StriX-αとは?

こうした計画の実現に向け、同社は今回「StriX-α」という衛星を打ち上げた。StriX-αは同社初の衛星として、衛星やSARの技術実証や、その観測データ処理の技術実証を目的としている。

ちなみにStriXとはフクロウの学名からとられており、夜目がきくフクロウのように、夜でも地球を観測できるSAR衛星であることを表しているという。

同社ではこのStriX-αなどで、衛星側、また地上側の各種実証を行ったのち、商用衛星となるStriXの開発、打ち上げ、そしてサービス展開へと進むこととしている。

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    StriXの想像図 (C) Synspective

StriX-αの打ち上げ時の衛星の寸法は70cm角で、質量は約125kgという小型の衛星である。商用機StriXも100kg級の衛星になるという。

StriXの特徴は、このサイズの小ささと、それを実現するための新技術にある。SAR衛星は電波を受け取るために大きなアンテナが必要で、また電波を送信するための電力も大きくしなければならない。そのため、従来のSAR衛星は数tもある比較的大きなものが多く、開発コストも100億円以上かかっていた。

そこで同社は、片面がSARのアンテナ、もう片面が太陽電池の機能をもつ特殊なパネルを開発。さらに7枚のパネルを折りたたみ式にすることで、打ち上げ時には70cm角のコンパクトなサイズながら、展開後は長さ5mの大きなアンテナにできるようにした。また、展開部分の隙間から漏れてしまうマイクロ波を限りなく少なくする技術や、窒化ガリウムHEMT素子を用いた高効率なマイクロ波増幅器を開発することで、小型で軽く、そして低コストなSAR衛星を実現している。

同社では「高性能かつ安価なSARシステムを実現する技術に工夫を凝らした。とくに、独自の「折りたたみ可能な受動平面展開アンテナ方式」を採用し、実用化したことで、必要十分な分解能を実現しつつも、安価なSARアンテナを実現した」としている。

この技術はもともと、内閣府の革新的研究開発推進プログラム「ImPACT」のもとで、宇宙航空研究開発機構(JAXA)や東京工業大学などによって開発されたもので、この技術による小型SAR衛星の多数機コンステレーションを社会実装する事業会社としてSynspectiveが設立されたという経緯がある。

周波数はXバンドを使う。SAR衛星ではLバンドやCバンドなども用いられるが、Xバンドは波長が短いため、細かいものを見るのに適している。

撮像モードは、分解能3m、観測幅30kmで帯のように広い範囲を観測するストリップマップモードと、分解能1m、観測幅10mで特定の地域を重点的に観測するスポットライトモードの2つがある。

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    StriX-αの元となった、小型衛星搭載用SARの試作品。パネルの写真に写っている面がSARのアンテナ、反対側の見えない面が太陽電池になっている。また複数のパネルが展開式になっており、打ち上げ時には折りたたんでコンパクトにできる(2017年8月25日、JAXA相模原キャンパス特別公開にて筆者撮影)

StriX-αの打ち上げと裏話

StriX-αは日本時間12月15日19時09分(現地時間23時09分)、ニュージーランドのマヒア半島にある発射場から、米国ロケット・ラボの「エレクトロン」ロケットに搭載されて打ち上げられた。ロケットは順調に飛行し、20時02分に、予定どおり高度約500km、地方時10時30分、22時30分の太陽同期軌道への投入に成功した。

衛星の状態は正常で、今後は観測、データ取得をはじめ、数か月かけて機能検証を行う予定だという。また約1か月後には、衛星が撮像した最初の画像を公開できる見込みだとしている。

なお、StriX-αは当初、欧州アリアンスペースの小型ロケット「ヴェガ」を使って打ち上げる予定だったが、打ち上げの時期や衛星の軌道の調整を行った結果、ロケット・ラボのエレクトロンで打ち上げる計画に変更された。

ロケット・ラボを選んだ理由として、軌道と打ち上げ時期が希望に合致したことが大きかったという。なお、ヴェガでは他の衛星との相乗りで打ち上げられる予定だったが、エレクトロンでは単独打ち上げ(dedicate launch)のため、打ち上げコストは高くなったものの、打ち上げ時期や軌道の柔軟性を重視、評価したとしている。

もっとも、2018年ごろまでは、エレクトロンは打ち上げ実績が少なく、またStriX-αにとっては打ち上げ能力が足らず、さらには衛星フェアリングの中に収まらないといった問題もあったため、Synspectiveは当初、エレクトロンでの打ち上げは考えていなかったという。

しかしその後、とくに2019年中に、ロケット・ラボは怒涛の勢いでエレクトロンの打ち上げを重ね、改良によって打ち上げ能力も向上した。

さらにフェアリングの問題も、ロケット・ラボCEOのPeter Beck氏が改修を快諾。衛星が干渉する部分を少し膨らませるという対応が行われた。そのためフェアリングの外側には、こぶのような4つの出っ張りがある。改修のための費用はロケット・ラボが負担し、改修期間も非常に短期間だったたという。

なおロケット・ラボは、エレクトロンの打ち上げに毎回洒落たニックネームを付けるのが慣例で、今回は「The Owl's Night Begins」と呼ばれている。

この由来について、Synspectiveによると「『The owl‘s (フクロウ)』は『StriX-α』のことを意味しており、『Night』は、SAR衛星の能力で『夜』でも地球を観測できることを、そして『Begins』は、これから先、私たちがコンステレーションを築いていく多くの衛星の中での最初の衛星であり、Synspectiveの空での存在が『始まる』ことを示している」という。

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    今回の打ち上げに使われたフェアリング。通常のフェアリングにはStriX-αが収まりきらなかったため、干渉する部分を膨らませるよ (C) Rocket Lab

StriXの今後

Synspectiveは今後、2021年に次の実証機となる「StriX-β(ストリクス・ベータ)」の打ち上げを予定している。

このβでは「干渉SAR」と呼ばれる技術の実証試験も行う。干渉SARとは、同じところを2回撮像したデータの差分を解析することで、地表面やビル、橋などの微小な変動を検知できるというもので、StriX-βでは数mmという精度での検知を目指すという。

また2022年までには、商用機4機を打ち上げ、StriX-α、βと合わせ計6機のコンステレーションを構築することを目指している。これが実現すれば、アジアの大都市を1日に1回定常的に観測することができ、また世界のあらゆる地点においても、災害などが起こった際などには1日以内に観測することもできるようになるという。

そして、30機の衛星からなるコンステレーションは「数年以内の実現を目指す」という。なお、この30機は、6つの軌道面にそれぞれ5機の衛星を投入することで構成される。

実現すれば、前述のように災害などが起こった際などに、発生から3時間以内に観測し、その観測データを提供できるようになるほか、アジアの大都市を3時間に1回、世界中のあらゆる場所を13時間に1回、定常的に観測できるようにもなるとしている。

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    軌道を回る複数のStriXの想像図 (C) Synspective

参考文献

Rocket Lab Successfully Launches 17th Electron Mission, Deploys SAR Satellite for Synspective | Rocket Lab
Synspective - Synthetic Data for Perspective
Synspective - Synthetic Data for Perspective on Sustainable Development
Synspective ロケット衛星発射解説LIVE - YouTube
宇宙研発、小型レーダ衛星の多数機コンステレーション | 宇宙科学研究所