ゲーミングハウスで共同生活する様子を24時間配信し続ける。そんな、実験的ともいえる試みをしているのは、『PLAYERUNKNOWN’S BATTLEGROUNDS』(以下、PUBG)の国内リーグ「PUBG JAPAN SERIES」(以下、PJS)に挑む、プロゲーミングチーム「Crazy Cats Cosmo」です。

ゲーミングハウスとは、プロゲーミングチームのメンバーが共同生活を送るシェアハウスのこと。食事などのサポートを受けながら、充実した環境で練習に励めるイメージもあり、ゲーム好きの若者からすれば憧れの生活のようにも思えますが、その実態はいったいどのようなものなのでしょうか?

記事の前半は、チーム代表を務める佐藤聖さんへのインタビュー。ゲーミングハウス24時間垂れ流し配信を始めた経緯や、リアルなチーム運営の事情に迫ります。また、記事の後半では、選手4名にインタビュー。ゲーミングハウスでの生活を始めるためにどのような決断があったか、実際に生活してどのような変化があったかなどを聞いていきます。

  • 今回取材させていただいたメンバー。後列左からcoolit選手、kamitas選手、morimori選手、前列左からkanarian選手、佐藤聖さん

24時間垂れ流し配信は、チームが生き残るための取り組みの1つ

――まずは、簡単なチーム紹介からお願いします。

佐藤聖さん(以下、佐藤):「Crazy Cats Cosmo」は、猫のロゴでおなじみのプロゲーミングチーム。現在は『PUBG』部門のみで活動しています。PJSへの出場はβリーグのころからで、チームを設立してまもなく2年になります。

2019年12月から今のメンバーになり、現在PJSのSeason5ではGrade2(※)に出場。再びGrade1への昇格に向けてがんばっているところです。

※PJSでは、上位リーグの「Grade1」と下位リーグの「Grade2」が設けられており、ランキングによってGrade間の昇格や降格が決定。「Crazy Cats Cosmo」は、Season4においてGrade1から降格してしまったため、現在はGrade2に出場している。

――ゲーミングハウスについてもご紹介をお願いします。

佐藤:配信に映っている主なエリアは、間取り図の左下にあるリビングと、中央にある選手活動部屋の2つ。その2部屋の間に放送デスクとモニターがあり、選手たちはそこで配信コメントなどを見ます。

キッチンでは、僕がいつも夜ご飯を作っています。料理の様子を配信したり、Twitterに「#ネコメシ」というハッシュタグで投稿したりしています。

  • ゲーミングハウス1階の間取り図

  • 4人分のPCが並ぶ選手活動部屋。椅子は選手のメンバーカラーに合わせた4色

  • リビングは25畳ほどの広さがあり、選手たちがくつろぐスペースになっている

  • リビングと選手活動部屋の間にある、放送デスクと配信コメントを見る大きなモニター

  • 夜ご飯をつくるキッチン。この日のメニューは肉じゃがでした

――ゲーミングハウスの垂れ流し配信は、24時間ずっと映されているのでしょうか?

佐藤:はい。配信環境にトラブルがない限り、24時間ずっと付いています。

  • 配信サイト「Twitch」で配信されている実際の配信画面。こちらは大会出場中の様子

――24時間配信というアイデアを実行に移したところがすごいですよね。始めたきっかけを教えてください。

佐藤:海外のプロゲーミングチームからインスピレーションを得ました。そのチームは複数台の固定カメラとハンディカメラを使って、ゲーミングハウスで生活する様子を動画にしていたんですね。それを動画ではなく、24時間配信でやったら新規性もあっておもしろいんじゃないかと思ってスタートしました。

――話題性のある試みだと思いますが、どのような狙いがあって企画されたのでしょうか?

佐藤:国内の『PUBG』部門を持っているプロゲーミングチームは、歴史が長かったり、大きな企業のバックアップがあったりと、経済的なアドバンテージを持っていることが多いんです。それに対して、僕たちのチームは『PUBG』でイチから立ち上げたチーム。現実的な問題として、こういったチームは生き残っていくのが難しいんです。

例えば、国内で優勝して世界大会に出場するような大きな出来事があれば別ですが、トントン拍子でチームが大きくなることはなかなかありません。なので、自分たちで環境を作りあげるきっかけになればと、このゲーミングハウスでの生活と24時間配信を始めました。

ただ映すだけでなく、コンテンツとして楽しめる工夫を

――選手たちはここで共同生活をしているそうですが、ゲームを本業に生活できるだけのサポートはあるのでしょうか?

佐藤:このゲーミングハウスに住む最低限の費用、例えば家賃や光熱費、インターネットの通信費などは、チーム側で負担しています。ですが、それ以外の生活費は選手個人の負担。いわゆる給与制のチームにはできていないのが現状です。

普段から配信を見てくださっているかたには、いろいろな場面から貧乏生活をしていることが伝わっているんじゃないでしょうか(笑)。

――そうだったんですね。しかも、24時間配信となると選手全員の納得が必要だと思います。実現へのハードルはありましたか?

