野生のツキノワグマは、秋に大量のドングリを採食することで、その年の冬眠だけではなく、翌年の春から夏にかけて必要なエネルギーを蓄えていることが、東京農工大学(農工大)および東京農業大学(東京農大)の研究チームによって判明した。

同研究の詳細は、農工大大学院農学研究院自然環境保全学部門の小池伸介 准教授、東農大 地域環境科学部森林総合科学科の山﨑晃司 教授らによるもの。詳細は米国の生態学誌「Ecosphere」オンライン版に掲載された。

食事を採ることでエネルギーを蓄え、身体を動かすことでエネルギーを消費することはほとんどの生物に共通することで、そのエネルギーの収支状態を調べれば、その生物の栄養状態を評価することができる。そこで研究チームは今回、ツキノワグマのエネルギー収支の季節変化と、その食生活にとって大切な季節を明らかにすることを目的に、クマの秋の主食であるブナ科の果実(ドングリ)の実のなり具合との関係性、ならびにクマの糞の中身から食べ物の特定をしたほか、採食時の映像からの食べ物の量の算出などから、1日あたりのエネルギー摂取量の調査を行ったという。

対象としたのは2005年から2014年にかけて、栃木県および群馬県にまたがる足尾・日光山地で追跡調査を実施した計34頭の成獣。調査の結果、いずれの個体においても、春から夏にかけてのエネルギー収支はマイナスであったものの、秋には大きくプラスになっていること、ならびにドングリが凶作の年では、オスに比べて行動圏が小さいメスはエネルギー摂取量が減少することで、秋のエネルギー収支が低下することがわかったという。

  • ツキノワグマ

    ツキノワグマのエネルギー収支平均値の季節変化。左がオスで右がメスを示し、オレンジ色はドングリの豊作年、緑色の線は凶作年を示している (出所:農工大Webサイト)

調査では、秋のドングリが1年間に摂取するエネルギーの約80%を賄う、いわゆる食いだめを行っていることが判明。研究チームでは、これまで、秋のクマが人里へ出没するのは、ドングリの凶作が影響していることは知られていたが、ほかの季節の人里への出没にも前年のドングリの凶作が関係している可能性があり、今回の調査結果が、今後の熊の科学的な保護管理につながればとしている。