オールスクリーン化によるフォームファクターの変化

iPhone初のディスプレイにまつわるデザインとして、オールスクリーンがある。iPhone Xを登場させた2017年、縁まで敷き詰めた有機ELディスプレイを採用し、TrueDepthカメラ部分を避けるノッチを用意して、それまで表面にあったホームボタンを排除した。

このデザインは、2018年に価格を抑えて登場したiPhone XRにも採用されたが、こちらは液晶ディスプレイで有機ELと同じスクリーンの実装を行い、「Liquid Retina」と名付けられた。もともと、Retinaディスプレイは高解像度のディスプレイとして登場しているが、ハイエンドモデルに用意されるSuper Retinaが有機ELであることから、これと対比する意味で名付けられたと考えている。

iPhone 11にもLiquid Retinaは引き継がれており、Appleのスマートフォンはノッチのあるオールスクリーンの意匠で統一された。2018年10月に登場したiPad Proにも、縁なしの液晶ディスプレイが搭載され、こちらにもLiquid Retinaのブランド名が使われた。ただ、iPad ProはiPhoneほど縁までディスプレイを敷き詰めているわけではなく、TrueDepthカメラを搭載しても画面の切り欠きは存在せずに済んだ。

オールスクリーンになり、タッチパネル以外に操作に用いるボタンなどがなくなったため、ホームボタンを用いていた操作がスクリーン下部を用いるジェスチャーへ置き換えられた。ディスプレイのテクノロジーの変化によって、ヒューマンインターフェイスのスタンダードも変更されたことが分かる。

Apple Watchで登場したLTPOと常時点灯ディスプレイ

2019年のApple新製品のディスプレイでもう一つ指摘しておかなければならないのが、Apple Watchの新しいディスプレイだ。2018年モデルでは、画面が拡大するデザイン変更が行われているが、テクノロジーとしてLTPO(低温ポリシリコン+酸化物)という、LPTSとIGZOのいいとこ取りをするような形で耐久性と省電力性を高めた有機ELディスプレイが採用されていた。

今年はさらに、パワーマネジメントや画面の書き換えを司るコントローラーを改善したことで、これまでと同じ18時間のバッテリー持続時間を維持しながら、スリープ時に消えてしまっていたディスプレイを常時点灯とし、手首を返して画面をアクティブにしなくても時間などの情報が確認できるようにした。

  • Apple Watch Series 5のディスプレイは、これまでのLTPO技術を盛り込んだ有機ELパネルを継承しつつ、改良により常時点灯を可能とした

通常60Hzで書き換えている画面を1Hz、つまり1秒間に1度の書き換えにすることで、スリープ中の消費電力を大幅に抑えている。スムーズに動く秒針のある文字盤であれば、その秒針を表示させないようにしたり、1/100秒の単位を表示するストップウォッチやワークアウト計測では秒までの表示にするなど、1Hzの書き換えに対応するよう表示を変更している点も目につく。

これらの改良に加え、画面表示のデザインも省電力性を追求したものにしていることが分かる。たとえば、文字盤が白く塗られているデザインであれば、スリープ時に文字盤を白黒反転させる。巨大な数字を表示するアナログ時計であれば、文字の縁取りだけ表示し、内側を消すか暗くする、といった具合だ。有機ELディスプレイは黒が消灯であるため、黒い領域を増やせば電力消費はその分抑えられる。その特性をインターフェイスデザインに反映させる工夫もまた、Appleらしい取り組みといえる。

  • 通常表示時の白い文字盤

  • スリープ時は白黒が反転し、電力消費を抑える

常時表示とXDRが次世代の標準に

今後のApple製品のディスプレイのトレンドは、Apple Watch Series 5に採用された常時表示がほかのモバイルデバイスにも採用されていく方向性と、Pro Display XDRやiPhone 11 Proに登場したXDR対応ディスプレイの拡大の2つの方向性を見ることができる。XDR対応をうたうディスプレイは、iPad Pro、iMac Pro、そして今年にも登場が期待されるMacBook Proの新モデルなどへも採用され、プロの制作環境を支える仕様となるだろう。

これらの実現を通じて、LPTO有機ELディスプレイや、有機ELの次ともいわれるマイクロLEDなどの新しいテクノロジーへの移行が進んでいくことになるとみられる。前回の記事でも指摘したとおり、これらの変化はApple Watchへの実装が主導していくことになる、と考えられる。