交通事故による死者数が戦後最小を更新し続けています。衝突軽減ブレーキなど、先進的な安全運転支援機能を搭載するクルマが増えていることが追い風となっているのは間違いありません。しかし、そのような安全運転支援機能は既存のクルマに後付けすることはできず、愛車を乗り換えない限り恩恵を受けられないのが実情です。

そのようななか、周囲の歩行者やクルマの状況をAI(人工知能)が常に監視し、飛び出しや衝突などの危険を検知すると瞬時に警告を発する機能を持つ車載機器「Pyrenee Drive」(ピレニー・ドライブ)の開発が、日本のベンチャー企業であるPyrenee社の手によって進められています。あくまで音や画面による警告にとどまり、クルマのブレーキやハンドルを自動で操作してくれるわけではありませんが、既存のほぼすべてのクルマに後付けで設置できるのが大きな特徴です。

  • 自分のクルマに後付けで手軽に導入できる安全運転アシスタント「Pyrenee Drive」がいよいよ姿を現した。人間の目とAIの目で交通事故を防ぐデバイスの実力をいち早くチェックした

ドライバーの「気づかなかった」「気づくのが遅れた」というミスをカバーし、交通事故減少を手助けしてくれる相棒となるPyrenee Drive。2020年度の販売開始に先んじて、頼れる相棒の実力をいち早く体験してきました。

前方の状況を3Dで捉え、AIが危険の有無を察知

Pyrenee Driveは、クルマのダッシュボードに設置するだけで利用できる機器。2つのカメラ(ステレオカメラ)で前方の状況を立体的に捉え、AI(ディープラーニング)で歩行者やクルマの存在を把握しつつ動きをリアルタイムで予測し、飛び出しや衝突などの危険があるとAIが判断すると画面と音で警告を出す仕組みです。配線は電源用のシガープラグだけというシンプルさで、基本的にどのクルマにも取り付けられます。

  • 開発中のプロトタイプのPyrenee Drive。正面に大型のタッチパネル液晶を、その上部にドライバーを撮影するカメラを搭載する。製品版は、液晶周囲の額縁が少し細くなり、いくぶん小型化が図られる見込み

  • 背面にステレオカメラを搭載する。本体はカメラに向かってすぼまった形状となっているのが分かる

  • ダッシュボードに設置し、付属の電源プラグをシガーソケットに接続して配線するだけで使える

Pyrenee Driveの頭脳となるのが、グラフィックスカードでおなじみのNVIDIA製GPU。このGPUがディープラーニングの処理を担います。Pyrenee Driveには携帯電話回線の通信機能を備えており、ドライバーが遭遇した危険な状況をクラウドに蓄積することでAIが学習し、予測の精度が高められる仕組みも整えています。

  • AI処理をになうNVIDIA製のGPUを搭載。ほかにも、さまざまなセンサー類や携帯電話回線のLTE通信モジュールなどを備えている

ステレオカメラはそれぞれ約200万画素で、視野角は約100度。人間の視野は一般的に35度前後といわれており、人間の目ではぼんやりとしか認識できない周辺部をPyrenee Driveでカバーする仕組みです。ちなみに、液晶パネルの上部にもドライバーを撮影するカメラを搭載しており、ドライバーがよそ見をしたり眠気を催していないかなどを検出する機能も実装する予定といいます。

  • 人間の目ではっきり視認できる範囲は青いエリアぐらいで、その周辺はぼんやりしか視認できないそう。その周辺部をしっかり監視してくれるのがPyrenee Driveなのだ

前面には大型のタッチパネル液晶を搭載しており、カーナビや天気予報などの情報を呼び出して表示できます。独自の音声認識機能も搭載しており、パネルに手を延ばすことなく音声での操作も可能です。

  • メニュー画面を表示したところ。独自の音声アシスタントを搭載しており、音声でさまざまな機能を呼び出して使える

  • 一定以上の速度で前方のクルマに接近した場合、衝突の警告が現れる

  • こちらは接近する自転車に対しての衝突の警告

  • 付近に学校がある場合、注意を促す警告も表示される

前方の人や自転車、クルマの動きをAIが監視

実際に、Pyrenee Driveの試作機を搭載したクルマに試乗し、どのような働きを見せるのかを体験してみました。

  • 開発拠点としているDMM.make AKIBA近くの公道を走り、Pyrenee Driveの働きを確認してみた

駐車場から公道に出ると、前方に見える歩行者や自動車、自転車、バイクに枠が付き、これらをリアルタイムで認識していることが分かりました。枠の色が異なるのは、歩行者か自転車か乗用車かトラックかをしっかり判別しているから。枠の周囲には、それらの対象物までの前後左右の距離も表示されます。

  • 走行中、認識した歩行者やクルマに枠が付き、自車からの位置や動きをリアルタイムに認識した

  • クルマはフロントとリアを認識し、進行方向に向かって三角形が付加される

  • 画面右側には、上方から見たバードビューを表示、白い線で、人物やクルマがどちらの方向に動いているかを示している

これらの歩行者や自動車などは、動いている方向や速度をAIが逐一分析し、人の飛び出しやクルマとの衝突などの危険があると判断すると警告が出されます。今回の試乗では実際に確認できませんでしたが、試作機で撮影した動画では、歩道を走っていた自転車が不意に道を横切り始めた瞬間に警告が出るなど、予測の精度は高いと感じました。

歩行者が急に飛び出してきた状況を想定したテスト。かなり遠くの時点で警告が表示されたのが分かる

Pyrenee Driveはステレオカメラのみ搭載しており、ミリ波レーダーやレーザーを用いたライダーは使っていません。そのため、人間の目では何も見えないぐらいの真っ暗闇や、視界が遮られるぐらいの大雨や大雪の状況では認識の精度が落ちるそう。しかし、街灯で照らされている夜間の道路など、人間の目で見える状況ならば問題なく使えるといいます。

ダブルチェックで人間の“うっかり”をカバー

Pyrenee Driveを開発したPyreneeの三野龍太社長は、「交通事故の原因の大半は“気づかなかった”“気づくのが遅れた”というドライバーの認識エラーによるもの。ドライバーの認識をサポートするPyrenee Driveを導入すれば、人間の目によるチェックに機械の目が加わり、ダブルチェックになって事故を減らせる」と開発の意義を語ります。

  • Pyreneeの三野龍太社長。多くのハードウェアスタートアップが集う秋葉原のDMM.make AKIBAを拠点に、Pyrenee Driveの開発を進めている

そのように優れた最新技術を既存のクルマに手軽に導入でき、購入後に機能やAIの性能をアップデートできることも、Pyrenee Driveの特徴として挙げました。今後の機能面のアップデートは、信号の色や標識の内容を認識し、それらの情報をもとに警告を表示できるようにする予定といいます。

Pyrenee Driveの販売開始は2020年度(~2021年3月)を予定しており、本体価格は10万円台前半に抑えたいとのこと。「安全運転支援機能は最新のクルマに乗り換えない限り恩恵を受けられない」という常識を覆すPyrenee Drive、多くのクルマ愛好家にとって気になる存在になりそうです。