「a1」では日本のニーズに合わせシンプルさを重視

―― 現時点(2020年9月8日に取材)での最新5Gスマートフォンは、au向けの「a1」となります。こちらはどのような狙いを持って開発されたのでしょうか。

山内氏:ZTEのポジショニングとして、ミドルからエントリーの端末を中心にキャリアへの提案を進めていました。ハイエンド以外のラインナップも充実させたいKDDIさんの戦略にマッチしたと考えています。

また、a1はKDDIさんに初めて採用されたスマートフォンとなることから、5Gを皮切りにZTEの存在価値を高めたいという思いもあり、価格戦略的にもかなりリーズナブルに仕上げています。高い品質を維持しながら、価格面でチャレンジしたことも魅力として感じてもらえたのではないでしょうか。

  • auから販売されている「a1」。チップセットにミドルハイクラスの「Snapdragon 765G」を搭載するなどして、ハイエンド機が中心だった5Gスマートフォンの中で、比較的低価格を実現している

―― どのようなチャレンジが低価格につながっているのでしょうか。

王氏:実はa1は、当初からKDDIさんが求める品質に合わせて設計・製造しています。途中でa1をベースに、チップセットなどを変更して中国向けの「Axon 11 SE 5G」を開発していますが、こちらもある意味で日本発のモデルといえるものなのです。

―― a1とAxon 11 SE 5Gではどのような点が違っているのでしょうか。

王氏:日本の皆さんは慎重な傾向がありますし、しばらくは5G端末で利用するサービスの大半は4G向けのものになりますから、a1はシンプルでちょうどいい、ユーザーを驚かせることなくスムーズに受け入れられることを原点として設計しています。

一方、中国ではスマートフォンにゲームを求める傾向が強いことから、Axon 11 SE 5Gではチップセットを変更してコストダウンを図るとともに、液冷による冷却機能や音響など、ゲーミングに関連した機能を強化しています。

  • 中国向けに販売されている「Axon 11 SE 5G」は、a1をベースにしながらチップセットをメディアテックの「Dimensity 800」に変更するなどして、一層の低コスト化とゲーミング機能の強化を図ったモデルだ

王氏:単に価格を下げるためにチップセットなどを選んでいるわけではありません。その市場における顧客の嗜好に応じて部材を選定し、適切なコストパフォーマンスを発揮できるようにしているのです。

山内氏:a1は価格的にも飛びぬけた機能を備えているわけではなく、当たり前のことを当たり前にすることに力を入れています。例えばインカメラは、日本のユーザーがSNSでの利用に特化していることから、それを見据えて高い性能のものを乗せていますし、KDDIさんが「au PAY」に力を入れていることから、背面の指紋センサーからauのサービスを呼び出しやすくする機能なども盛り込んでいます。

―― a1の反響はいかがでしょう。

山内氏:au PAYに関連した機能を搭載していることもあり、当初からau PAYのキャッシュバックキャンペーンなどを実施してアピールしてきました。コロナ禍もあって5Gのマーケットが思うように立ち上がっていない中でのスタートだったので、販売は苦戦すると思っていたのですが、現状を考えるとKDDIさんのローレンジモデルとしては結果が出ていると思っています。キャンペーン終了後も変わらず購入していただけてますね。

―― コロナ禍の状況では開発も影響を受けたと思います。

山内氏:通常は日本と中国を往復しながら、担当者や開発者が顔を合わせて開発を進めるのですが、それがほぼオンラインと郵送によるやり取りになってしまいました。影響がなかったというとウソになりますね。

石氏:特に2020年3月から5月にかけては、中国での感染拡大でテスト機関が閉鎖したり、日本での緊急事態宣言で思うように作業が進められなかったりしました。オンラインでのノウハウをフルに活用して開発陣ががんばって対策し、なおかつKDDIさんの協力も得てスケジュールに遅れが出ないよう、なんとか進行ができたというところです。現在はコロナ禍の影響はある程度落ち着いてきていますが、特に物流は今なお大きなダメージを受けています。完全に回復したとは言えず、予断を許さない状況が続いていますね。