――実際にeスポーツが教育に活かされた例として、アメリカの高校での具体的なエピソードがあれば教えてください。

内藤:お伝えしたいエピソードが2つあります。1つは、ゲームは言語の壁を超えるというエピソードですね。

カリフォルニア州は中南米からの移民が多いエリア。自宅で両親がスペイン語を使っているために、学校でなかなか英語を話せない子がいます。そういった生徒が、ゲームをやりながら英語でコミュニケーションを取る。好きなものを通じて、積極的に英語に触れるわけです。

さらに、先ほど紹介したカリキュラムの項目の1つ「ジャーナリスト」で、なかなか英語を話せない子が、好きなゲームについて英語でレポートを書いて発表していました。すると、1年後には英語がペラペラになり、キレイな英文も書けるようになったんです。生徒自身も、「皆に見てもらえるような文章を書けるようになった」と自信を持つことにつながりました。

もう1つもカリフォルニア州のオレンジ郡にある高校での例で、社会の課題解決をテーマとしたエピソードです。日本でも地域におけるつながりの希薄化が課題となっていますが、アメリカも同様。そこで生徒は「eスポーツを使って自分たちに何ができるのか」考えました。

話し合いのすえ、カリフォルニア大学アーバイン校にあるeスポーツアリーナで、地域の人たちを呼んだイベントを開催することに決まりました。そのイベントで生徒たちは、保護者にどうやって説明をしたら応援してもらえるのか、説得するには何を準備しなければならないのかを皆で考えたんです。

この取り組みが大きな糧となり、「イベント開催を通じて論理的思考が身に付きました」と面接でアピールして大学に入った生徒もいるほど。まさに、学業にうまく活かした好例と言えるのではないでしょうか。

  • eスポーツのイベントについて、生徒たちとワークショップを行っている様子(写真提供:NASEF)

ゲームが強くなったかは関係ない、教育の本質的な部分の議論を

――北米での事例を踏まえて、日本の教育におけるeスポーツ活用の現状をどのように感じられていますか?

内藤:日本でも、教育のなかにeスポーツが徐々に広まってきている印象です。eスポーツプレイヤーや関連する職業を目指すカリキュラムを提供する専門学校も増えました。それ自体はとてもいいことなのですが、先ほどお伝えしたような、教育の本質を突いた部分はまだまだ論議が足りていないように感じます。

たとえば、スポーツに置き換えると、「スポーツを通じて体が動くようになった」だけでなく、「やり抜く力や仲間との協調性が身についた」など、教育的な側面のイメージも大きいですよね。そういった本質部分に関して、もっと議論を進めていけたらと考えています。

――eスポーツは「勝ちにこだわるプロの世界」がイメージされがちですが、それだけではないということですね。

内藤:そうです。私たちがやっていることは、「eスポーツのプロ選手を目指しましょう」ではなく、「ゲームが強くなったかどうか」も関係ありません。まさに日本の先生たちとも議論を始めたところですが、ある先生は「子どもたちに何を学ばせるのかを突き詰めていきたい。大会に出て勝つことは、おまけです」とおっしゃっていて、まさしくその通りだなと。

こうした議論を進めつつ、eスポーツの教育的な活用に関して、定性的なものだけではなく、定量的にも調査・研究をしていかなければならないと思っています。

――「eスポーツ×教育」の文脈では、香川県の「ネット・ゲーム依存症対策条例(仮称)」が話題です。こちらについては、どのようなご意見を持たれますか?

内藤:我々もスクリーンタイム(※)については議論していますが、香川県の条例はただ「ゲームはダメ」と決めつけているだけで、根幹的な問題解決にはなっていないと考えます。そもそも、依存症になるほどゲームに没入してしまう原因が何なのか、という議論がなされていないわけですから。それに、条例でゲームを1日60分と定めたところで、いったい何人の親が実際にその通りにさせられるでしょうか。

とはいえ、ルールを決めること自体は必要だと考えます。我々がクラブ活動の支援をしているのも、目的や目標をしっかりと定めたうえでルール化し、eスポーツを活用していくことが必要だと考えているためです。

スポーツでの例になりますが、アメリカの全米大学体育協会(NCAA)では、アメリカンフットボールの練習について、シーズン中はチームでの練習を週に何時間まで、オフシーズン中は何時間まで、それ以上は規定違反になりますよと、ルールを定めているんですね。

それには、平等性を保つとともに、生徒に過度な負担をかけない目的があります。そうやって何らかの目的に向かって、規制が作られること自体は間違いではありません。適切な規制を作るためにも、eスポーツにはどういった価値があるのか、そして、どういったネガティブな面があるのかをしっかりと分析していかなければならないと感じています。

※スクリーンタイム…スマートフォンやPC、テレビなどの画面を見るのに費やした時間のこと。関連記事:スマホなどの利用時間(スクリーンタイム)とeスポーツの関係

  • 「NASEF」日本支部では、スクリーンタイムに関する意見をnoteで公開している

――「NASEF」の日本支部として、今後取り組んでいきたいことを教えてください。

内藤:eスポーツを活用した教育において、日本とアメリカの架け橋を作りたいと考えています。そのために、eスポーツを中心とした生徒たちの交流プログラムを作りたいというのがまず1つ。また、生徒だけでなく教育者同士も、日米間で情報交換できるよう取り組んでいきたいと思っています。

それから、我々がこれから研究していくテーマについて、ともに調査を進め、セミナーやシンポジウムを共同開催していくことも考えています。

また先日、「NASEF」はイギリスの「British Esports Association」という非営利団体とも、パートナーシップを締結しました。これにより、アメリカだけでなくイギリスも含めて、プレイヤー同士で交流できるチャンスが生まれました。

アメリカやイギリスと連携して、高校生向けの国際大会も検討していきたいですし、大会経験を通じて学んだことを英語で発表するような機会があってもいいですよね。そうやってeスポーツを通じて、新しいことにチャレンジする機会も作っていけたらと思っています。

――それでは最後に、NASEF日本支部として伝えたいメッセージがあればお願いします。

内藤:日本の教育現場におけるeスポーツの可能性を強く感じています。できること、やっていくべきことは、まだまだたくさんあるでしょう。eスポーツを使って次世代の成長にインパクトを与えていく、教育的価値を提供していくことについて、高校や教育関係者、eスポーツ産業の企業、団体など、一緒に取り組んでいけるパートナーや仲間を求めています。

我々NASEFの取り組みや「教育xeスポーツ」という切り口に少しでも興味や関心などございましたら、ぜひお気軽にご連絡(hnaito@esportsfed.org)ください。

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