東京都大田区にある日本体育大学荏原高等学校は、2年前から新入生全員にiPadを配布し、端末一人1台への対応を開始したが、今年度からは、総合的な探究の時間でもiPadだけでなく、Chromebookやwebアプリケーションを取り入れ、より効果的な探究活動の実践に取り組んでいる。

  • 東京都大田区にある日本体育大学荏原高等学校

11月中旬、授業を見学できる機会を得たので、今回、授業内容とともに、同校の取り組みをレポートする。

「実践! 探究・グループディスカッション・プレゼンテーション」(マイナビ出版、マイナビ進学編集部著」をテキストとして利用している。

iPadをはじめとするICT機器を利用して総合的な探究の時間を学習しているのは、同高のアカデミックコースの1、2年生42名だ。姉妹校である日本体育大学への進学者を多く輩出する同校において、国公立・私立難関大学への現役合格を目指すコースだ。

授業は「実践! 探究・グループディスカッション・プレゼンテーション」(マイナビ出版、マイナビ進学編集部著」というテキストを利用して行われており、生徒はiPad、Chromebookを利用してプレゼンテーション資料を作成。チーム内でのディスカッションを経て、最終的に全員の前でプレゼンテーションを行う。

今年度は、グループディスカッションを始める前に、マイナビ社員が講師となって、チーム内のそれぞれのメンバーがどういう役割を果たせばよいのかのという授業も実施された。

  • マイナビ社員によるグループディスカッションについて授業

これまで同校の総合的な探究の時間は、担任の裁量に任せられていた部分も多く、なかなか体系立てた指導が行われていなかったという。

しかし、今年度から新たなカリキュラムを作成し、3年計画のプロジェクトとして体系的な授業を開始した。

その背景について、アカデミックコース 2年生の担任である赤沼理 教諭は、「年間30時間ある中で、この時間をもう少し有効に活用して、生徒の力を伸ばすことができないかとか考えました。担任や入った学年によって内容が異なるのでは学校のアピールにもならないので、体系立てて、誰が担任になってもプレゼンテーション、ディスカッションという探究活動を実施し、自分の意思・意見をきちんと表現できる生徒、他者と協働して取り組むことのできる生徒を送り出そうと思い、今年度から力を入れてやっています。今回の取り組みをテストケースとして課題を洗い出し、いずれは学校全体に広げていきたいと思っています」と語る。

  • 授業で注意事項を説明する赤沼教諭

総合的な探究の時間を体系的に実施するにあたり同校では、目標や伸ばしたい力、評価基準、学習内容、スケジュールを定めた3カ年計画を作成した。

  • 3カ年計画のスケジュール

2学期後半の授業のテーマは、旅行のツアーパッケージを企画し、売り込むというものだ。生徒は、自分の考えたパッケージのプレゼン資料とフライヤー(チラシ)2種類を作成し、最終的には全員の前で発表する。誰をターゲットにどういうツアーを企画するかは自由だという。

  • 11月中旬に行われたアカデミックコースの総合的な探求の時間。授業はパソコン教室で行われた

同校の取り組みとしてユニークな点は、1、2年生が合同で授業を行っている点だ。授業は4人のチームに分け進められるが、各チームは1、2年生の合同チームになっている。

「1学年1クラスのためクラス替えもなく、同じメンバーで授業を行いますので、この時間くらいはシャッフルしようと思いました。学年をまたいでやることで、来年は新しい1年生にやり方が引き継がれていきます」と、アカデミックコース 1年生担任である板垣和希 教諭は合同授業の狙いを説明する。

  • 授業中の板垣教諭

プレゼン資料やフライヤーはCanvaというWebツールを使ってiPadやChromebookで作成している。Webツールを利用することで、場所やデバイスを選ばず資料作りが行えるメリットがあるという。

見学した11月中旬の授業は2時間連続で行われ、作成したプレゼンテーション資料を使って、グループ内で発表し、メンバーからフィードバックをもらうという工程を行っていた。

最初の20分間はプレゼンテーション資料の動作確認、次の40分は一人10分ずつチーム内で発表を行い、最後の20分で指摘された意見をもとに資料を修正するというスケジュールで授業は進められた。

  • パソコン教室にあるPCも使いながら資料の最終確認

  • グループ内プレゼンの様子。発表はフィードバックも含め一人10分で、タイマーを使って計測も行われた

発表後、残りメンバーは作成した資料が効果的なものになっていたか(文字の見やすさ、デザインなど)、キャッチコピーが魅力を伝えるものになっていたか、アピールポイントはどうか(ツアーに合っているか、アピールポイントが伝わる資料になっていたか)、話す内容は論理的か、発表のやり方(身振り・手振り、視線、言葉が明瞭か、間の取り方)などをチェックし、評価シートに記入する。

評価するにあたっては「具体的な改善策を挙げないまま全否定するようなことは言わない。完璧だった、良かったといった感想ではなく、必ず修正すべきポイントを具体的に挙げてアドバイスする」という注意が与えられた。

iPadの導入の効果について、板垣教諭は「iPadで休み時間や放課後のほか、自宅に持ち帰って授業の課題を作成するということが当たり前のようになってきました。中には電車の中で利用する生徒もおり、時間の使い方が変わってきました」と語り、赤沼教諭も「これまでは、PC教室が使える時間内で課題を完成させる必要がありましたが、いまでは、空いた時間を使って行うことができます。3-4時間で資料を完成させることはできないので、この環境(一人1台iPad)がなかったら、今回の取り組みは不可能だったと思います」と述べた。

「主体的対話的で深い学び、何をどのように学ぶのか、社会とどう関わるのかという観点での資質・能力が求められる時代の中で、この総合的な探究の時間での取り組みはあくまで一端であり、今後ICT機器を活用した探究活動を全ての科目、全ての授業で実施していく。」と語る赤沼教諭からは、同校が取り組む教育改革への意気込みが感じられた。