続いて、趣味のゲームを仕事にしてeスポーツ業界に飛び込んだ4人に、家族からの反応や自身の変化、これからの目標などについて聞いていきます。周囲からのゲームに対するネガティブなイメージと対峙してきた彼らが、eスポーツ業界で目指すこととは。その想いを語っていただきました。
eスポーツを仕事にすることへの家族の反応は?
――第二新卒で入社されたお2人は、前職ではどういった仕事をされていたのでしょうか?
楠本:テレビの制作会社に勤めていました。もともと学生のころから映像づくりに興味があったので、就活で受けていたのはテレビ局やテレビの制作会社など映像関係の仕事がほとんどでした。
前職の制作会社に入社してから半年ちょっと経ったところで、石塚からOPENRECで配信するオリジナルのゲーム番組制作をやらないかと声をかけてもらったんです。話を聞くと、趣味のゲームと自分の好きな映像づくりの両方が活かせる仕事だと感じて、面接を受けることにしました。僕にとっては、趣味のゲームを仕事にすること自体、それまで考えたことがなかったんです。めったにないチャンスが巡ってきたと思ったので、決断は早かったですね。
小部:僕はまったく畑違いのところから来ていて、前職では作業着にスパナを持って働いていました(笑)。
大学では、eスポーツをテーマにして論文を書くほどゲームは好きだったのですが、それが仕事につながるイメージはまったく湧いていなくて。就活では安定を重視して、工業系のメーカーを選びました。
入社から1年半くらい経って東京に転勤するタイミングで、CyberZの仕事の話を聞きました。前職はすごく良い会社で、不満もなかったんですけど、自分の好きなeスポーツに関われる仕事に挑戦してみたいという気持ちが強くて。
新卒で入った会社では「まずは3年働いて……」というイメージも一般的にはあると思うんですが、僕は自分の好きな仕事にチャレンジするなら、早い方がいいんじゃないかと考えて、転職を決めました。この判断は正解だったと思います。
――eスポーツ業界で働くことに対して、家族など周囲の人から反応はありましたか?
楠本:僕は幼稚園のころからゲームばかりしていて、ずっと「ゲームのやりすぎだ」と親にとがめられてきたんです。でも、今の仕事が決まったと話したときには、「ゲームが仕事になるなんて現代っ子だなぁ」という反応でした。
大会で実績を残したときにも、似たようなことを言われたんです。ゲームってスポーツのように一般に浸透しているものではないので、親からすると何をしているのかよくわからないと思うんですよね。それが、大会で勝って賞金をもらったり、実際に仕事につながったりして、これまでずっとやってきたゲームが無駄ではなかったんだなと。結果的には、「ゲームやってて良かったね」と言ってもらえるようになりました。
石塚:チームでの練習中とか、よくブレーカー落とされてたよね(笑)。後ろでお父さんめっちゃ怒ってて。
楠本:そうそう(笑)。大会に出ていたころ、夜にボイスチャットをしながら練習してたのですが、親から「うるさい!」って怒られて。そこはまぁ、僕が行き過ぎていた部分もあったと思うんですけど……。
今は実家に帰ると、ゲームやeスポーツの説明をしたりしています。最近は、父から「eスポーツって言葉を聞くようになったよ」と言われて、自分の仕事のことも説明しやすくなりました。そこは、ここ数年で変わったところかもしれないですね。
小部:僕が転職を決めたときは、ガッツリ反対されました。安定している大手メーカーから、変化の激しいベンチャー業界に行くというので、親からは「大丈夫なの?」と。ですが、サイバーエージェントという大きな会社がやっているから大丈夫、と説得することでなんとか理解してもらいました。
その後、2019年2月に開催された「EVO JAPAN」のOPENREC配信を担当したんですが、親にも「現地の福岡に行ってくる」と伝えていたんです。そしたら、ちょうどテレビで「EVO JAPAN」が放送されたのを見たらしくて。その写真と一緒に「eスポーツってすごいね」って送られてきたんです。テレビを見て、親が理解してくれたというか、「こんなこと最近やってるんだね、がんばってね」という応援に変わりました。
石塚:僕の母からも、テレビや記事でeスポーツという言葉を見つける度に、写真が送られてきますね。
母はeスポーツをきちんと理解しているというより、「eスポーツをやっている」というイメージなので、たまに弊社が出したリリースとかも送ってきて、「いやいや、それは自分の会社や」みたいなこともあります(笑)。
植田:僕は入社時に反対されることはなかったんですが、もともとはすごくゲームに厳しい家庭でした。「ゲームをするなら、リビングのここで何時まで」という感じで、ずっと決められた場所と時間でゲームをする環境だったんです。
その状態でコツコツとゲームを続けて、「CoD 全国大学対抗戦」で準優勝して賞金を持って帰ってきてからは、ゲームでの活動を認めて応援してくれるようになりました。それ以降は、プロ選手になるときも「がんばって」と言ってくれて。就職に関しても、やっぱりその方向に行くんだという感じで、すんなり受け入れてくれましたね。
石塚:僕はほかの3人と違って、親がゲームに対して寛容でした。小中高ではずっとバスケをやっていて、全国1位を目指していたんですけど、高校のときにケガで辞めたんです。バスケができなくなって、今度はゲームで全国1位を目指すと伝えると、母は「ゲームでも何でも、1位にこだわってがんばりなさい」と応援してくれました。なので、ゲームをしていても怒られることはなく、むしろ「大会の成績はどう?」と聞かれるくらいでしたね。
――eスポーツに対してプレイヤー側から仕事で携わる側になって、何か意識として変わったことはありますか?
