東京大学大学院薬学系研究科の宮本和範准教授と内山真伸教授らの研究グループは、炭素原子2つだけからなる分子(C2)を室温で初めて合成した、と発表した。従来は摂氏3500度以上といった超高温でなければできないと考えられていた。C2がフラーレンやカーボンナノチューブなどのナノカーボンの起源になりうることも発見。炭素材料研究に新たな道を開きそうだ。

C2は宇宙空間やろうそくの青い炎の中に存在することが知られている単純な分子だが、発見から1世紀が過ぎようとする現在でもその基本的性質はよく分かっていない。ナノカーボンは星間物質の研究から生まれており、今回の成果は宇宙における炭素化合物の起源に迫る可能性がある。

また、炭素が化学結合の手を4本もつため、C2は四重結合を持てるはずだが、実験化学者は二重結合か三重結合しか観測してこなかった。ところが近年、理論化学者が分子のエネルギーが非常に低い状態で四重結合を持つと提唱し、両者の見解は真っ向から対立していたという。

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    C2の結合に関する実験化学者と理論化学者の対立(研究グループ提供)

研究グループは三重結合を持つアセチレンの両末端にプラスとマイナスの電荷を生じうる原子団を導入した化合物を設計・合成した。それぞれの原子団を室温・常圧の穏やかな条件ではずすことにより、C2を初めて化学的に合成できた。発生したC2には四重結合性があることが判明。宮本准教授は「理論研究者が予測していた真の姿を観測することができた」と言う。

四重結合の反応性は非常に高く、アルゴンガス中でC2の発生を試みたところ、煙を上げて黒い固体が生じた。この固体を詳しく調べると、フラーレンやカーボンナノチューブのほか、グラファイトやカーボンナノホーンという炭素の同素体も見つかった。研究グループは、C2がナノカーボンの起源になり得ることを証明した初めての結果としている。

得られたナノカーボンは、その構造や形態がいずれも特徴あるものばかりで、アーク放電法やレーザー照射など高エネルギーを用いる従来法と比べて大きく異なっていた。宮本准教授は「宇宙の星間物質の生成機構や地球上での各種炭素同素体の生成機構の解明、新しい炭素材料の合成手法の開発に取り組んでいきたい」と話している。

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    C2から炭素ナノ材料の“化学合成”(研究グループ提供)

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