富士通は4月15日、海上保安庁からの請負契約により、海上交通管制業務を行う東京湾海上交通センターにおいて、同社が開発した船舶同士のニアミスを予測するAIを活用した船舶の衝突リスク予測技術の実証実験を昨年12月6日から2020年3月23日までの期間、国内の海上交通管制で初めて実施し、衝突リスクの早期発見への有効性を確認したと発表した。

実証実験では、富士通研究所が開発したAI技術「FUJITSU Human Centric AI Zinrai」を用いた船舶の衝突リスク予測技術を活用し、東京湾において船舶衝突リスクの検知と衝突リスクの集中するエリアを予測することが可能であるかについて検証を行った。

今回、同技術を海上交通管制業務で使用されるVTSシステム(Vessel Traffic Servicesの略称。航行の安全性と効率性の向上を目的に、レーダーや船舶自動識別装置などから取得されるさまざまな船舶情報を集約し、船舶に対し必要な情報を提供するために用いられる)へ適用することで、予防的なリスク回避に貢献し、海上交通の安全性向上につながることが確認できたという。

具体的には、東京湾海上交通センターの訓練環境を用いて、現職の運用管制官6人が過去に発生したヒヤリハット事例を再現した疑似オペレーションをすることで実践的な効果検証を実施。

  • 船舶の衝突リスク予測技術のイメージ

    船舶の衝突リスク予測技術のイメージ

運用管制官が自身の経験や技量に基づき船舶の動きを認知・予測し、危険性を判断する従来通りの業務手法(評価1)と、従来通りの手法に加え、海上保安庁から受領した過去のAISデータを活用し、船舶の衝突リスク予測技術で計算したリスク情報を運用管制官が確認しながら業務を行う手法(評価2)をそれぞれ実施。監視するエリアや運用管制官の経験や技量の違いなど、計36パターンを分析し、その変化を考察した。

  • 運用管制官の業務における実用性評価

    運用管制官の業務における実用性評価

統計分析の結果、評価1に比べ評価2では、運用管制官の船舶に対する注意喚起の警告のタイミングが平均して2分程度早まり、衝突リスクのある船舶の早期発見に効果があることを確認。また、最終的に衝突リスクがさらに高まった船舶に対して行う危険回避の勧告の回数が従来に比べ2倍近くまで増加し、より積極的かつ予防的に管制を行い、安全性強化につながる可能性を確認した。

同技術は、衝突リスクという定性的な状態を定量化して運用管制官に認識させることにより、運用管制官の経験、技量に依存することなく、一定のレベルで業務の遂行が可能となることを確認。特に経験年数が浅い新人の運用管制官に対して効果があり、新人でも経験豊富なベテラン運用管制官同等の管制アクションが可能となる場合もあり、運用管制官の技量の平準化にも効果があることがわかったという。

今後、実証実験の結果に基づき、海上保安庁とさらに技術の高度化を図るとともに、早期の海上交通管制や運航船舶向けの安全航行支援のサービス化を目指す。