丸の内エリアをフィールドにデータ活用を通じて新たな価値・事業創出を目指すために設立した「丸の内データコンソーシアム」という組織をご存じだろうか?今回、コンソーシアムの主催である富士通に取り組みの概要や展望について話を伺った。
同コンソーシアムは、今年9月に2018年度に実施した「大丸有データ活用プロジェクト」を踏まえて、三菱地所と共同で設立。富士通は「情報銀行サービス実証プロジェクト」、三菱地所は「街における活動関連データ取得・活用プロジェクト」をそれぞれ主導している。同コンソーシアムについては、すでに発表されているが、本稿では改めて富士通が主導するプロジェクトにフォーカスを当てる。
まずは、コンソーシアムの取り組みを紹介する前に大丸有データ活用プロジェクトについて触れてみよう。
富士通 デジタルソリューションサービス事業本部 データ流通利活用サービス事業部 シニアディレクターの池田栄次氏は同プロジェクトに関して「多様なデータや分析技術など、さまざまな専門性がミックスされています。しかし、異業種間におけるデータ利活用に際し、どのようにデータが企業の外に出ていくかが大きなチャレンジだと感じました。これは、まだ業界的には解決されていないため、そこに風穴を開けるということがプロジェクトの1つの趣旨です」と説明する。
同プロジェクトは、2018年5月~12月の期間で大丸有(大手町、丸の内、有楽町)エリアに関するデータを活用し、異業種でのデータ流通・利活用の有効性を検証した。
三菱地所がビル電力や店舗売り上げ、丸の内カード利用データ(匿名加工したものを利用)の提供、ソフトバンクが人流データ(位置メッシュ)の提供とデータ分析、東京大学がデータ活用手法の監修、構造計画研究所がシミュレーション分析、Agoopが人流データの提供、三菱地所設計が建物の設計に関する知見を活かしたデータ分析、東京ガスが東京駅周辺ビルのガス利用量データ、日本リサーチセンター(NRC)がインタビュー調査/解析、Data SectionがSNS分析などを担った。
富士通は、ブロックチェーン技術を活用したデータ流通・利活用基盤「FUJITSU Intelligent Data Service Virtuora DX データ流通・利活用サービス」(Virtuora DX)を提供し、同ソリューションでは東京大学大学院工学系研究科の大澤幸生教授が提唱する「データジャケット」と呼ばれる手法を用いている。
データジャケットとは、人が理解することを前提としたデータの概要情報(メタデータ)であり、データの中身ではなく、概要情報(変数ラベル、保存形式、収集方法など)を共有することで、データの利用価値が多くの人に理解され、活用を促す記述形式。
池田氏は「データジャケット使い、企業間のカベを越えようということで、われわれはVirtuora DXを提供しています。結果として、コンソーシアムのポータル上では三菱地所さんのPOSデータやソフトバンクさんの人流データ、東京ガスさんのエネルギーデータが並び、通常では同じ場所では出てこないようなデータが共有され、さまざまなデータの利活用が検討できました」と話す。
しかし、すべてがデジタルで解決したわけではなかったため、プロジェクト立ち上げ時に信頼関係醸成のためにワークショップを実施し、対面でのコミュニケーションの促進を図ったという。この際にも大澤教授が提唱するデータ利用方法からデータの価値発見を支援するワークショップ手法であるIMDJ(Innovators Marketplace on Data Jackets)を導入した。
これにより、参加者は所有するデータをデータジャケットとして記述し、データジャケットを通してデータの内容を理解しながら、身近な課題や社会課題を解決することを目指した。同氏は「100個くらいのアイデアがあり、その中から整理・分類し、A、B、Cと3つの分科会を設けました」と説く。分科会はAが「商業」、Bが「観光(インバウンド)」、Cが「安心・安全」となり、各社が望むテーマに手を挙げてグルーピングを行い、富士通はB分科会を率いることになった。
B分科会では、実態把握としてソフトバンクの人流データをもとに、東京駅~皇居間における外国人の集中するエリア・回遊ルートを調査した結果、東京~皇居間の往復のみであり、周辺を回遊することが極めて少ない事実が明らかになったという。
そして、池田氏は「データを解析していく中で多様な専門性を持つ人々が介すことにより、スピード感を持ちながら必要なデータを集めることができたことが大きなポイントです」と強調する。
また、丸の内を訪れる外国人観光客が、その直前・直後に向かった場所、興味・関心などをSNSで分析したところ、複数のセグメントが丸の内を起点に見えてきたという。もともとの人流分析だけでは往復のみという推定しか得られなかったが、参加企業がそれぞれ強みを持つインタビュー(NRC)やSNSの分析(Data Section)を通じてセグメントが把握できるようになった結果、エリア周辺には高級ホテルなども立地していることから、富裕層が多いことに着目した。
同氏は「富裕層の方は、皇居を訪れる前後にアートスポットを巡ることが多いという相関性が見出せました。そのため、丸の内~有楽町方面の仲通りを横断する形で“アート”をキーワードに誘導できるのではないかと推測しました」と振り返り、「有用性がないと考えられているオープンデータも目的と目利きができる人が選別すると、非常に価値のあるデータになることも確認しました。その結果、都内の他エリアとの類似性が高いことから、アートの街というブランディングをすれば、来訪者が増加し、人が動き回れるような街づくりができるのではないかという考えに至りました」という。
大丸有データ活用プロジェクトは、データジャケットにもとづくアイデア創出と、実データにもとづくアイデア検証をメインとして実施したため、フィールドトライアルまでは至らなかったものの「各社さんのデータだけでなく、専門性、特異な分野、ビジネスのつながり、資産などが結合して新しいサービスを企画・創出していくという道筋は見えました」と池田氏は手応えを口にしていた。