2020年、創業110周年を迎えた内田洋行。2020年7月期の決算では、対前年度比で売上は21%増、営業利益 経常利益はともに88%増と業績は好調だ。好調を支えるのは、教育ICT事業だ。そこで、大久保社長に、現在の教育ICT市場の状況や今後の取り組み、GIGAスクール構想への対応などを聞いた。

  • 内田洋行 代表取締役社長 大久保昇氏

    内田洋行 代表取締役社長 大久保昇氏

GIGAスクール構想に対する期待をお聞かせください。

大久保社長:70年以上も教育事業を展開し、教育の情報化に長年携わってきた内田洋行にとっては、この分野に緊急経済対策とコロナ補正によって、事業総額6,000億円を超えるというのは驚くべき話です。ぜひ各自治体で成功させて、教育現場のICT活用を進めていただきたいと思っています。ただ、できれば、通常予算でやってほしかったという思いはあります。景気対策だとそのときだけですので、3年おきごとないし5年ごとに予算化していただければ、さらに教育現場で起こっている課題を解決し、試行錯誤をしながら進化していけるのではないかと思います。

GIGAスクール構想において、御社の果たす役割を教えてください。

大久保社長:内田洋行グループでは、PCのハード提供以外に、環境整備全体のプロジェクトマネジメント、ネットワーク構築、個別設計、教育コンテンツ配信サービス「EduMall」や授業支援アプリケーションを自社でつくり、周辺機器の一部も提供しています。サポートのメンテナンス保守やICT支援員の派遣、先生へのICT研修も行っており、ここまでやっている会社はほかにないと思います。わが社は昭和21年から計算尺によって教育業界に進出し、科学教材やコンピュータの提供も行ってきました。歴史的にずっと教育の情報化に携わっています。

教育ICT分野における、御社の強みは何でしょうか?

大久保社長:1点は長くやっている点です。1人1台については2008年にインテルと実証研究の記者発表を始めてから、さまざまな取組みをして12年経っています。2010年には総務省の実証事業「フューチャースクール」や2011年からは文科省の「学びのイノベーション事業」に参画し、全国20校のデジタル教科書等を活用した教育効果について調査分析を行いました。2014年には全国最大規模の東京都荒川区様の1万台の1人1台環境整備も担当し、いずれもICT環境の構築、運用、利活用について検証を行い、現場で浸透させるためのICT支援員等のノウハウも得ています。補正予算に関しては、1990年以降、小さいものを含めると5つほどあり、それらを踏まえて今回のGIGAスクール構想の整備となっています。PC導入後の5年後に「IT化を進めてよかった」といわれるように、お客様と一緒に進めていけるのが、私どもの110年培ってきたDNAだと思います。大事なのは、ブームではなく知識を伝える教育から、知識をどう使うかを考える教育への転換を促すために、タブレットなどのハードの供給や教育コンテンツの提供などパッケージでICT化を後押しする。5年後にはPCやタブレット自体が目立たないように、単なるこどもたちの道具になるように溶け込むことだと思います。こうなることによって教育を変えようということを、これまでずっと提唱してきました。

2つ目はPCのキッティングです。教育ICTではPCキッティングが非常に重要で、学校現場全体に多くのPCが入ってくると先生だけで行うのは大変です。弊社のグループ会社であるウチダエスコではこれまでずっと大量のパソコンやタブレットを初期セットアップするPCキッティング業務からメンテナンス保守などのライフサービスサイクルを行っています。今年の3月には、船橋に月間2万台のPCのキッティングを行うことができる「ESCO船橋-BaySite(エスコフナバシ-ベイサイト)」を稼働させましたので、納入時の細かな対応ができようになりました。

3つ目は配信プラットフォームです。教育コンテンツ配信サービス「EduMall(エデュモール)」という日本で一番大きなコンテンツ配信プラットフォームを業界に先駆けて、約20年前からやってきましたが、今年の3月にこれまででもっとも大きな改変を行い、学習者用のデジタル教科書、新学習指導要領と1人1台の時代に対応しました。これにより、さまざまなアプリを提供できる良いプラットフォームになったと思います。現在の導入自治体数は373自治体、6,102校となりました。

GIGAスクール構想における、課題は何だとお考えですか?

大久保社長:今回のGIGAスクール構想の補助金のもっとも大きなものは、コロナ補正のタイミングで出ています。日本はこの分野で海外に比べ遅れている面があると思います。例えば、韓国は10-20年程度進んでいると思います。格差問題が今回の予算で一気に解決できるかといえば、そうではありません。今回は環境を整備する部分と、先生や生徒がいかに使いやすいものを導入できるか、道具として使っていけるかという2つを同時にやろうとしています。また、学校は今後、新型コロナウイルスによる休校で遅れた授業を取り戻さなければなりません。GIGAスクール構想への対応は、現場からすれば戸惑いもあると思います。ただ、学校側とすればやるしかないので、言い換えれば、いいチャンスかもしれません。われわれはこれに向け、これまで培った全国で対応するICT支援員の活用やヘルプデスクのサービスなどを通して、円滑に授業を進めていただくための支援を行います。授業の進め方や効果的なICTの使い方、授業全体の設計などを行い、現場の負担を減らしながら、一緒にステップアップしていければと思っています。

また、1人1台の環境になったときには、PCやタブレットを自宅に持ち帰るようになっていくと思います。問題は、自宅のネット環境です。大学も現在オンラインでやっていますが、自宅に回線を引いている人はいいですが、スマホのデザリングの場合は、容量を超えたら授業も聞けないということになってきます。このあたりが課題になると思います。平均すると、5-6%の家庭で環境が整っていないようです。

GIGAスクール構想に対する御社の施策をお聞かせください。

大久保社長:一昨年から、営業やSEの人数を増やしています。また、学校関連以外も含めてIT開発部隊を統合しましたので、そういう意味ではGIGAスクール構想向けの体制強化になったと思います。そして、データ活用と見える化の製品開発を強化しており、EduMallのほか、マルチOSやクラウド対応などもスピード早めていきます。データ活用の部分では、内田洋行教育総合研究所が、文部科学省の100 万人規模で一斉に実施する「平成31年度(令和元年度)全国学力・学習状況調査事業」や「次世代学校支援モデル構築事業」や渋谷区の校務系と学習系システムを連携させる「スマートスクール実証事業」を受託していますので、その経験を活かしながら製品やサービスを増やしていく予定です。

8月から新年度が始まりましたが、今年度の事業方針をお聞かせください。

大久保社長:今年度は、中期計画の3年目に入りますが、これまではWindows 7のOSやGIGAスクール構想、首都圏のビル需要など、伸びる要素がありました。教育ICTについては、端末が整備されたあとのセキュリティ、より使いやすくするための追加投資の部分をしっかりやっていきたいと思います。教育ICTは、5年後にお客様を後悔させないように責任をもってやっていきたいと思います。

首都圏のビル需要に関しては、最適な働く場所を提供できるようにやっていきます。そのために、オフィス構築とICT部門の連携をさらに深め、ICTで補完された職場環境を創っていきたいと思います。クラウド型会議室運用管理システムやMicrosoft365の導入をはじめ、ネットワークのセキュリティー監視など柔軟な働き方に対応したサービスを強化する。これらをやることで、アフターコロナの市場につながっていくと思います。2025年以降、少子化が懸念されていますが、新型コロナウイルスへの対応が少子化への対応を早めたように思います。110周年を迎えた本年も、社会構造の変化に対応した日本の新たな社会づくりやSociety5.0に向けたIT人材の育成に貢献していきたいと思います。