神戸市とNTT西日本、PACkageは、「withコロナ時代におけるeスポーツによる地域課題解決に向けた連携協定」を締結しました。
この協定では「eスポーツへの理解促進、今後の可能性を考えるWEBセミナーを開催」「高齢者や子供向けのeスポーツを活用した実証事業」「eスポーツコミュニティの醸成・関連イベントとの連携」「eスポーツの魅力や可能性を伝える動画による発言」といった4つの取り組みを展開する予定。eスポーツを新たなコミュニケーションやビジネスの手法として、その可能性を考えていき、最終的には地域課題解決や産業振興につなげるべく、さまざまな実証実験を行い、実装していくそうです。
この事業は、神戸市会の特別委員会で「eスポーツによる街の活性化」について話合ったことがきっかけでスタートしました。
ゲームが子どもに与える悪影響や依存症などネガティブなリスクについて、多くの人から意見が出ましたが、それらを乗り越えていくことこそが社会の役に立つという結論になり、プロジェクトがスタート。どういったアプローチでeスポーツを事業化していくか考えはじめた矢先、コロナ禍に見舞われたことで、「eスポーツとICTによって、withコロナの課題を解決する」というテーマが導き出されたそうです。
実証実験では、高齢者施設、介護施設でのeスポーツ導入を検証します。それらの施設は、コロナ禍において、密になりやすいレクリエーション活動を休止しているため、ほとんどコミュニケーションが取られていません。
また、家族との面会機会も激減。オンラインでコミュニケーションを取れるeスポーツやゲームを活用することで、その懸念を払拭するとともに、新しいコミュニケーションの機会の創出を目指します。
ほかにも、ゲームをプレイすることで、高齢者の操作ログやバイタルデータを取得し、健康増進につながるかどうかの可能性も検証。それらのデータは、オンライン環境下での健康相談などにも活用されるそうです。
実証実験は2020年中に開始する予定。協力する介護施設は公募で決定しますが、すでに興味を持っている施設もあるそう。2021年度には、実証実験で得られたデータを元に事業化する予定です。
現状では、事業化後のエコシステムがしっかりと構築されているわけではないですが、高齢者施設において、eスポーツコミュニケーションの有無が、その施設のバリューとなり得ることを期待していると言います。
従って、実証実験はNTT西日本による持ち出しで行われるものの、事業化後は、入居者ではなく、施設事業を運営している企業の負担を予定。ただ、運営企業がeスポーツの導入に関してバリューを感じられるかは、今後の活動によって大きく変わるでしょう。
今回の連携協定について、神戸市企画調整局つなぐラボ特命係長 の長井伸晃氏は「神戸市は新興企業にオープンで、実証実験がしやすい土壌にあります。ゲームやeスポーツを経験することで、施設入居者の健康の向上につながる可能性もあり、行政としては十分な効果でしょう」と考えを述べます。
また、今回の実証実験や協定がゲームではなく、「eスポーツ」であることにも意味はあると言います。それは、施設内で対戦し、コミュニケーションを取るだけでなく、離れた家族との対戦もできるからです。
採用するゲームはクラウドのものを想定。施設側にはPCの設置を検討していますが、家族側には、家庭にゲーム機やPCがなくても、スマホなどで楽しめるようにする予定です。
eスポーツの醍醐味のひとつである「観戦文化」も今回の実証実験に入っています。施設内もしくは施設同士の対戦を動画として配信することで、家族が入居者のプレイする姿を見ながら、応援できるわけです。ゲームのプレイだけでなく、観戦などでも、入居者同士、もしくは家族や別の施設とコミュニケーションできるツールとして期待が持てそうです。
さらに、バイタルデータを活用したオンライン健康相談では、遠隔で職員やケアマネージャーが、利用者の心拍数、体温、発汗量、操作ログなどを照らし合わせ、健康管理をします。これも、オンラインゲームに必要なインフラがあってこそだと言えるでしょう。
NTT西日本兵庫支店長の川副和宏氏は、「eスポーツの可能性を広げて行きたいと考えています。高齢者だけでなく福祉、医療などに発展させたいですね。ゆくゆくは教育の分野にも繋げることができれば」と展望を述べます。
実証実験の結果によっては、高齢者施設だけでなく、被災地での運用なども検討。ストレスの溜まる被災地の避難場所において、eスポーツコミュニケーションが可能となれば、避難場所でのエンターテインメントとして楽しめるようになるかもしれません。
PACkage代表取締役の山口勇氏は「今回行う実証実験の結果は、大学へフィードバックし、大学にeスポーツのことを認めてもらうきっかけにもなってほしいですね。たぶん、神戸市が初となると思いますので、そこもアピールしていきたいです」意気込みを述べました。
eスポーツを高齢者施設に導入することで、コミュニケーションの機会を創出するだけでなく、新たな生きがいになる可能性がありますし、フレイル予防(年齢を重ねることによる身体の衰えや外出の機会損出などの予防)にも期待できるのではないでしょうか。
eスポーツやゲームは、高齢者にとってハードルの高いものと思われがちですが、世界には平均年齢70歳を超えるeスポーツチームもありますし、日本には90歳を超えるゲーム動画配信者がいます。
むしろ、フィジカルに依存しないゲームは、ある意味高齢者向けのコンテンツとも言えるでしょう。eスポーツの新たな活用方法とコロナ禍によるさまざまな機会損失を補える手段が見つかることを期待して、今後のプロジェクトの行方を見守っていきたいところです。