中国国家航天局(CNSA)などは2019年11月14日、火星探査機「火星一号」の火星着陸を模擬した試験に成功した。開発や試験が順調に進めば、2020年にも火星へ向けてこの探査機を打ち上げる予定で、中国共産党の結党100周年となる2021年の火星着陸を目指す。

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    火星探査機「火星一号」の火星着陸を模擬した試験の様子 (C) CASC

発表によると、試験は河北省に建設された「地球外天体着陸総合試験場」で行われた。この試験場には、実物大の試験機を宙吊りにできる巨大な設備が造られ、ワイヤーで上から試験機を吊るすことで、地球の約3分の1という火星の重力と同じ環境を再現している。

今回の試験では、試験機は高さ70mから切り離された後、高度67mまで降下したのち、エンジンを噴射してホバリングしながら、安全に着陸できる場所を探した。そして、地上にある障害物を回避しつつ、高度20mまで降下した。この試験により、着陸機が火星環境下でホバリングや障害物の回避、そして減速下降を行う過程をシミュレーションし、設計や運用の検証ができたとしている。

今後も開発や試験が順調に進めば、2020年にも火星へ向けてこの探査機を打ち上げる予定で、中国共産党の結党100周年となる2021年の火星着陸を目指すという。

中国の火星探査計画

中国が現在開発を進めている火星探査機は「火星一号(Huoxing-1)」と呼ばれ、中国にとっては「蛍火一号」以来、2回目の火星探査計画である。蛍火一号は2011年に、ロシアの探査機に同乗する形で打ち上げられたものの、ロシア側の探査機のトラブルにより地球周回軌道から脱出できず、失敗に終わっている。

火星一号は、火星を周回する周回機と、火星の地表に着陸する着陸機、そして探査車からなる大型の計画である。開発計画は2016年に承認されたが、あまり情報が出ることなく、今年10月11日になってようやく実機が公開された。

探査機の総質量は約5tで、周回機には各種カメラのほか、磁力計、地中探査レーダー、赤外線分光計、荷電粒子、中性粒子センサーを搭載する。

探査車の質量は約240kgほどで、太陽光で駆動し、航法や探査に使う各種カメラのほか、レーザー誘起ブレークダウン分光計、磁場検出器、地中レーダーなどを搭載する。なお、中国はすでに月に、「玉兎」という探査車を2機送り込んでおり、この火星一号の探査車の開発にもその技術が活用されている。ただし、質量は2倍ほど大きくなっている。

打ち上げ時期は、次に火星へのウィンドウが開く2020年7月ごろの予定。同じ時期には、米国航空宇宙局(NASA)が「マーズ2020」を、欧州とロシアは「エクソマーズ2020」を、そしてアラブ首長国連邦も「アル・アマル」を打ち上げる予定で、総勢4機の探査機が火星へ向かうことになる。

火星一号は、2021年の初めごろに火星周回軌道に到着する予定で、まず周回機のカメラを使い、着陸機の正確な着陸場所を選定する。着陸場所は現時点で、、火星の北半球の中緯度地方にある「ユートピア平原」内が候補となっている。

着陸場所が決まったのち、周回機から着陸機を分離する。着陸機は火星の大気圏に突入したのち、パラシュートを開きながら降下。そしてロケット・エンジンの逆噴射で着陸する。その後、探査車を展開。周回機、着陸機、そして探査車によって、火星をくまなく探査する。

ちなみに、最近のNASAの火星探査車などは、惑星間軌道から直接火星の大気圏に突入して着陸している。この場合、周回軌道に入らない分、推進剤を節約できる。一方、一旦周回軌道に入る場合は、その分余計な推進剤が必要になるものの、着陸地点をゆっくり選定でき、また大気圏突入時の負荷も小さくできる。

もっとも、NASAなどの探査機が直接火星に着陸できるのは、着陸場所を選定したり通信を中継したりするための周回機を別に打ち上げているためである。中国は現時点で、火星で周回機を運用しておらず、火星一号で初めて周回機と着陸機を同時に飛ばす。そのため、メリットやデメリットはともかく、いずれにせよ一旦は軌道に入らなければならない。ちなみに、周回機と着陸機を一旦火星の周回軌道に入れてから、着陸機を切り離して着陸させるのは、1970年代のNASAの「バイキング」計画と同じ手法である。

火星一号の開発は比較的順調に進んだようで、今回の試験成功だけでなく、過去にはスラスターや、火星で展開するパラシュートの試験に成功したことなどが伝えられている。

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    火星一号 (C) CASC

一方、打ち上げにとって最大の障壁となるのは、打ち上げに使う「長征五号」ロケットの存在である。長征五号は中国の最新鋭ロケットのひとつで、中国のロケットの中で最大、また世界的も最大級の打ち上げ能力をもつ。

長征五号は2016年11月に初めて打ち上げられ、成功を収めたものの、2017年7月の2号機の打ち上げは失敗に終わり、以来飛行停止の状態が続いている。

中国は、早ければ今年末ごろにも打ち上げを再開する予定だが、打ち上げが遅れたり、あるいはふたたび不具合が発生したり失敗したりすることになれば、火星一号にも影響し、さらに次の火星行きのウィンドウが開く26か月後の2022年後半まで、打ち上げが延びることになるかもしれない。

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    長征五号ロケット(画像は2016年に撮影されたもの) (C) CALT

出典

http://www.spacechina.com/n25/n2014789/n2014804/c2783609/content.html
Scientific Objectives and Payloads of Chinese First Mars Exploration
https://www.weibo.com/casc
Chinese 2020 Mars orbiter and rover

著者プロフィール

鳥嶋真也(とりしま・しんや)
宇宙開発評論家。宇宙作家クラブ会員。国内外の宇宙開発に関する取材、ニュース記事や論考の執筆などを行っている。新聞やテレビ、ラジオでの解説も多数。

著書に『イーロン・マスク』(共著、洋泉社)があるほか、月刊『軍事研究』誌などでも記事を執筆。

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