大阪大学(阪大)は10月28日、「ナノ多結晶状態」のダイヤモンドが高速変形する際の強度を明らかにしたと発表した。

同成果は、阪大大学院工学研究科の片桐健登大学院生(博士後期課程2年、文科省委託事業特任研究員)、同・尾崎典雅准教授、愛媛大学地球深部ダイナミクス研究センターの入舩徹男教授らの共同研究チームによるもの。詳細は、米物理学会が刊行する学術誌「Physical Review Letters」に掲載された。

物質は、材料を多結晶状態にすると強度が向上することが知られている。しかし、結晶粒をナノメートル(nm)レベルまで微細化したナノ多結晶体が、高速変形下でどのように振る舞うのかは、これまで明らかになっていなかった。

そこで研究チームは今回、その効果が最大になると考えられる数十nmサイズの微結晶を焼結させ、単結晶と同等の密度に合成したナノ多結晶状態のダイヤモンド(NPD)に超高圧力を加え、その強度の分析を行った。

実験は、阪大のレーザー科学研究所が所有する国内最大級のパルス出力を備え、世界でも有数の性能を持つ「激光XII号レーザー」を用いて行われた。NPDにかけられた超高圧力は、地球中心部の圧力の4倍以上という、1600万気圧。しかも、激光XII号レーザーは、数ジュールを超えるエネルギーを1ナノ秒というような極めて短時間に集中して放つ高強度パルスレーザーである。今回は数ナノ秒にわたって照射され、その極短時間でNPDの体積が元の半分以下にまで超高速変形していく様子が観察された。

計測には光のドップラー効果を利用した独自の高精度観測システムが用いられ、その超高速の圧縮変形特性がリアルタイムで計測された。その結果、NPDは超高速変形下において、およそ208万気圧もの弾性強度を有することが確認されたのである。弾性強度とは、固体に外力が加えられた際に弾性を保てる限界強度のことだ。弾性強度以上の力が加えられると、元の形状に戻らなくなってしまう。つまり、NPDは地球中心部の圧力の半分近い力までなら、力を加えられても元の形に戻れるということである。

この208万気圧もの弾性強度は別の比較をすると、通常の(単結晶の)ダイヤモンドの2倍以上の値だ。これまで人類が調べられてきたすべての物質中で最高の強度であることが証明された。なお、NPDと単結晶ダイヤモンドにおける大きな強度の違いは、高速変形下におけるナノ結晶粒間の相互作用がより顕著に現れることだという。

NPDは日本の独自技術により誕生したものであり、今回の研究でナノ結晶間の相互作用が、強度に対して顕著に影響することが判明した。そのため、今後、超高強度材料としてさらに期待が高まる可能性があるという。また、極限環境で用いる構造材料や高性能セラミックスなど、高い強度が要求される材料の研究開発にも影響を与えることが考えられるとしている。

さらにレーザー核融合研究では、多結晶ダイヤモンドでできた球状のカプセルに燃料(水素)を入れて実験が行われていることから、初めて得られたナノ多結晶ダイヤモンドの圧縮変形特性は必要不可欠の知見としている。

  • 単結晶ダイヤモンド

    (上)左がナノ多結晶構造のイメージで、右が単結晶のイメージ。(下)今回の実験で得られたナノ多結晶ダイヤモンドの圧力-体積の関係。ナノ多結晶ダイヤモンドは、単結晶ダイヤモンドに比べ変形しにくいことがわかる (出所:阪大Webサイト)