Lenovoは、10月28、29日の2日間、同社の年次イベント「Lenovo Tech World 2020」を、オンラインで開催した。同社のヤン・ヤンチン(楊元慶)会長兼CEOによる基調講演をはじめ、140以上のセッションが用意され、同社では、「テクノロジーが障壁を取り除き、インテリジェントな変革を促進し、永続的な問題を解決するために迅速に革新する方法を探ることができる」と位置づけている。

「Using Technology to Accelerate a Smarter Way Forward (テクノロジーの活用でよりスマートな未来へ進む)」をテーマに行われた開催初日の法人向けビジネスに関する基調講演では、最初にヤン・ヤンチン会長兼CEOが登壇。

「今年のLenovo Tech World 2020は、コロナ禍によって見直されたテクノロジーに対する期待感と信頼に基づいたイベントになる。Lenovoが、ニューノーマル社会において、テクノロジーアーテキテクチャーをどのように提供していくのかを示すものにしたい」と切り出した。

基調講演の冒頭に、ヤンチン会長兼CEOは、「この1年は速くもあり、遅くもあった。コロナ禍で変化が瞬く間におきたという点では速かった。わずか数週間で多くの企業がデジタル変革を遂げた。だが、人類が身体的に、精神的に、経済的に多くの痛みと不確実性に直面し、まだそこから脱していないという点では、遅い1年である」とし、「そのなかで、テクノロジーが社会や生活に貢献していることには多くの人が同意してくれるだろう。過去のパンデミックでは、コンピュータも、インターネットも、5Gも、クラウドもなく、人は孤独や孤立のなかで生きなくてはいけなかった。テクノロジーは、課題を解決するだけでなく、希望や可能性も生み出す。人類の英知が、この混乱の時代に大きな役割を果たしたともいえ、テクノロジーが、これほど不可欠で、親しみを持てる時代はいまだかつてなかっただろう。経済活動を再起動させ、再構築する上で、テクノロジーは大きな役割を果たすことになる」と述べた。

  • Lenovo ヤン・ヤンチン会長兼CEO

続けて、「ニューノーマルは、情報テクノロジー、コミュニケーションテクノロジー、オペレーショナルテクノロジーの融合を加速させた。そして、未来のテクノロジーアーテキチクャーとして、クライアント、エッジコンピューティング、クラウド、ネットワーク、インテリジェントの5つの要素が重要になってくる」とし、この5つの要素について、レノボの取り組みをひとつずつ説明した。

5つの未来のテクノロジーアーテキチクャー

クライアントでは、ハードとソフト、サービスが融合した形のIoTデバイスの役割が重視され、従来の「コンピューティング」という概念が、「コンピューティングエニウェア」に変わるとした。ここでは、ARやVR、スマートロック、スマートディスプレイなどのスマートデバイスなどを含めたクライアントデバイスが、レノボのIoTプラットフォーム上で稼働するとともに、「ハード、ソフト、サービス、保守といったことまでを含めて、新たな概念で、クライアントを捉えることになる」と定義した。

エッジコンピューティングでは、IoTデバイスが生み出す膨大なデータを、クラウドよりも速く、リアルタイムで処理するだけでなく、低温や高温、振動といった過酷な環境でも動作することが求められる点がこれまでのコンピューティングとは異なるとしながら、「クラウドとネットワークを融合したエッジセントリックなプラットフォームがますます求められることになるだろう。そして、これは、マルチアクセスコンピューティングプラットフォームとなる」とし、この領域に向けて、レノボ独自のAIエッジコンピューティングを提供する考えを示した。

クラウドに関しては、「レノボの強みは、プライベートクラウドやデータセンターにおいて、コンピューティング、ストレージ、ネットワーキングを提供できる点にある」とし、同時に、HPCでは世界トップ500に対して、最も多くの納入実績があることを示した。

また、「多くの企業はパブリッククラウドの柔軟性に魅力を感じながらも、データセキュリティやプライバシーの観点からパブリッククラウドに移行できないという問題がある。レノボでは、顧客のデータをプライベートクラウドに保管しつつ、CAPEXをOPEXに変える支援をしていく。Lenovo TruScale Infrastructure as a Serviceがそれを実現するソリューションになる」とした。

ここでは、SAPのS4/HANA Enterprise Cloud Customer Editionとの連携について言及。

「データやアプリを、オンプレミスのセキュアな環境に置いたままで、サブスクリプションモデルが利用できるエンタープライズクラウドソリューションを提供する」と語り、ここでSAPのクリスチャン・クラインCEOがビデオで登場した。

クラインCEOは、「SAPとレノボは、お互いの製品を使用し、それを顧客に売っているという信頼に基づいた関係がある。レノボのテクノロジーやサービスを活用することで、大きな付加価値を提供できるだろう。顧客は自らのデータセンターで、オンプレミスでクラウドソリューションを利用することができる。ここには大きな需要があると考えている。この提携は、グローバルにビシネスを成長させていく上でも重要な鍵を握るだろう」とした。

