ワッ! と沸き返るアリーナ。総立ちになる観客。つられて立ち上がる自分。
会場の盛り上がりから、何やらスーパープレイが起きたことはわかる。だが、立ち上がってファンとの一体感を演出してみたものの、自席からは死角で何が起きたかまったく見えなかった――、なんてシーンをスポーツ観戦で経験したことのある人もいるのではないだろうか。
筆者は日本のプロバスケットボールリーグ「B.LEAGUE」の試合を観に行くことがあるのだが、上記のような見逃しをよく経験する。2019年5月11日に行われた東京アルバルクvs千葉ジェッツのリーグファイナル。東京アルバルクが20点近く差をつけて優位に立ち、このまま試合終了かと思われた最終クオーター。富樫勇樹選手を中心に、千葉ジェッツが怒涛の反撃を見せる。そしてついに、ラスト30秒、冨樫選手のスリーポイントシュートで2点差のところまで追いついたのだ。
ボールがネットに吸い込まれた瞬間、飛び跳ねるブースター。叫ぶ冨樫選手。喚起するベンチ。そして、キョトンとする筆者――。そう。なにも見えなかったのである。ちょうどゴールに重なっていて、正直、誰がシュートを打ったのかすらわからなかった。
非常に悔やまれる経験だが、今後5Gが普及すれば、そんな悲しみ感じずに済むようになるかもしれないのだという。はたして、未来のスポーツ観戦はどう変わっていくのだろう。
自由視点映像で死角のプレイを見逃さない
8月22日、バスケットボール日本代表とアルゼンチン代表の国際親善試合が行われた。会場のさいたまスーパーアリーナでは、ソフトバンクが「5Gプレサービス体験会」を実施。新しいスポーツ観戦の楽しみかたを紹介していた。
最新技術を用いたいくつかのデモを行っていたが、なかでも便利そうだと感じたのは「自由視点映像」だ。コートを取り囲むように設置された30台のカメラによって生成された映像を、好きな視点に切り替えながら観戦できるというもの。タブレットを指でスワイプするだけで、映像の巻き戻しや視点の変更が可能なのだ。
スポーツ観戦では、冒頭で触れたように座っている位置によってスーパープレイを見逃してしまうこともある。しかし、このサービスを使えば、死角の多いイマイチな席でもプレイを見逃す心配がないのだ。もちろん、会場に行けない人にとっても、好きなアングルでプレイを楽しめるのはうれしいことだろう。
体験会では、抽選によって選ばれたユーザーがタブレット片手に試合を観戦していた。現実のコートを見たり、タブレットの視点をくるくる回したりと、新しいスポーツ観戦を楽しんでいる様子だった。
目の前でプレイしているような臨場感をVR映像で
5Gで変わるのは自由視点映像だけではない。VRや4K、8Kの大容量映像も多くの人が楽しめるようになるはずだ。プレサービス体験会では、まるで目の前で選手がプレイしているかのようなVR映像が味わえるようになっていた。
VR映像では、現実では試合中になかなか近づけないような場所から観戦できるため、新鮮さを覚えるはずだ。コート横からの視点では、選手のベンチから応援するような距離感で、ゴール下からの視点では、遠くから見ているだけではわかりづらい激しさが伝わってくる。なんといっても、NBAでドラフト指名を受けたばかりの八村塁選手の力強いプレイをゴール下で見られるのは、ファンにとってこれ以上ない喜びだっただろう。
また、VRでは同じ仮想空間でほかの人と一緒にスポーツ観戦を楽しめるという特徴がある。今回は試合会場で体験会が行われたが、遠く離れた場所にいる友人と一緒にライブビューイングのように盛り上がるといった使いかたに向いているかもしれない。
ほかにも体験会では、4KHDR映像(Dolby Vision)を5Gで受信する取り組みや、IoTを使った顔認証ゲート、選手ごとの自動追尾映像、ARホログラムによる観戦体験、リアルタイムに映像にデータを表示させるスタッツ、Googleレンズを使ったポスタームービーなど、さまざまなデモが行われていた。
2020年まであとわずか。来年はオリンピックだけでなく5Gの商用サービスがスタートする予定の年でもある。今回の体験会で紹介していたサービスが実現すれば、より幅広いスポーツ観戦の楽しみ方ができるだろう。実用化が待ち遠しい。