eスポーツの盛り上がりとともに、注目を集めるようになったeスポーツ業界の仕事。最近では、新卒・第二新卒でeスポーツ業界に飛び込む人も現れるようになりました。

今回インタビューしたのは、ゲーム配信プラットフォーム「OPENREC」や、日本最大級のeスポーツ大会「RAGE」の運営などを行うCyberZの若手社員4人。2019年5月に開催された「PUBG MOBILE 企業対抗戦 2019」にチームで出場し、優勝した実績を持ちます。

彼らはどのような学生時代を過ごし、どのような就職活動を経てeスポーツ業界にたどり着いたのでしょうか。4人のエピソードを伺いました。

同僚は大学時代に戦ったライバルでありゲーム仲間

――まずは、皆さんの自己紹介をお願いします。

植田晋太郎氏(以下、植田):2019年の新卒として、サイバーエージェントに入社した植田です。CyberZへの配属になり、現在はeスポーツ大会をオンライン上で開催できる「PLAYHERA(プレイヘラ)」というコミュニティプラットフォームを運営するチームに所属しています。

  • CyberZの植田晋太郎氏

    CyberZの植田晋太郎氏

小部琢己氏(以下、小部):CyberZのOPENREC事業部に所属している小部です。隣に座っている石塚からの紹介をきっかけに、2018年10月に中途入社しました。プロゲーマーの方々のマネジメントや配信まわりの業務、大会の運営などを担当しています。

  • CyberZの小部琢己氏

石塚久徳氏(以下、石塚):2017年に新卒でサイバーエージェントに入社した石塚です。今はCyberZのOPENREC事業部に配属されて、小部と同じくプロゲーマーや配信者の方々のマネジメントをメインに担当しています。

  • CyberZの石塚久徳氏

楠本慧氏(以下、楠本):CyberZのOPENREC事業部に所属する楠本と申します。2017年に中途入社しました。業務内容としては、主にOPENRECの番組や大会の制作を行っています。

  • CyberZの楠本慧氏

――皆さんは入社する前から、もともとゲーム仲間だったと聞きました。

楠本:そうですね。僕と石塚が近畿大学、小部と植田が龍谷大学で、それぞれ大学が一緒だったのがきっかけです。

石塚:全員がFPSゲームの『Call of Duty』(以下、CoD)をプレイしていて、そのゲームで開催されていた「CoD 全国大学対抗戦」という大会に出場していました。お互いに対戦経験のあるライバル校同士でもあり、そのときからの知り合いです。

――皆さんが大学生時代にしていた、ゲームに関する活動内容を教えてください。

植田:僕は「CoD 全国大学対抗戦」に応募したことがきっかけで、大学1年から4年の間にアマチュア選手として戦績を重ねつつ、eスポーツサークルを立ち上げたり、アマチュア大会を運営したりしていました。

その後、プロ選手として活動するために、大学の在籍期間を1年延長して、プロゲーミングチーム「CYCLOPS athlete gaming」に所属します。就職するまで1年ほど活動していました。

小部:僕は大学3年で編入したのですが、植田と大学が一緒なので活動内容は少し似ています。もともとゲーム好きの集まりがあり、せっかくだからと、eスポーツサークルを立ち上げました。

「CoD 全国大学対抗戦」での実績から、大学の公認サークルになることができたので、大学のサポートを受けつつ文化祭でイベントを開催したり、企業の方とのネットワークを活かして、大会を開催したりもしていました。

石塚:僕は大学1年のときに「CoD 全国大学対抗戦」に出場するメンバーを集めて、2年のときに初出場・初優勝を果たしました。ちょうどそのときに決勝で戦ったのが、植田と小部がいたチームなんです。

次の年も僕らのチームが優勝し、2連覇を達成すると、その功績が大学にも認められて、「eスポーツサークルとして、オープンキャンパスで高校生に向けたイベントをしないか」というお話をいただきました。そのイベントでは、2日間でトータル2,000人くらい集まりましたね。そのころはまだ小規模なサークルだったんですが、いろいろなゲームの部門を増やしていった結果、100人くらいの大規模なサークルになりました。

楠本:僕は大学1年で『CoD』を始めて、2年のときに石塚から「一緒に大会に出よう」と声をかけてもらいました。学生時代のゲームに関する活動というと、大会に向けて練習をしていたことくらいですね。その後、eスポーツサークルができたので、大学3年から4年はサークルでの活動がメインでした。

サークルについて補足すると、当時はあまりeスポーツサークルの前例がなかったので、石塚を中心に、ほかの大学からサポートを受けながら出来上がったのが近畿大学のeスポーツサークルです。そのノウハウを活かして、お互いにサポートし合いながら、龍谷大学でもサークルの立ち上げが行われました。

当時は、本当にただのゲーム好きな学生で、ゲーム関係の仕事を視野に入れたことはありませんでした。自分がeスポーツ業界で働くなんて、まったく想像もしていなかったですね。

“新卒でeスポーツ業界に入る”という選択肢

――新卒でeスポーツ業界に入った経歴の方は、まだ少ないと思います。新卒で入社されたお2人は、どういった就活を経て今に至るか教えていただけますか?