佐藤:メンバー募集の時点で、ゲーミングハウスでの配信活動ができることを必須条件としました。さらに、固定給は出せないことも伝えたうえで、集まったのが現在の4人です。選手たちはそれぞれ、会社を辞めたり大学を休学したり、大きな決断をしてここに集まっています。

  • 2階に選手たちの部屋があり、2名ずつ2部屋に分かれて生活しているとのこと

――ゲーミングハウスで24時間配信をするにあたって、苦労したところはありますか?

佐藤:ただ映しているだけではコンテンツにならないので、どうしたらおもしろい配信になるかを考えるのに苦労しました。スクリム(練習試合)中はその様子が配信されているのですが、それ以外の時間にも選手が突然カラオケを始めたり、夜ご飯を作る料理配信をしたり、視聴者の皆さんに楽しんでいただけるように工夫しています。

選手たちのPCデスクの配置も工夫しています。よくあるのは壁に向かって座る形式ですが、後ろ姿が24時間映っていてもおもしろくないですよね。なので、今のデスク配置にしたり、カメラを俯瞰視点にしたり、いろいろと試行錯誤しました。

それから、視聴者さんもかなり配信環境づくりに参加してくださっていて、例えば「スクリムのときは、選手の名前が配信上に出た方がわかりやすい」とか、アイデアやご提案をどんどん取り入れています。選手にはメンバーカラーがあるので、画面上に名前を表示するときは必ずメンバーカラーにするなど、細かなところも意識しています。

  • 料理配信の様子。夜のスクリム後に振る舞われるため、料理配信は23時ごろとのこと。

――選手一人ひとりにメンバーカラーがあるチームは珍しいですよね。

佐藤:『PUBG』はゲーム内で、4人のプレイヤーが指すピンの色が決まっていて、それが実はメンバーカラーとそろうようになっているんです。ユニフォームにもそれぞれの色が入っていますし、選手によっては髪色をメンバーカラーに合わせるといった工夫も。選手のイメージ付けは認知を上げていくために重要だと考えているので、意識しています。

――24時間配信を始めてからの反響はいかがですか?

佐藤:配信を始めると宣言してから、「おもしろいことやってるチームがいるぞ」という感じでたくさんの反応をいただいて、1週間でTwitchのフォロワーが500人、2週間で1000人を超えました。

24時間配信なので、同時接続数の平均を取るのは難しいのですが、選手が起きている時間帯であればだいたい50人くらい。何かしているときは数が増えやすいですね。例えば、coolit選手がカラオケを始めたら、一気に300人ぐらい集まってきたこともありました。

それから、ファンの方々から多くの支援をいただいています。配信サイト上の投げ銭だけでなく、現物の支援物資もたくさんいただいていて。今、キッチンにある大きな鍋や炊飯器なども、人数分の料理ができるようにと、視聴者のかたが送ってくださったものです。

  • coolit選手のカラオケ配信。ちなみに、周辺環境も考慮しており、大きな声で熱唱しても大丈夫なのだそう

  • 小さな炊飯器(写真右)でご飯を2回炊いていたところ、人数分のご飯を炊ける大きな炊飯器(写真左)をファンのかたが送ってくださったのだとか

24時間配信をファンが集うコミュニティにしたい

――チームを一緒に育てていくような目線で、応援してくださっているファンの方々がいるということですね。今後、配信を通じて実現していきたいことはありますか?

佐藤:この24時間配信そのものを、コミュニティにしていきたいと考えています。朝起きて配信で「おはよう」とコメントして仕事に行って、帰ってきたら「これから『PUBG』してきます!」とコメントするような、そういう楽しみかたをしてくださっているかたがいらっしゃいます。

今後は選手とのコミュニケーションだけでなく、コメント内でファン同士も会話するような場にしていきたいと思っています。もっと配信上でのコンテンツも充実させて、よりコアなファンを増やしていきたいですね。

――配信以外にも、チームとして目指していることがあれば教えてください。

佐藤:チームを運営して2年になりますが、今「Crazy Cats Cosmo」を支援してくださっているスポンサー企業はSycomさんのみ。なので、ほかにもこのチームに興味を持っていただける企業さんを増やしていきたいです。

それから、選手を含めて僕たちが経験してきたことを積極的に発信して、社会貢献につなげられたらいいなと。今ゲーミングハウスは埼玉にあるのですが、eスポーツを通じた地域への貢献も模索していきたいと考えています。

ゲーミングハウスの設立にあたっては、Sycomさんに本当にたくさんのサポートをいただきました。大会の結果でも、これからの活動を通じても、スポンサー企業やファンの皆さまに恩返ししていけるようにがんばっていきます。