楠本:仕事で携わるようになってからは、ただゲームを普通にプレイするだけではなく、どうしたらそのゲームの魅力がうまく伝えられるかを意識するようになりましたね。
例えば、このゲームはこういう部分がおもしろいから、それを伝えるためには番組でこんな演出にしようとか。そういうことを普段から考えるようになったのは、変化したことだと思います。
石塚:よく「趣味を仕事にすると良くない」と言われてますが、僕は就活をしていたころから、それは絶対にないと思っていたんです。実際にeスポーツを仕事にして、やっぱり趣味を仕事にして良かったなと思うことが多々あります。例えば、趣味でのインプットが仕事に活かされるので、好きで調べたゲームの情報を社内のメンバーに共有するだけで、いい情報をいち早く共有できたと喜んでもらえることもあります。
また、趣味を仕事に活かせると、さらに好きになっていく感覚もありますね。もともと好きだったシューティングゲームに限らず、『League of Legends』の韓国リーグを現地まで観戦しに行くこともありました。趣味で行ってそこで撮った写真を社内で共有したり、話したりするだけでも、周りの人に喜んでもらえて、“天職”だと思いますね。
小部:もともと自分がプレイヤーとして大会に参加する立場だったので、大会や番組を制作するうえで「自分が選手だったらこうしてほしいはず」と、選手の目線に立って考えられることが、強みの1つになっていると思います。
今、『Apex Legends』のオンライン大会の制作に関わっているのですが、どうしたらもっと選手にとっていい大会になるかを自分のなかで設計して、周りのメンバーと協議しながら、OPENRECというプラットフォームで出せることにやりがいを感じています。
植田:以前までeスポーツ大会の「RAGE」に携わるチームにいて、大会を作り上げていく仕事を経験しました。これまで会社や先輩方が培ってきた経験やノウハウがあるからこそ、作り上げられるものだと実感しましたね。同時に、僕自身が選手として活動したり、アマチュア大会を運営したりしてきた経験も、強く活きているなとも思います。
学生時代は出る側として「あの大会に出てみたい」とか「あの大会で優勝したい」と思うだけだったんですけど、作る側になってからは、プレイヤーの皆にそう思えるような大会を運営していきたいですね。
また、現在僕は2019年9月にリリースしたスマホアプリ「PLAYHERA」にも携わっています。「PLAYHERA」は新しいeスポーツコミュニティのプラットフォームで、eスポーツの大会を手軽に開催・運営できる機能や、ユーザーが大会を探して参加できる機能、SNS機能などを備えています。
そこでは、チームと選手、大会主催者、スポンサー、IPホルダーをつなぐハブとして、eスポーツのエコシステム構築に役立てられれば、と考えています。
次世代の“eスポーツ人材”に求められることとは
――皆さんよりもさらに次の世代の、これからeスポーツ業界に携わりたいと考えている人に向けて伝えたいことはありますか?
