日本IBMは5月18日、オンラインでポストコロナを見据えたブロックチェーンの戦略について記者説明会を開催した。

日本IBM ブロックチェーン事業部長の髙田充康氏は「ポストコロナにおいてはインテリジェントなサプライチェーンが重要になる。コスト削減や省人化、顧客との関係強化、リスク態勢強化など人が動けないことを前提にした業務体制の強化が不可欠となる。透明性を担保することで全体を見える化しすることに加え、バリューチェーンの迅速化、データ信頼性をはじめ、ブロックチェーンの果たす役割は大きい」と語った。

  • 日本IBM ブロックチェーン事業部長の髙田充康氏

    日本IBM ブロックチェーン事業部長の髙田充康氏

  • IBMのブロックチェーンソリューションの最新動向

    IBMのブロックチェーンソリューションの最新動向

今回、同氏は「国際貿易」「食の信頼」「サプライヤー調達」に関連した同社のブロックチェーンのSaaSを紹介した。

国際貿易では、デンマークのMaerskと共同開発した国際貿易のデジタル化を目指すプラットフォームである「TradeLens」を提供している。2018年末から本番運用しており、輸出から輸入の全工程にわたる荷動き・貿易手続きを可視化し、パッキングリストや船荷証券、輸出書類、原産地証明書、輸入書類などデジタル化した累計貿易書類は900万枚以上にのぼるという。昨年には、ONEや井本商運など国内の主要貿易事業者も参加を表明している。

  • 「TradeLens」の概要

    「TradeLens」の概要

食の信頼については、ウォルマートとの取り組みから発展したプラットフォーム「IBM Food Trust」を提供しており、リコール追跡や証明書管理、鮮度管理、消費者向けモバイルアプリへの情報提供などを実現。参加事業者数は200以上、登録商品数は1万7000、取引記録数は2000万超、トレース数は75万以上に達し、国内では小売り・食品メーカーの検討に加え、複数のSIerが評価しているという。

  • 「IBM Food Trust」の概要

    「IBM Food Trust」の概要

また、同プラットフォームを全産業のサプライチェーンに適用できるにように汎用化した「IBM Blockchain Transparent Supply」を提供し、コーヒーのフェアトレードを実現するためのプラットフォームとして採用されいるほか、全米のタイヤ卸を中心に立ち上げており、今後は医薬やワイン、アパレルなどにも展開していく。

  • 「IBM Blockchain Transparent Supply」の概要

    「IBM Blockchain Transparent Supply」の概要

サプライヤー調達に関しては「Trust Your Supplier」を提供し、購買者がサプライヤーと新しく取引を行う際、通常は信用審査をはじめ書類で審査に4~6週間を要することから、財務リスクやサステナビリティへの取り組みなどを検証しつつ、迅速にサプライヤーとの取引開始を数日で可能としている。

同プラットフォームを活用した新型コロナウイルス緊急対応として8月末まで無償で提供する「IBM RAPID Supplier Connect」を提供し、緊急時のサプライヤー調達と在庫を可視化し、新たに医療物資を提供するサプライヤーの発掘と迅速かつ確実な在庫状況の確認ができるという。

  • 「Trust Your Supplier」の概要

    「Trust Your Supplier」の概要

これらのSaaSを実現しているのが「IBM Blockchain Platform」だ。髙田氏は「直感的なインタフェースで簡単にブロックチェーンのプラットフォームを構築することができ、開発ツールとシームレスに連携している。2017年の提供開始当時はIBM Cloudのみで提供していたが、ブロックチェーンはコンソーシアムを立ち上げてメンバー間でプラットフォームを作るため好みが各社によって違うことから、われわれではRed Hat OpenShftやKubernetesの戦略に合わせて、昨年にアーキテクチャを全面的に刷新し、マルチクラウドの第2世代のIBM Blockchain Platformを提供している。いろいろなクラウドベンダーがブロックチェーンのプラットフォームを提供しているが、マルチクラウドに完全対応しているのは唯一だ」と説明した。

  • 「IBM Blockchain Platform」の概要

    「IBM Blockchain Platform」の概要

また、日本IBM 取締役専務執行役員 事業開発&テクニカル・エキスパート本部の三澤智光氏は「IBM Blockchain Platformをコンテナ化し、OpenShift対応した。これにより、Red Hatのエコシステムから提供されるサービスを利用したサービス開発が容易になり、あらゆる環境においてサービスそのものをデプロイし、ロックイン環境のない形でブロックチェーンソリューションを開発できる」と話す。

  • 日本IBM 取締役専務執行役員 事業開発&テクニカル・エキスパート本部の三澤智光氏

    日本IBM 取締役専務執行役員 事業開発&テクニカル・エキスパート本部の三澤智光氏

国内企業ではグルーヴァースがウェルネスをテーマにしたポイントシステム、オートバックスセブンはC2C(Consumer to Consumer)中古車売買システムの基盤として採用している。また、ポストコロナを見据えて米TBCASoftとソフトバンクと共同で開発したキャリア間決済システムは、コンタクトレスな国際決済を可能としている。

髙田氏は重点戦略領域について「インテリジェントサプライチェーン、ヘルケア&ライフサイエンス、セキュリティトークン/デジタル証券の3分野だ。また、パートナー協業の促進として普段は付き合いのない顧客や、EDIの仕組みなどパートナーへの情報提供などを行う」と述べていた。