AMDは5月13日、Professional向けGPUとしてRadeon Pro VIIを発表した(Photo01,02)。これに関して発表前に説明会がオンラインで開催されたので、この内容を基にご紹介したい。

  • AMD、Radeon Pro VIIを発表 - プロ向けGPUの新ハイエンド

    Photo01: Mini DisplayPortを6ポート追加。上面にはRadeon Instinct MI50同様、InfinityFabricのI/Fが出ているのが判る。

  • Photo02: 背面。補助電源コネクタは8pin+6pin構成。

今回発表のRadeon Pro VIIは、端的に言えばRadeon Instinct MI50にDisplay Outputを追加したモデルということになる(Photo01,02)。従来Radeon Proシリーズのハイエンドは、Radeon RX Vega64をベースにしたRadeon Pro WX 9100のままであり、Radeon VIIベースはRadeon Instinct MI50のみに限られていた。これを今回Radeon VIIベースに切り替えた、というのが正直なところだろう。

そのRadeon Pro VIIであるが、競合と比較してのメリットはその性能と価格である。AMDがRadeon Pro VIIのマーケットとして考慮しているのは

(1) Design simulation workloads
(2) Broadcast & media
(3) HPC workload development

となっているが、まず(1)について言えば競合となるNVIDIAのQuadro RTX 5000とかGV100と比較しても十分低価格な$1899であるとする(Photo03)。この(1)のマーケットに関して言えば、CAEのマーケットがどんどん大きくなり、しかもシミュレーションのニーズが高まっている事を背景に、特にDouble Precisionでの絶対性能と性能/価格比の両面でアドバンテージがあるとしている(Photo04)。このDouble PrecisionにおけるマーケットにおけるRadeon Pro VIIのアドバンテージとされるのはこちら(Photo05)。2枚のRadeon Pro VIIを購入しても1枚のQuadro GV100よりもはるかに安く、しかも性能が高いというのがAMDの主張である。まぁTensor Coreを使わない限りにおいては、この図式はそう間違ってはいないのも事実だ。問題はRadeon Pro VIIの方がDual GPU構成できちんとピーク性能が出るのか? という話で、こちらはアプリケーションによって対応が異なるので、一概にこのスライドを鵜呑みにする訳にも行かないのだが、確かに一考の余地がある比較である。

  • Photo03: ここでQuadro GV100が出てくるのはこの後比較対象になるため。

  • Photo04: CAEマーケットにおけるシミュレーションソフトの市場は、2025年までに194億ドル規模に膨れ上がり、CAGRは15.3%と予測されているとしており、ここに向けてDouble Precisionのニーズが高まりつつある、という訳だ。

  • Photo05: もっともこれ、NVIDIAのQuadroが高い、という話ではあるのだが。なんとなくこの構図、Xeon Scalableに対するEPYCの再来、という感じもする。

実際のアプリケーション性能に関しては、ALTAIRでの性能比較が示されており(Photo06)、ことQuadro RTX 5000と比較してRadeon Pro VIIが十分高い性能であることが示されている。ちなみにこのスライド、すごく判りにくいのだが、一番上のRadeon Pro VIIのグラフはほぼスライド横幅一杯(これが100%)で、Quadro RTX 5000は良くて58%という訳でスライドの横幅半分程度に収まっているが、これもう少し何とかならなかったのだろうか?

  • Photo06: ちなみに右のQuadro GV100に比べて5.6倍価格性能比が良いという数字、脚注を見る限りは、比較対象はQuadro RTX 5000であって、どこからQuadro GV100との価格性能比が算出されたのかはわからない。

次が(2)の話。のっけからこのスライド(Photo07)で、「うーむ」という気分ではあるのだが、まぁオリンピックが無事に開催されるかどうかはともかくとして、特に映画業界などでは8Kにシフトしつつあるという話は筆者も耳にしており、長期的には8Kへの移行はほぼ間違いないだろう。現状はまだ8K環境はとても一般的とは言えない(そもそもモニターが無い)が、長期的には現在の4K同様に標準的になってゆく(Photo08)とした上で、8Kサポートを謳う他の製品と比較して、より効率が良い事をアピール(Photo09)。実際にAfterEffectsでの性能(Photo10)や消費電力(Photo11)、Photoshop(Photo12)、Nuke 12.1(Photo13)、DaVinci Resolve Studio(Photo14)などの結果が示された。また、マルチディスプレイの組み合わせが簡単に構築できる(Photo15)のも、Radeon Pro系のメリットだとしている。また今回の発表に合わせて、Radeon ProRender 2.0も発表になった。これを組み合わせる事で、CPU単体での場合と比較して2倍以上の高速化が可能になった、としている(Photo16)。

