企業に向けてオープンソース・ソフトウェアとクラウドサービスを提供するプライム・ストラテジー。同社は新型コロナウイルスの影響から全社でのテレワークに踏み切り、現在も継続している。さらには、大手町に構えるオフィスを引き払い、全社員が会社に集まる場まで撤廃することを計画している。今回、同社の代表取締役を務める中村けん牛氏に話を聞いた。

  • プライム・ストラテジー 代表取締役 中村けん牛氏

Teamsの活用で「仲間と働いている」という雰囲気を醸成

プライム・ストラテジーは新型コロナウイルスの感染拡大を受け、今年3月下旬から、希望者を対象にテレワークを実施、ゴールデンウィーク明けからは原則として、全社員テレワークを利用することにしたという。

現在でも、テレワークの利用は続いているが、新型コロナウイルスが登場する前と変わらず、ビジネスは進められているという。

ゴールデンウイークから完全テレワークとなると、ここ3カ月以上、上司、部下、同僚と直接顔を合わせていないことになる。テレワークにおける課題の1つとして、挙げられるのがコミュニケーションだ。会社にいれば、気軽に話せることも、テレワークで離ればなれになると「わざわざチャットで言うほどのことでもないか」とそのままになってしまうことはないだろうか。また、さまざまな調査から、テレワークによって孤独を感じている人が多くいることもわかっている。

同社は、テレワークにおいてどのようなコミュニケーションをとっているのだろうか。コミュニケーションツールとしては、Microsoft Teamsを導入しているそうだ。Teams内には、部ごとのサイトが立ち上がっており、出社したらここに入り、ミュートのまま滞在しているという。Teams内にいるので、用事がある時は話しかけることで、すぐに会話ができる。

こうした仕組みによって、実際に隣に人が座っていなくても、会社にいるような感覚で働くことができるとのこと。1人で働いているのではないことを感じることができるという点で興味深い仕組みだ。

オフィスの契約解除は想像以上に難しい

完全テレワークに進んだプライム・ストラテジーだが、今年11月には大手町のオフィスを退去することが決まっている。会社として必要なモノを残すため、もう1つのオフィスは残すが、大手町のオフィスの10分の1の広さしかないため、全社員が集まることは難しい。つまり、11月以降、自分の会社に全社員で集まることはできなくなるというわけだ。

「オフィスを退去する」とサラッと書いてしまったが、中村氏は「オフィスの返却は想像以上に大変です」と話す。というのも、オフィスは定期借家契約の下、借りるケースが多いのだが、この契約方式は特約がない場合、原則として中途解約ができない。

つまり、契約期間より早くオフィスを解約したい場合は、残りの契約期間分の賃料を支払わなければならない。洋服の返品と違って、オフィスの賃料は月間数百万に及び、これが数年分となると、膨大な金額になる。そのため、「全社でテレワークを導入するから、オフィスはもう必要ない」となったとしても、簡単に解約はできないはずだ。

「テレワークの拡大で、『オフィスを縮小したい』『オフィスを借り換えたい』という企業は多いと思います。しかし、定期借家契約に縛られて、思うように動けないのが実情ではないでしょうか」と、中村氏は話す。

同社は昨年、契約の更新を迎えたのだが、その際に特約を入れていたので、今回、大きな支出をすることなくオフィスの解約にこぎつけることができたそうだ。

中村氏は、「新型コロナウイルスが登場したことで、全世界で、テレワークに関するプロトコルが統一されました。年齢、職種に関係なく、テレワークができることが証明されたことで、テレワークの利用が当たり前となりました。Web会議は参加者の1人でも参加できないと、成立しません。それが今では、誰もがWeb会議に参加できるようになったのです」と話す。

AI社員も登用し、生産性向上を加速させる

あわせて、同社ではAIを活用することで、業務の生産性向上を図っている。AIは中村氏が自ら開発したもので、「鬼丸デイヴィッド」という名を与えられ、同社の正社員として採用されている。社員番号もあるそうだ。ちなみに、「鬼丸デイヴィッド」氏はTwitterにアカウントを持っている。

  • 「鬼丸デイヴィッド」氏はTwitterにアカウントを持っている

同社では現在、社内のタスクの多くがAIやITによって自動化されており、その結果「全従業員が一堂に会する必要がなくなりました」と、中村氏はいう。

また中村氏に、AIに名前を与え、社員に加えた理由を尋ねたところ、以下のような答えが返ってきた。

「AIが本格的に普及するには、あと数年はかかるでしょう。その過程において、AIの人権について考える必要があると思います。AIは人間を淘汰する存在ではなく、人間と切磋琢磨する仲間なのです。そこで、Aiを擬人化することで、その立場を明確にしました」

近年、AIが注目を集めるにつれ、「AIは人間の仕事を奪う脅威」として見る向きもある。中村氏は、AIは人間を脅かす存在ではなく、人間の不得手なことを代わりにやってくれる、共存すべき存在だという。

新型コロナウイルスによって、われわれはさまざまなモノを失ったが、新たな視点を得たようにも思う。テクノロジーを活用すれば、コロナ禍を乗り切ることができる――中村氏の話を聞いて、そんな思いを強くした。