石塚:僕は2017年入社なので、就活をしていた時期は2016年。当時は、eスポーツという言葉自体が全然知られていなくて、「eスポーツ業界に行きたい」と考える人もほぼいない状況でした。

大学が情報学科だったので、システムエンジニアの仕事をメインに考えていたんですが、やっぱりゲームに関わる仕事がしたいなと。ゲーム業界にいれば、eスポーツに関われるチャンスもあるだろうと考えて、スマホゲームからコンシューマーゲームなど種類は問わず、ゲーム業界の企業を幅広く受けました。

就活の軸にしていたのは、僕の目標でもある「eスポーツをオリンピックの種目にして、それに自分が関わる」こと。なので、すべての面接でそう伝えていました。結果的にいくつかの企業から内定をいただいたのですが、eスポーツを軸に就活していた自分としては、なかなかしっくりこない状況が続きました。

そのような状況でサイバーエージェントの面接を受けた際、先ほどの目標を伝えると「目標を実現するため必要なこと」をていねいにフィードバックしてくださって。当時僕はただ夢を語っているだけで、中身が全然詰まっていなかったんです。それに対して真剣に考えてくれたサイバーエージェントグループに行くしかないと思いましたね。

植田:僕は大学で、街づくりや都市プランニングの研究をしていました。研究をしつつ趣味でゲームをしていたのですが、学生最後の1年をプロとして活動したことで、より選手目線でeスポーツを捉えるようになりました。

そのなかで強く感じたのは、eスポーツが話題になってきたとはいえ、世間からのイメージはさほど良くないということ。“たかがゲーム”という周囲の印象を、変えていきたいと思うようになったんです。

選手を続けるかどうかも悩んだのですが、当時のプロシーンでは10代の選手も多く活躍していて、すでに僕は年齢が高い方でした。そういう背景もあり、プレイヤー側としてではなく、eスポーツシーンを作っていく側に身を捧げたいと考え、eスポーツ業界で働くことを目指す方向に切り替えました。

なので、就活では石塚と同じように、ゲーム関連の企業やeスポーツに注力している企業を受けていました。僕は2019年入社なので、就活は2018年。ちょうどeスポーツが話題になり始めていたので、eスポーツという言葉に対して反応してくださる企業は多かったですね。

eスポーツの地位を底上げするためにはいろいろな武器を持った会社でなければと考えていたので、CyberZの動画配信や大会プラットフォームだけでなく、全社的に見てもスマホアプリやIPなど、幅広い武器を持っているサイバーエージェントグループに入社を決めました。

――学生時代にしてきた活動を、どのように就活での自己アピールに繋げていましたか?

石塚:僕は「CoD 全国大学対抗戦」で2連覇した実績があったので、それは必ず伝えるようにしていました。特に2度目は、全部で80チームくらいが参加していたので、大きな大会で全国1位を取りました、という感じで。あとは、eスポーツサークル立ち上げのことや、大学と協力してオープンキャンパスでイベントをしたエピソードも面接で話していました。

植田:僕は学部のなかでもトップクラスのガチなゼミに入っていたんですが、そこで表彰されたり、建築の賞や学内の賞を獲得したりと、いろいろと成果を残していたんです。なので、しっかり学業もやりつつ、eスポーツのプロ選手としても活動していたことを武器に就活をしていました。

石塚:学業は皆、がんばっていましたね。全員ちゃんと「フル単」で、僕は成績優秀者でもありました。eスポーツプレイヤーとして大会で良い成績を残していたとしても、どうしても「ゲームばっかりやって」とか、「たかがゲーム」と言われてしまう。でも、学業が優秀でゲームも強いことを示せたら、少しずつ社会的にも認められていって、“たかがゲーム”じゃなくなると思っていたんです。当時の僕らにとっては、それがeスポーツプレイヤーの形かなと考えていました。

僕はチームでリーダーをしていたんですが、メンバーには「絶対に単位を落とすな」「4年生までに単位を全部取り終われ」と伝えていました。ゲームの練習と学校の授業を両立させるために、皆で協力しながら練習して勉強もして。それを皆、ちゃんとやり遂げていたんです。そういう形であれば、ゲームの知識や経験、ゲームへの熱は就活に活かせると思っていました。

それに、例えば大会が授業と重なったときに、いきなり「ゲームの大会に出るので、休ませてください」というのは、難しいじゃないですか。でも、成績優秀だったら、話を聞いてもらえるかもしれない。結果として、大会と授業が被ることはなかったんですけど、そういうことも考えていました。

小部:“たかがゲーム、されどゲーム”だと思っているのは、自分たちだけなんですよね。まわりの人から見たら、“たかがゲーム”なんです。それを変えていくためには、ほかの人たちにも認めてもらえるように、自分たちが示していかなければいけないという意識はありました。

――就活した年によって、eスポーツへの反応もさまざまだったというお話もありました。これから就活するにあたっては、どんなアピールが活きるでしょうか?

石塚:僕は入社1年目から、サイバーエージェントの新卒採用にも一部関わらせていただいているのですが、「eスポーツの大会を開いたことがあります」とアピールする就活生は、すごく多いんですよ。

僕たちが就活していたときは、まだeスポーツが浸透していなかったので、例えば「◯◯というゲームで、60人以上が集まる規模のeスポーツ大会を開催しました」と言えるだけで、十分に評価されたと思います。

でも今は、いろんなタイトルのコミュニティ大会が、毎日のように開催されるようになり、eスポーツの認知度も高まりました。なので、eスポーツ大会に携わった経験があるだけでは評価につながりづらいでしょう。これからゲームやeスポーツの業界で就職活動をしようと考えている人たちは、何かそれ以上の実績、強みを持って挑むことでまわりの人と差別化できるのではないかと思います。