  • Photo07: 1時間のドラマに1カ月の撮影と2~3カ月の編集期間が必要で、この編集期間をもう少し何とか出来ないかという話。

  • Photo08: モニターもさることながら、データ量の多さも当然問題になってくる。まずはそもそも映せる環境を、という話だが次にはエンコーダ/デコーダの性能の強化が必要になる。もっと言えば、現状のH.265なりAV1なりでも、まだ圧縮が足りないというか、圧縮後のデータ量が多すぎる気がする。

  • Photo09: ただRadeon Pro SSGの様なアドバンテージは、少なくとも現状のRadeon Pro VIIには存在しない。理屈から言えば、Vega 7nmベースでもSSDの外付けは出来るような気はするのだが、そうした派生型を作る予定があるかどうかは不明。

  • Photo10: 概ねQuadro RTX 5000と同等。Quadro RTX 5000の実売価格が概ね$2000なので、まぁいい勝負というべきか。

  • Photo11: 定格というかフル稼働時の消費電力はおそらくRadeon Pro VIIの方が大きい(Quadro RTX 5000は総ボード電力265W、総グラフィック電力230Wとされる)と思うのだが、後はどれだけダイナミックに省電力機能が動くか次第である。

  • Photo12: これも大きな差はないと思う。

  • Photo13: これはNUKEというかOpenCLの性能差という感じに見える。

  • Photo14: 8KのTemporal Average以外は概ね同等というところか。ただこの8K Temporal Averageはちょっと大きな差である。

  • Photo15: 大昔、Radeon HD 5800シリーズの発表時に、本国では6枚×4の24画面デモが行われたが、確かこの際には裏で色々細工が必要だった。これが今は簡単に構築できる様になった訳だ。もっともこれ、Radeon Pro VIIでも利用可能なのかは確認していない。

  • Photo16: Ryzen Threadripper 3990XにRadeon Pro VIIを2枚という構成での数字だそうである。ちなみに一見"AMD Radeon Pro VII 6"に見えるが、"AMD Radeon Pro VII &"である。現在はβ版が提供中。

ところでInfinityFabric絡みで言えば、Radeon Instinct MI50では最大4枚のカードをInfinityFabricで接続可能だったが、Radeon Pro VIIではこれが2枚に制限される事も明らかにされた(Photo17)。

  • Photo17: Radeon Instinct MI50は3Uのシャーシにインストールが前提だし、そもそもファンを持たない構成だったので2Slot接続のみだったが、こちらはファンを内蔵することもあってか、2Slotと3Slot、2種類の構成が用意される。

次がHPCの(3)であるが、これは要するにFrontierやElCapitanで利用されるアプリケーションの先行開発用にRadeon Pro VIIが利用されるという話である。今年3月に行われたAMDのFinancial Analyst Dayで、AMDのGPUはコンシューマ向けのRDNA(Radeon DNA)とエンタープライズ向けのCDNA(Compute DNA)の2つに分離することが発表された。RDNAの第一世代がNAVIな訳だが、CNDAの第0世代が現在のGCNで、第1世代は今年~来年にかけての投入になる。ただそこまで待っているとアプリケーション開発が遅れる事と、ROCmはGCNとCDNAで共通ということから、まずはGCNベースのRadeon Instinct MI50やRadeon Pro VIIでアプリケーションの開発を行い、運用はCDNAベースの将来のGPUを使う、という形になる訳だ。

  • Photo18:ただこうした用途ならRadeon Pro VIIである必要はあまり無いのだが。

AMDからの説明は概ね以上であるが、なぜこの時期に? という話はある。一つ考えられるのは、間もなくNVIDIAが新製品の発表を行うからだ。米国時間の5月14日、NVIDIA CEO のJensen Huang氏によるGTC 2020の基調講演が行われるが、ここでNVIDIAの新製品が発表されることが明らかにされている。これへのカウンター、というのが一番考えやすい理由であるが、さてNVIDIAがどう出てくるのか、が楽しみではある。