ヤンチン会長兼CEOは、「レノボ自らもS4/HANAを利用して、インテリジェントトランスフォーメーションを推進したい。このIaaSの提供はレノボにとっても大きな意味がある」と述べた。

一方で、レノボは、パブリッククラウドの大手プロバイダーに対して、インフラとソリューションを提供していることを紹介。さらに、エンタープライズ企業が必要に応じて、プライベートクラウドとパブリッククラウドにつなげて、それぞれのコンピューティングパワーを管理できるようにしていること、PaaSの領域においては、レノボをひとつのデータプラットフォームと捉えたDevice Management as s Service(DMaaS)を提供し、コンピューティングやソリューションをサポートしていること、SaaSでは、ヘルスケア、リテール、エネルギーなどの業種ごとにソリューションを開発し、提供していることを示した。

4つめのネットワークでは、5Gが大きなドライバーになることを強調。より多くのIoTデバイスが接続されること、エンタープライズプライベートネットやバーチャルプライベートネット領域でも5Gが活用されることに触れながら、「レノボは長年に渡り、5Gに投資を行い、5Gに関連する主要特許を1000件以上申請している」などとした。

そして、最後のインテリジェントでは、IoTデバイスがデータを生み出し、それがクラウドやエッジで分析され、これまで以上にAIの能力が求められるとともに、より業界に関する知見が必要になることを指摘しながら、「レノボでは、バーチカル市場における特定用途のためのソリューションを提供する。これは、エコシステムを網羅したエンド・トゥ・エンドのソリューションであり、レノボが誇るインテリジェントソリューションと位置づけられるものだ。レノボが自ら開発したLeapIOT、LeapHD、LeapAIを活用して、多くの企業のビジネスをサポートし、コストを削減し、効率性の改善に貢献することができる」とした。ここでは、具体的な事例として、スマートマニュファクチュアリング、スマートエネルギー、スマートシティに取り組んでいることを紹介した。

最後にヤンチン会長兼CEOは、「新型コロナウイルスが、接続性や生産性に対するニーズを加速している。新たな社会において、より大きなインパクトを生み出すには、多くの人にスマーターテクノロジーを提供することが不可欠である。とくに社会的に弱い立場にある人に対して提供することが大切である。レノボは、中国・武漢や米ニューヨークなど、世界中の多くの場所の病院や学校、介護施設に協力できるように最大限の努力をしている。レノボがより強くなるには、コミュニティの力を反映することが不可欠だ。イノベーションは人類にとって、よりよい生活を実現し、インクルーシブであり、環境に配慮し、より良くなり続ける社会を実現するものでなくてはいけない。一緒になってニューノーマルの社会においてベストを尽くしていこう」と語って、講演を締めくくった。

インテリジェントエッジコンピューティング

続けて登壇したLenovo ヤン・リュウCTOは、「Lenovoは、当社の新たな戦略であるインテリジェントソリューションを構成するすべてのバーツを用意でき、さまざまな業界にインテリジェントソリューションを開発できるユニークなポジションにある。そのなかで、インテリジェントエッジコンピューティングについて説明したい」と述べた。

  • Lenovo ヤン・リュウCTO

Lenovoでは、ハードウェア、インフラストラクチャ、AIという3つのレイヤーでエッジコンピューティングを提供することを示しながら、「Lenovoが数多くのハードウェアを提供していることは周知の通りだが、エッジインフラでは、LECP(レノボエッジコンピューティングプラットフォーム)を提供し、業界向けアプリケーションをエッジで活用するために、ハイブリッドで、軽量なハイパーバイザーを開発。エッジAIでは、進化型モデル最適化技術を開発するとともに、AIタスクコーディネーションにより、クラウド、エッジ、クライアントをひとつのリソースプールとして扱うことができ、ライフロングラーニング技術によって、パラメータを常にアップデートができるようになる。これらによって、用途に応じたAIモデルを構築できるようにした」などと説明した。

ここでは、製造業において、ロボットによる塗装作業にAIを活用し、自律的な作業を行うだけでなく、品質検査を自ら行ったり、学習モデルにより、新たな問題に対処したりといった事例を紹介した。

一方、Lenovo ジャンフランコ・ランチCOOは、米ノースカロライナ州のWake Technical Community Collegeにおいて、リモート授業を行うために、生活が厳しい学生を対象にLenovoがタイムリーにデバイスを提供したこと、KPMGオーストラリアにおいては、ビジネス継続性の実現、新たな働き方改革、サイバー攻撃への対策などに、レノボのDaaSを活用している事例を紹介。

「新たな社会においては、5Gによるスピード、より高いパフォーマンス、モビリティ、サブスクリプションモデル、セキュリティといった要素がこれまで以上に重視されるようになる。Lenovoはそうした要素を実現できるデバイスやソリューションを提供している」とし、フォルダブルPCである「ThinkPad X1 Fold」など、同社が提供する話題のデバイスや、セキュリティソリューションを紹介した。

