パナソニックが家庭用200V対応ビルトインIHクッキングヒーターを量産開始してから、2020年で30周年。電気を使うIHクッキングヒーターは、天板がフラットで掃除が簡単、強い火力、しかも火を使わないので安全性が高く、災害時は電気の復旧が比較的早いなど、多くのメリットがあります。とはいえ、国内での普及率は半数にもならないという残念な状況。今回、パナソニックIHクッキングヒーター工場を取材し、IHクッキングヒーターの進化を見てきました。

  • IHクッキングヒーターの国内シェアは、パナソニックがトップ。そんなパナソニックのIHクッキングヒーター、部品から組み立てまでを一手に引き受けているのが神戸工場です

  • 部品生産から組み立てまで、すべての工程を神戸工場で担っています。まさにメイドインジャパン!

30年でここまで進化! 今どきIHクッキングヒーターは簡単便利

最初にチェックしたのは、パナソニックのIHクッキングヒーターで最新のフラッグシップモデルとなる「Yシリーズ」。さまざまなデモンストレーションと合わせて、IHクッキングヒーターの最新機能に触れることができました。

  • フラッグシップモデル「Yシリーズ」を使い、ビルトインIHクッキングヒーターの最新機能を体験

デモンストレーションのうち、注目を集めたのが「焼き物アシスト」機能。お好み焼きやハンバーグ、餃子など、10種類の定番料理を調理アシストする機能です。どの料理も、火加減を間違えると食材表面が焦げてしまったり、中が生焼けだったりといった失敗をしやすいものですが、焼き物アシストを使えばIHクッキングヒーターが自動的に温度と加熱時間を設定。さらに、料理に合わせて、食材を投入するタイミングや裏返すタイミングなどを液晶表示と音声で知らせてくれます。

  • デモンストレーションではパンケーキを調理。フライパンの余熱が終わり、材料を投入するタイミングも指示してくれます

  • 食材を入れたり、フタをしたり、食材をひっくり返すなど、次の作業までの時間を液晶画面でカウントダウン。時間になったら音声でもサポートするので、フライパンから目を離していてもタイミングを逃しません

調理終了後は、手動で加熱時間を追加すれば、自分好みの焼き色をつけられます。今回のデモで驚いたのは、異なるスタッフがパンケーキを焼いても、みんな同じ焼き色で失敗なく焼けること。加熱温度や調理タイミングをすべてIHがコントロールしてくれるので、料理が得意な人はもちろん、料理をはじめたての人でも失敗なく焼き物調理ができそうです。「子どもに料理のお手伝いをさせたい」という家庭でも力を発揮してくれるのではないでしょうか。

  • アシストに従って大量に焼かれていくパンケーキの山! すべてほぼ同じ焼き色なことに驚き。指示通りに調理すれば、失敗がありません

【動画】火力に合わせて「光るリング」の明るさが変化。火力が直感的にわかるなど、細かい部分にも使い勝手への配慮が
(音声が流れます。ご注意ください)

面倒なグリル調理が進化、 掃除が簡単でフライパン調理も

個人的に強く惹かれたのは、「ラクッキンググリル」というグリル調理機能の使いやすさ。ビルトインのグリルとは、魚や肉、野菜などを直火で焼く、いわゆる「魚焼きグリル」といわれる部分です。

  • 矢印部分がIHクッキングヒーターのグリル部。Yシリーズのラクッキンググリルはメンテナンス性が高く、さまざまな調理アシスト機能を搭載しています

グリル部では近火で食材を加熱するため、素材を生かした調理ができるのが魅力。ただし、一般的なグリルは魚や肉を「焼き網」に乗せて焼くため、調理後に網と受け皿といった、洗うのが面倒なパーツが汚れます。このため、使用後のメンテナンスが面倒でグリルを使わない人もいます。一方、ラクッキンググリルは網がなく、凹凸のある表面形状の受け皿だけで調理ができるので、調理後の洗い物が少なくてすみます。

  • 焼き網タイプのグリル(写真左)は、焼き網と受け皿がセットになっています。受け皿に脂がくっつかないように、水を張るのも面倒ですよね。一方、ラクッキングリル(写真右)は、汚れるのは波状の凹凸があるプレートが1枚だけ。片付けが簡単です

パナソニックだけの特徴として注目したいのが「グリル庫内が全面フラット」。一般的なグリルは、庫内上下にチューブ状の電熱パーツ(シーズヒーターなど)が配置されているので、ヒーターをよけながら庫内上下を掃除する必要があって、大変な手間です。Yシリーズはグリル上部に平面ヒーター、下部に角形IHヒーターを採用しており、グリル庫内の上下左右すべてがフラットなんです。庫内の壁や天井が汚れても、布巾でサッと拭き取れます。

  • プレートを外したあとのグリル庫内。上下同時加熱できるグリルなのに、庫内上にも下にも出っ張りがありません。これは革命的!

