SAS Institute Japanは11月25日、年次イベント「SAS FORUM JAPAN 2020」をオンラインで開催した。ゼネラル・セッションでは、代表取締役社長の堀田徹哉氏が、「COVID-19が加速するデータサイエンス」というテーマの下、講演を行った。

  • SAS Institute Japan 代表取締役社長 堀田徹哉氏

今年は何をするにも「COVID-19(新型コロナウイルス感染症)」を抜きにしては語れない。堀田氏は、「これまで、生命・人類・文明は危機に瀕することで進化を遂げてきた。危機は進化の機会と言える。つまり、COVID-19による制約や不自由もビジネスや社会を変革する力となる」と、COVID-19を進化の機会ととらえるよう提言した。

確かに、COVID-19の影響で、われわれは日々、感染を恐れマスクが手放せない生活を送っている。経済も停滞している。その一方、物事をオンラインで進める機運が高まり、企業ではテレワークが急速に普及したことで、ビジネスマンは通勤地獄から解放され、デジタル化が加速しており、悪いことばかりではない。

こうした中、堀田氏は「さまざまな領域でデータサイエンスが加速している」として、3つの観点からその状況をひもといた。

感染症対策

データサイエンスが加速している分野の1つが「感染症対策」だ。堀田氏は「感染症対策はデータサイエンスそのものと言える。データ分析の結果によって、人々は行動を変えている」と語った。

感染症とデータサイエンスの歴史は古く、18世紀にダニエル・ベルヌーイが生み出した数理モデルが基礎となっているという。ベルヌーイは当時に流行していた天然痘を撲滅するための研究を行っていた。ベルヌーイが生み出したSIRモデルは今でも感染シミュレーションにおいて利用されている。

  • ベルヌーイが生み出した数理モデル「SIRモデル」は今でも感染シミュレーションにおいて利用されている

そして、堀田氏は「感染モデルはビジネスにも応用されている」と述べた。ウイルスは英語で「Virus」だが、この形容詞は「Viral」であり、意味は「ウイルス性の」、つまり「ウイルスのように広まる」というイメージから「Viral Marketing(口コミマーケティング)」などと使われている。

  • イベントは富永美樹さんによる司会の下、進められた

ビジネスの革新

COVID-19の登場によって、世界中のビジネスが変わった。例えば、消費行動が変わり、物理的な移動がなくなったことで、顧客の動きが読めなくなった。また、COVID-19によって生まれた変化はこれまで経験したことがないものであり、それによってもたらされる変化も激しく、需要予測が当たらない事態が生まれている。その結果、ビジネスのリスクも読み切れなくなってきている。

こうした状況について、堀田氏は「COVID-19により、ビジネスにおいて必要なものは静的モデルから動的モデルに変わった」と指摘した。同社の顧客においては、静的モデルを用いていた需要予測がコロナ禍で役に立たなくなったことから、コロナ禍の変化を踏まえて「アルゴリズムの変更」「外部データの活用」「学習設定の調整」などを行ったことで、4月から6月にかけての特殊な動きに追随することが可能になったという。

堀田氏では、コロナ禍においてビジネスを変革するための対策として、「静的モデルから動的モデルへの変更」に加え、「データサイエンスの適用範囲の拡大」を挙げた。今までは、一部の業務のみ、データ分析を行っていなかった企業も多くの業務にデータサイエンスを活用することで、課題を解決していこうというわけだ。

SASでは、COVID-19を踏まえたビジネスに対して、さまざまなソリューションを提供しているという。

  • SASがコロナ禍のビジネスに向けて提供しているソリューション群

社会の変化

いうまでもなく、COVID-19は社会にもまた大きな変化を与えている。企業ではリモートワーク、学校ではオンライン授業が当たり前になった。堀田氏は、教育における変化の例として、同社が毎年開催しているイベント「夏休み親子でデータサイエンス」を紹介した。

「夏休み親子でデータサイエンス」は、小学生の親子がデータサイエンスを経験することを目的としたもので、小学生が自らテーマを設定し、データ収集・分析・グラフ作成・プレゼンテーションを行う。その際、SASの写真がサポーターとしてアドバイスを行う。

「夏休み親子でデータサイエンス」は例年、同社のオフィスで開催されているところ、今年はオンラインで開催されたのだが、堀田氏はこれまでのイベントとは異なる点に気づいたという。まず、親子でじっくりと取り組んだためか、分析結果の質が上がったそうだ。また、移動の障壁が解消されたことから、東京近郊以外の場所からの参加者が増えたという。デジタルデバイドの要因の1つに、都市と地方といった居住地によって生じる格差があるが、オンラインでのイベント開催はこうした格差の解消につながる。

  • オンラインで開催された「夏休み親子でデータサイエンス」

堀田氏は、COVID-19がもたらした制約は既成概念を 取り払う絶好の機会であるとして、データサイエンスの高度化を武器にビジネスや社会を変革していこうと呼びかけて、講演を締めくくった。