  • Lenovo ジャンフランコ・ランチCOO

エッジからクラウドへデータセンターの最新化

Lenovo DCG(データセンターグループ)担当EVPのカーク・スカウゲン氏は、「エッジからクラウドへデータセンターの最新化」について説明した。

ここでは、2017年にTrnasform1.0として、x86サーバーを、ThinkAgileおよびThinkSystemの2つのブランドに再編したことから切り出した。

「現在では、競合他社の3倍以上となる200以上のエンタープライズワークロードで実績を持ち、第三者機関による信頼性調査では7年連続でトップになっている。また、スーパーコンピュータのトップ500のうち、180システムでLenovoのサーバーが利用されている。さらに、バーミンガム大学では新型コロナウイルスに関する研究に利用されているが、Lenovoのサプライェーンの強みを生かして、わずか1週間で構築した」と説明。

2018年のTransform2.0ではNetAppとの協業でストレージ事業を強化し、それ以降、ストレージビジネスが61%成長し、HCIでは9四半期連続で市場を上回るビジネス成長を遂げていること、2019年のTransform3.0では、エッジサーバーを発表し、製造現場をはじめとしてさまざまなシーンで導入が促進されていることを示した。

  • Lenovo DCG(データセンターグループ)担当EVPのカーク・スカウゲン氏

また、2020年第1四半期だけで1000社以上の新たなパートナーが参加しており、「パートナーから最も信頼されるデーセンターパートナーになりたい」とも述べた。

さらに、クラウドに関しては、ハイブリッドクラウドにコミットしていることを強調したほか、世界トップ10のパブリックラウドプロバイダーのうち、7社でLenovoのサーバーが利用されており、これらの企業から高い評価を得ていること、これだけで数10億ドルのビジネスになっていることなどに触れたほか、プロフェッショナルサービスにおいては、全世界で170%の成長を遂げていること、Lenovo TruScale Infrastructure as a Serviceが顧客から大きな注目を集めていることに言及。

「Lenovo TruScaleは、オンプレミスとクラウドのいいところ取りをしたものであり、ゲームチェンジャーになる存在だ。そして、SAPのS4/HANA Enterprise Cloud Customer Editionとの連携は、まさにエキサイティングなものになる」などと述べた。

続けて、Lenovoが、すべての業界を対象にした調査において、世界15位に評価されているサプライチェーンを持ち、新型コロナや関税の問題があっても、92%が予定通りの期日に供給できたこと、ODM+の仕組みにより、垂直統合型の安定的な供給体制を実現すること、2021年には米ノースカロライナ州に最大の自社工場の稼働によって、欧州、中東、アフリカへの供給を強化することも示した。

そして、「Lenovoは、世界最高のデータセンターサプライチェーンおよびロジスティクスを実現している」と自信をみせた。

一方で、DreamWorksと5年間のパートナーシップを新たに結び、アニメ作品の制作にThinkSystemなどを利用。コロナ禍において、機器の導入を進め、アーティストがリモート環境で作業を行っていることも紹介した。

スカウゲン氏は最後に、「Lenovoはニューノーマル時代に向けてさまざまなソリューションを提供している。エッジやクラウド、サービスを提供し、グローバルサプライチェーンを拡大し、製造体制も垂直統合している。こうした体制を持っているからこそ、顧客のアジリティを高めることができる。今後も、顧客からの信頼を高め、パートナーとの連携を強化していく」と述べた。

インテリジェントソリューション

Lenovo President, Commercial IoT,担当プレジデントのジョン・ゴードン氏は、インテリジェントソリューションについて説明した。

「Lenovoが目指すゴールは、エンタープライズソリューションを、PCを購入したり、保有したりするようにシンプルにすることである。PCは、さまざまなサプライヤーが作った部品で構成されており、それを意識せずに使用している。だが、現在のエンタープライズソリューションは、PCの部品をひとつずつ検証し、ビジネスに最適化するようにカスタマイズしているようなものだ。そのために、複雑であり、コストがかかり、リスクが高く、遅いという状況が生まれている。そうした課題を解決できるのがインテリジェントソリューションになる。企業は本業に集中できるようになる」とし、具体的な事例として、小売業界のパートナーとともに開発した「Trunkey Think IoT Store Solution」を提供していることを示し、これだけで顧客サービスや在庫管理などに活用できるとした。

  • Lenovo President, Commercial IoT,担当プレジデントのジョン・ゴードン氏

最後に登壇したLenovo DCG APAC地域担当プレジデントのスミア・バティア氏は、この基調講演を総括し、「AIがテクノロジーの未来を再構築しており、企業はAIをよりシンプルに利用する必要がある。また、働き方や学び方が変わるスマートノーマルの社会においては、データが新たな通貨となり、ITの意思決定者はバンカーとしての役割を担うことになる。さらに、デーセンターの役割を再定義し、エッジや、クラウドにモダナイズし、サービス主導の変革に取り組むことが大切であり、IoTのバリューをビジネスに生かすためには、スマートなバーチカルソリューションを活用することが重要である。IT投資はコストではなく、競争優位につながる投資でなくてはいけない。企業の未来につながる投資でなくてはならない」と語った。

  • Lenovo DCG APAC地域担当プレジデントのスミア・バティア氏