Qualcommは9月24日~25日(現地時間)にかけて、米国・サンディエゴの同社本社で5Gに関するワークショップを開催。複数の国で商用サービスが開始され、日本でもプレサービスが始まった5Gの今後の技術動向などについて解説しました。
Qualcomm TechnologiesのCTOで、Engineering部門EVPのJim Thompson氏は、4Gのスタート当初は韓国、米国、日本の3カ国だけ、デバイスを提供していたのも3社だけ、すべてFDD-LTE(Frequency Division Duplex Long Term Evolution)で、ほとんど同じ周波数帯とシンプルだった点などを指摘しました。4Gの初期は「あまり良くなかった」と表現します。
それに対して、5Gは過去6カ月以内に30以上の事業者がサービスを開始。TDD(Time Division Duplexing)、ミリ波、サブ6、NSA(Non-StandAlone)、SA(StandAlone)と多くの違いがあり、複雑なネットワークになっている……とThompson氏は強調します。
Qualcomm Technologiesの4G/5G部門SVP & GMであるDurga Malladi氏は、4Gの当初よりも速いペースで各国の5Gがスタートしていることを紹介。2019年は5G元年で、2020年は拡大の年だと述べます。
すでに5G対応デバイスは150以上が製品化または開発中で、ルーター類や各種モジュールも登場してきています。QualcommのSoCであるSnapdragonも、初期端末向けのX50 5Gモデムに続いて、2019年内には2Gから5Gまでを統合したX55 5Gモデムを搭載した製品が登場する予定です。SAにも対応し、スマートフォンだけでなくPCや自動車など、幅広い端末に適用されるとのこと。その後、例年通りであれば12月に次期Snapdragonが発表され、さらなる機能強化が図られることになります。
5Gで先行する韓国では、4カ月で200万台の5G対応スマートフォンを販売。Thompson氏は今後さらに、ネットワークの安定性やカバレッジも改善して5G端末の普及が進むとみており、2020年には「すべてのハイエンド端末が5G対応になる」としています。
当初、5Gはスマートフォンでの利用がメインとなりますが、その後は多彩なデバイスに適用されていき、利用範囲が拡大します。例えば5Gは遅延が短いため、現在は端末上で実行されているAI処理をエッジクラウドで行うことで、より高度なAI処理が行えるようになります。Thompson氏は「5GとAIは非常に重要な組み合わせ」と強く語ります。
5Gの範囲拡大として、工場のオートメーション化や、自動車事故の減少が期待される自動運転などを紹介するThompson氏。遅延がミリ秒単位と短いことは、センサーのような小電力かつ単機能のデバイスでも、エッジクラウドで処理を肩代わりすることで大量のデータを処理できるようになります。クラウドといっても、5Gプライベートネットワークの構築も可能なため、セキュリティとプライバシーも確保できるとしています。
Qualcomm Technologiesのエンジニアリング部門でバイスプレジデントを務めるJohn Smee氏は、5Gの拡張性を語りました。特に、スケーラブルな5Gは、共通のフレームワークでさまざまなサービスに適用できるように設計されているとします。
こうした機能を実現するために5Gの標準化が進められており、現在はRelease 15が最新版です。基本的には高速大容量を規定していますが、2020年にはRelease 16が正式公開される予定。今後はRelease 17まで進展し、この段階をSmee氏は「5Gの前半」と呼びます。さらにRelease 18から20までが「5Gの後半」で、Qualcommはすでに研究を開始しているそうです。
こうした進化において、現在はLTEと5Gを共存させるNSAが主流となっていますが、5Gのカバレッジ拡大にともなって、5Gのコアネットワークを使ったSAに移行していきます。キャリアアグリゲーションによってパフォーマンスを向上させ、ネットワークがさらに進化していくシナリオです。
ネットワークが進化すると、想定されているさまざまな活用が実現可能に。C-V2X、プライベートIoT、Massive MIMO、アンライセンスドバンドといった用途が生まれます。
今後の数年内に、ここで紹介してきた5Gで想定される未来の訪れが期待されています。プレゼンを担当したQualcommの3氏がそろって強調したのは、5Gで重要なのは高速・大容量・低遅延といったスペックではなく、それをもとにどんなアプリケーションを実現するかという点です。特に今回は、工場のオートメーション化など産業用アプリケーション、自動運転を中心とした話題やデモとなっていましたが、エンドユーザー的にはスマートフォンから5Gが始まり、5Gは人々の生活や産業全体に影響を与えていく技術である……ということをアピールしていました。