基盤として、電子政府を位置づけているという。
寄藤氏は、「2021年は、デジタル庁の主導の下で、行政に加えて、金融、交通、情報通信、医療、製造などあらゆる産業のデータをつなぐ基盤が構築され、各産業が持つ仕組み、インサイト、専門知識の連携を可能にする国家としての新しい産業エコシステムの構築に向けた検討と実践がスタートする年になる」と語った。
非接触・非密集
最後に、2021年では、ニューノーマルに向けた非接触・非密集型ソリューションと、発生するリアルタイムデータ分析市場が成長すると、同社は見込んでいる。具体的には、非接触でありながら仮想的に対面営業を行うソリューション、オフィスへの従業員の非密集を管理するソリューションなどが2021年以降も継続的に増え、企業が類似のシステムを導入、リプレイスする際の選定条件の一部になると予測している。
寄藤氏は、「このようなソリューションでは、社外と社内のリアルタイムデータ(顧客の購買行動、従業員の位置情報、搬送ロボットの動作状況など)が大量に発生する。これらのリアルタイムデータを機械学習によって分析し、精度の高い予測を行うことで、非対面であっても顧客エクスペリエンスや従業員エクスペリエンスを向上させることが可能になる」と説明した。
ITサプライヤーへの提言
同社は以上の10項目の予測を通して、ITサプライヤーへの提言として、以下の5つのことを伝えている。参考にしてみてはどうだろうか。
1.誰もがデジタル化を推進し、さまざまな技術が花開いている今だからこそ、少しだけ立ち止まり、DXやFE(Future Enterprise)化の歩みを全社的なものとし、経営戦略と結びつけることが必要である。
2.緊急対処的に行われたデジタル投資が「負債化」「サイロ化」しないようにすべきである。
3.ITサプライヤーは、外部の客観的な立場から、顧客企業に対してそのように進言すべきである。
4.外部環境変化、それに伴う顧客のニーズ変化とビジネス機会をデータを通じてとらえることができるのが「Future Enterprise」である。今後訪れる新たな社会、「ネクストノーマル」に対するビジョンなしに、自らがどのような企業として、どのように進んでいくのかの方向性を定めるのは不可能である。
5.ITサプライヤーは、顧客と共に、「ネクストノーマル」とは顧客企業にとってどのような社会なのか、どのようなビジネス上の影響がもたらされるのかを考え、それに向けた準備を行っていくべきである。