今回の試験ではイプシロン用の機能も確認
SRB-3の燃焼試験は、これまで、実機型モーターが2018年8月、認定型モーターが2019年8月に実施されていた。今回は、認定型モーターの2回目となり、再現性などを確認するのが狙いだ。
SRB-3は、H3でもイプシロンでも、推力パターンは同じ。モーターの大部分は共通となるが、イプシロンで第1段として使うためには、H3用では省略した推力方向制御が必要で、この部分が異なる。前回までの試験では、H3用の固定ノズルを使っていたのに対し、今回は初めて、イプシロン用の可動ノズルを搭載し、燃焼中にノズルを動かす。
SRB-3の推力方向制御機能は、駆動用電池、2個の電動アクチュエータ、可動ノズルで構成される。SRB-Aも電動アクチュエータだったが、SRB-3はコントローラとアクチュエータが一体化し、よりシンプルになったという。可動ノズルの内側には、高温・高圧に耐えられるフレキシブルジョイントが使われており、これはSRB-Aと同様とのこと。
可動ノズルは、5.5°ほど向きを変えることが可能で、今回の試験では、それを水平方向に振って追従性を確認する。実際には、2個のアクチュエータで任意の方向に動かすことができるのだが、水平方向に動かすだけでもアクチュエータは2個とも使うことになるので、機能の確認としてはこれで十分だ。
試験は同日11時より実施。燃焼時間は107.5秒、最大推力は2,173kN(約222トン)、最大燃焼圧力は11.0MPaで、いずれも予測値とほぼ同じだった。
燃焼試験の様子
今回、プレスはH-IIA/Bの射点に近い大崎海岸より燃焼試験を見学した。前回の竹崎展望台より距離は遠くなるものの、間には海しかないので、噴煙の様子は見えやすい。ただ、試験場との間に山がジャマしているため、SRB-3本体や炎は見ることができなかった。
さすがにこれだけだと残念過ぎるので、JAXA提供の公式動画もお見せしよう。ノズルを注意深く見ると、左右に首を振っているのが確認できるだろう。
H3が射点に立つのはオリンピック後?
試験が行われたのは、種子島宇宙センター内の固体ロケット燃焼試験場だ。SRB-3は、実際の打ち上げ時とは異なり、横に寝かせた状態で設置されている。試験後には、このテストスタンドがプレスに公開された。燃焼のまだ2時間半後ということで、試験場には何かがコゲたような臭いが漂う、生々しさがあった。
今回の試験で計測された項目は、推力、燃焼圧力、温度、歪み、加速度など約320点。詳細な評価は今後となるものの、データは全て正常に取得できたとのことで、SRB-3を担当するJAXAの名村栄次郎氏は「大成功」とコメント。SRB-3のメーカーであるIHIエアロスペース(IA)の岸光一氏は、「推力方向制御も良好な結果だった」と安堵の表情を見せた。
H3ロケットは、2020年度に初号機を打ち上げる予定。今後、注目すべき大きな試験としては、実際に射点で行う「実機型タンクステージ燃焼試験」(CFT)があるが、これについて、岡田プロマネは「手直しの時間も考えるとできるだけ早くやりたいが、東京オリンピックよりは後になると思う」と、見通しを述べた。
すでに完了した第1段の「厚肉タンクステージ燃焼試験」(BFT)では、スタンド内に設置したエンジンを燃焼させていたが、CFTでは、いよいよロケット本体に組み込んだ形での試験が行われることになる。種子島の射点でCFTが行われるのは、H-IIBロケット以来。H3のCFTも、これに近い形となる可能性が高い。
2009年に実施されたH-IIBのCFTは、第1段と第2段の実機を使用、衛星やフェアリングは無く、SRB-Aはダミーを搭載していた。燃焼時間は、1回目が10秒で、2回目が150秒。初号機の打ち上げは、このCFTの5カ月後に行われている。
通常の打ち上げであれば、ロケットはすぐに飛んでいってしまうが、CFTは燃焼を続けたまま射点に居座るので、より長時間、ロケットエンジンの迫力を堪能できる。宇宙ファンにとっては非常に楽しみなところだろう。
なおH3のBFTは、2基形態と3基形態でそれぞれ行われたが、CFTは初号機の形態に合わせ、LE-9エンジン2基で実施される見込み。その後、3基形態のCFTを行うのかどうかについて、岡田プロマネは、「判断を待っているところ。やった方がいいかなという思いもあるが、2基のCFTの結果を見てから考えたい」とした。