宇宙航空研究開発機構(JAXA)は今年度に予定していた大型ロケット「H3」の初打ち上げを、来年度に延期すると発表した。開発中の主エンジンに燃焼試験による破損が見つかり、技術上の課題が明らかになったため。搭載予定だった地球観測衛星の打ち上げも延期となる。

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    H3ロケットの想像図(JAXA提供)

JAXAによると、今年5月に種子島宇宙センター(鹿児島県)でH3の第1段エンジン「LE9」の燃焼試験を行い、その後の点検で燃焼室の内壁に最大幅0.5ミリ、長さ1センチの穴が計14カ所見つかった。またタービンの羽根のうち2枚にひびが入っていた。「技術的課題への対応を確実に行う」として、初号機の打上げを来年度に、来年度を目指していた2号機を2022年度に延期することを決めた。今月11日発表した。

LE9の燃焼試験は17年から段階的に実施。今年2月からは実機と同等の設計と工程で製造した試験用エンジンについて、厳しい条件での性能を確かめる試験をしており、今回が8回目だった。燃焼室の穴は、高温で作動させたことで内壁が設計値以上に高温になって生じたとみられる。タービンの羽根のひびは、振動が増幅していく「共振」が原因と考えられるという。

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    LE9エンジンの燃焼試験の様子。今年2月のもの(JAXA提供)

H3は現行のH2A、H2Bの後継機で2段式。LE9は液体水素と液体酸素を燃料とする点で現行機と同じだが、第2段で用いられてきた日本独自の「エキスパンダーブリード式」という仕組みを第1段に初採用する。従来の「2段燃焼式」に比べ、燃費をわずかに犠牲にする代わりに部品数を大幅に削減し、仕組みや制御を簡素化できるとされる。H3の低コスト化の切り札となる技術として注目されている。

延期により、初号機が搭載を予定している先進光学衛星「だいち3号」、2号機が予定する先進レーダー衛星「だいち4号」の打ち上げもそれぞれ延期となる。

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