このグリル庫内、前述のように下がIH、上が平面ヒーターなので、IH対応のフライパンや調理器具をセットすれば「フライパンを下からIHで加熱しつつ、上からグリル調理」といった使い方も。上下同時加熱なら食材をひっくり返さなくてよいので、調理の手間を少し減らせそうです。

  • 耐熱性のフライパンをそのままグリルに入れて調理可能。写真のような「取っ手が取れるフライパン」との相性抜群です

このほか、冷凍保存した食材を解凍せずに、最適な加熱コントロールで焼き上げる「凍ったままIHグリル」など、とにかくグリル調理の進化には目を見張るモノがありました

  • 会場では、実際にカチコチに凍ったチキンを凍ったままグリルするデモ。皮目が香ばしく焼けており、余分な脂は下に流れ出ているのがわかります。できあがったチキンは、皮目はパリパリ、中心まで火が通っているのに肉汁はしっかり残ってジューシーで、とても冷凍チキンとは思えない味でした

クッキングヒーターの歴史を振り返りつつ工場をチェック

神戸工場には、パナソニックの歴代IHクッキングヒーターも展示されていました。最初の200V対応ビルトインIHは1990年発売の「KZ-DHC31」。ただ、一般的なコンロが高さ22cmの規格だったのに対し、この製品は高さが27cm。導入が困難だったり、価格が高いといった理由でヒットはしませんでした。パナソニックは1993年に、高さ22cmの「KZ-DHC32」を発売します。

  • 1990年発売の「KZ-DHC31」。右側にあるKZ-DHC32と比べると、高さが異なっているのがわかります

その後もパナソニックは、さまざまなIHの最新技術を投入。とくに注目したいのが2002年からの「オールメタル対応」と、2007年の「光火力センサー」搭載です。以前のIHはアルミなど特定の金属では加熱できなかったのですが、IHの加熱コイル(周波数)を約30kHzから約90kHzに高めることによって、銅やアルミといった従来は利用できない金属鍋が使えるようになりました。

オールメタル対応製品の大きな特徴は、コイル(より線)に0.05mmという極細線を使っていること。通常、IHのコイルは太さ0.3mmの線を50本縒(よ)りますが、パナソニックは0.05mmの線を1500本縒ってコイルに加工。細い線を大量に使うことで、コイルに流れる電流量を増やすことに成功しています。技術力があるパナソニックならではの加工ですね。

  • 一般的なIHコイル(写真左)と、パナソニックのオールメタルIHコイル(写真右)

  • 神戸工場では、0.05mmのより線を作る様子も見学。ここだけ見ると、まるで織機を動かしてるみたい

また、パナソニックのIHクッキングヒーターには、2種類の温度センサーが搭載されているのも特徴です。ひとつは以前からのサーミスタ。IHに接触しているフライパンなどの温度をセンシングするパーツです。もうひとつは、上記で注目ポイントに挙げた「光火力センサー」です。

光火力センサーは、離れている対象物の温度をセンシングできるパーツ。IHでの調理は「鍋を振ってはダメ(鍋をコンロから離したらダメ)」といわれますが、光火力センサーなら離れた位置にある鍋の温度もチェックし、それにあわせて自動的に火力を調整できます。

以上、今回の神戸工場見学で感じたのは、圧倒的なIHの進化。30年という期間で機能や使いやすさがここまで進化したのは驚きです。自動メニューも豊富で、多くの定番調理がほったらかし、あるいは最小限の手間で作れる点はとても魅力的。これなら、料理が苦手な家族も、楽しく手伝いをしてくれそうです。

冒頭の繰り返しになりますが、IHクッキングヒーターは、火力が強く(弱いと思っている人も多いのでは)、天板がフラットで掃除が簡単、火を使わないので安全性が高い、災害時は電気の復旧が比較的早いなど、メリットが多い調理器具。ビルトインタイプは工事が必要なので、すぐに導入できる家庭は少ないかもしれませんが、リフォームや新築のときにはキッチンの候補にぜひ入れてみてください。

【動画】神戸工場で印象に残ったロボット。複雑な工程の一部はロボットで自動化。さまざまな工夫でミスを防いでいます
(音声が流れます。ご注意ください)