自宅に壁一面のマンガ棚を持ち、週刊マンガ雑誌を8冊購読、新刊チェックや新規開拓も欠かさない――。そんな、筋金入りのマンガ好きである、お笑いコンビ「NON STYLE」の井上裕介さん。そのマンガフリークぶりを買われて、電子コミックサービス「LINEマンガ」の特命編集担当に就任した。
特命編集担当とは、特別企画「LINEマンガ 特命編集部」にてマンガ家とともに作品を創り上げるマンガ編集担当のこと。実際に井上さんは、マンガ家と編集者とともに編集会議へ参加し、アツい議論を交わした。編集会議の様子はLINEマンガ公式YouTubeにて公開中だ。
井上さんが担当したのは『コッペくん』『ムラサキ』『りさこのルール』『宇宙検閲官』の4作品。プロの編集者をうならせるほど、熱の入った打ち合わせを繰り広げた。
今回、編集会議直後に、ガチ討論の熱も冷めやらない井上さんを突撃取材。「LINEマンガ 特命編集部」の企画の感想や、井上さんの感じるWEBマンガの強みと弱みなどについて語ってもらった。
「縦スクロールマンガを読むのは初めて」で臨んだガチンコ編集会議
自身のYouTubeチャンネルで自宅のマンガ棚を公開し、人気コミック『鬼滅の刃』について語るなど、マンガ大好き芸人として知られる井上さん。しかし、特命編集担当のオファーを受けたときは「うれしさ半分、自分でいいのかという気持ち半分」だったという。
「やっぱり、マンガが好きですから素直にうれしかったです。でも、マンガが好きな芸能人って、僕のほかにもいっぱいいらっしゃるじゃないですか。それに、マンガ家さんにとっては、作品を描く時間を割いて参加してもらう企画なんで、もし自分の意見から何も得ることがなかったら、時間を無駄にしてしまう、どうしようって(笑)」
ポジティブなキャラクターで知られる井上さんらしくない慎重な反応が、マンガ愛の“ガチさ”を感じさせる。
「編集者とマンガ家って、僕たちの世界でいうと放送作家と芸人のような関係。おもしろい芸人と優秀な作家が組んで初めて、掛け算的な笑いが生まれるのと同じように、僕が真剣に作品と向き合うことでマンガ家さんたちの創作の起爆剤になればうれしいな、という思いで引き受けました」
真剣に作品と向き合う――。そう覚悟を決めた井上さん。編集会議にかける想いは熱く、会議の前には担当する4作品を隅々まで読み込んだ。初めて「編集者」の視点で読んだマンガには、新しい発見もあった。
「読者として、ただただ楽しんで読んでいたときには思わなかった、『こんな演出ほしいな』『ここでこんな風に遊べばいいのに』という考えが浮かんできました。同時に、人気作品はよく考えて作られているな、という発見もありましたね」
編集者としての腕前は、『宇宙兄弟』や『ドラゴン桜』といった大ヒット作を手掛けたコルク代表・佐渡島庸平氏から「本当にすごい。編集者としてやれる」と褒められたほど。編集会議の動画からは、次から次へとアイデアが出てくる様子が伝わってくるが、『コッペくん』や『りさこのルール』で用いられているWEBマンガ特有の「縦スクロール」には、今回初めて触れたのだという。
「実は、縦スクロールのマンガって読んだことなかったんですよね。だから、どんなルールがあるのか全然知らなくて。でも、読んでいくうちに『これって写真でいうところのパノラマ、映像でいうパンってやつやな』ということが分かってきました。つまり、写真や映像としては、馴染みのある表現のはずなんです。だから、今までの右から左、横方向に読んでいくマンガよりも、映画やテレビに近いような演出ができるんじゃないかと。それが『りさこのルール』の編集会議で話したことにつながっています」
真摯なまでのマンガ愛と柔軟な発想に基づいた井上さんのアイデアは、編集会議を通して作品の方向性に影響を与えた。特に影響が大きかったのが、『コッペくん』と『りさこのルール』だ。
「1回目の会議のときに、『りさこのルール』のつのだふむ先生に、『フルカラーだからこそキメのシーンを白黒にしてみたら?』とか色んなこと言ったんですけど、2回目の会議のときにほとんど全部のアイデアを反映してくださいました。僕自身はただのマンガ好きやし、作る才能があるとは思ってないんですけど、自分のアイデアがマンガに反映されるのを見られたのは、すごくうれしかったですね。『コッペくん』でも、キャラクターの人となりや、その裏側を見たいという話をしたら、そういうストーリーを描いてくださって。ただ、ひとつ気になっているのが、この企画が始まってから『ムラサキ』の連載がピタッと止まっちゃったこと。この会議に時間取られたり、僕が色々言ったりしたせいなのかなと……(笑)」