植田:今はずいぶんeスポーツが話題になってきたとはいえ、まだまだ発展途上です。出来上がった市場ではなく、未成熟なeスポーツ業界で挑戦してみたいと思えることが、それだけで武器なんじゃないでしょうか。迷わず、eスポーツの業界に踏み込んでほしいなと思いますね。
先ほど石塚が話していたように、「趣味のゲームを仕事にしても大丈夫かな」と悩む人もいるでしょう。でも、ゲームやeスポーツが本当に好きだったら、絶対にもっと好きになるはずなので、そこで躊躇する必要はないと思います。
小部:eスポーツは発展途上だからこそ、自分のやりたいことをやれるチャンスはたくさんあるはず。ただ、好きなことを仕事にして、それをビジネスとしてやっていくことに対して、自分もすごく悩んだ時期がありました。単なる趣味ではなく、ビジネスとしてどう成り立たせるのか、という考え方を持たなければいけない。そこは苦労しつつ、学んでいくところなのかなと感じます。
そういう面も含め、eスポーツに興味があって「こんなことをやってみたい」という夢がある人は、ぜひ目指してみてほしいです。
楠本:eスポーツをさらに発展させていくためには、今の大人にはない知識や経験を持った若い世代の活躍が必要だと思っています。だから、僕たちよりも若い世代の人たちには、「君たちにしかできないことがある」と伝えたいですね。
今まさにプレイヤーとして経験している高校生や大学生くらいの、eスポーツ世代ともいえる層が入ってくることによって、eスポーツ業界はより加速していくのではないかと思います。
石塚:今、eスポーツ業界を目指したいと考える人では、自分が好きな1ジャンルのゲームを極めてきた人が多いのではないでしょうか。でも、eスポーツには幅広いジャンルのゲームがあって、そのなかにさらにさまざまなタイトルがありますよね。これからeスポーツ業界で働くことを考えたときに、1つのジャンルに詳しいだけでは厳しくなってきているように感じます。
僕らの世代だったら、プレイヤーとしてeスポーツ大会に出場したとか、そういう経験を持つ人自体が少なかったので、それだけでかなり有利でした。でも、これからは好きなゲームだけでなく、いろんなゲームに詳しい存在になって、やっと“eスポーツ人材”になれるのかなと。僕も入社当初、自分が好きなシューティングゲームを担当したいと考えていました。僕の場合はタイミングが合ったこともあり、すぐに担当させてもらえたんですが、もし違うジャンルを担当することになっていたら、それまでの知識だけでは全然活躍できていなかったと思います。
そう思って、社会人になってからゲームをもっともっと勉強するために、今ではPCゲーム、コンシューマーゲーム、モバイルゲーム、それぞれの人気タイトルをオールジャンルで触れるようになりました。
あとは、eスポーツに特化するだけでなく、“eスポーツ×何か”を持っていることも強みになるかもしれません。例えば趣味で、eスポーツ以外にアニメやサブカルの領域にも詳しい、とかでもいいと思います。幅広いゲームに詳しい存在になることと、eスポーツ以外にも得意な領域をもう1つ持つこと。加えて、基礎的なビジネススキルは必須ですね。ゲームメーカーとの交渉、選手のマネジメント、番組制作など、どの仕事でもビジネススキルは重要です。この3つが今後、eスポーツの仕事をするために、必要になってくるのではないでしょうか。
eスポーツの価値を認めてもらえる社会を目指して
――最後に、皆さんが今後実現したい目標について教えてください。
植田:僕は、子どもたちが「サッカー選手になりたい」「野球選手になりたい」と言うのと同じように、「eスポーツ選手になりたい」と堂々と言えるようになってほしいと考えています。それが世間に認められるように、eスポーツそのものの地位をもっと向上させることに貢献していきたいですね。
小部:海外で活躍しているプロゲーミングチームの選手たちが、今は「東京ゲームショウ」や「闘会議」に出ていますが、そういうイベントを自分たちで開催できるようになりたいです。海外のプロチームを招いて、日本のプロチームも負けていないところを見せたいというのは、1つの目標です。
楠本:番組や大会の制作に携わる仕事をしているので、格闘ゲームなら世界最高峰の大会「EVO」があるように、それ以上の大きな大会を、いつか僕が携わった大会から生み出したいと思っています。
それから、もっとeスポーツの認知度を高めて、周囲の人に馬鹿にされないものにしたいと思っています。そのためにも、まずはテレビでeスポーツの大会を放映したいですね。一般的なスポーツの観戦であれば、家族で一緒に見ますが、日本ではまだ「家族でeスポーツ大会を観戦する」という感覚はないので、それが普通になることを目指していきたいです。
石塚:僕は、就活の時から掲げている「eスポーツをオリンピックの種目にして、それに自分が関わる」という目標から、今も変わりありません。これは一生かけて目指していきたいと思っています。
この目標を立てたのは、僕らが全国を目指して本気でゲームに向き合ってきたなかで、周囲からそのがんばりを認めてもらえない仲間を見てきたからです。そういうイメージを払拭するためにも、この夢を追いかけていきたいです。
――皆さん、本日はありがとうございました!