◆RMMT 1.1(グラフ44~45)

冒頭でも述べたようにDeep Dive編は後程お届けするとして、性能ベンチマークの最後にこれだけ。今回からアクセスサイズを40MBにした(これまでは20MBだったが、これだと第3世代ZenだとL2+L3で収まってしまう可能性があるため)。このため、従来と少し結果に互換性がなくなっている可能性がある。

ということでまずRead(グラフ44)。意外に粘らばいのがRyzen 7 3700Xで、同じDDR4-2666を使うRyzen 9 3900Xのケースと比較しても5Thread以上での上乗せがないのがちょっと不思議であるが、まぁピークで37GB/sec程度の連続読み込み性能があるから、これは悪い数字ではない。それよりもDDR4-3200を利用したRyzen 9 3900Xの帯域は凄まじく、最大48GB/secの帯域が利用できるというのは、さすがである。また1 Threadの際の読み込み性能がCore i9-9900Kと完全に肩を並べているのも特徴だろう。

一方のWrite(グラフ45)。まず1 Threadの場合を見ると、512bitのWriteをサポートするCore i9-9900Kに比べると、256bit Writeの第3世代Ryzenはちょっと見劣りするが、それでも128bit WriteのRyzen 7 2700Xに比べると大幅に帯域が増えている。一方2~8Threadの場合で見ると、DDR4-3200を利用した時のRyzen 9 3900Xの帯域の広さは文句なくすばらしい。Sustainedで20GB/secの書き込みが出来るのは、メモリの帯域を考えてもかなり優秀である。その一方で、同じDDR4-2666を利用している場合でもRyzen 7 3700XとRyzen 9 3900Xの間に結構明確な帯域差があるのは、メモリコントローラの動作周波数が異なっているのだろうか? この辺はもう少し後で調べてみたいところだ。

◆消費電力(グラフ46~51)

最後に消費電力である。まずSandra Titanium SP4cのDhrystoneとWhetstoneの消費電力変動(グラフ46)だが、i9-9900Kは冒頭20秒ほどは消費電力がパーンと280W近くまで跳ね上がるのに、その後160Wあたりを維持するのは、Thermal Throttringが発生しているのだろうか? マザーボードのBIOSを更新する過程でCPUのMicrocode更新も掛っているので、以前と振る舞いが変わる事そのものは珍しくない(その分すごく分かりにくい)のだが、なんか異様に消費電力が低くなっている。一方で、Ryzen 9 3900XはRyzen 7 2700X+αという程度、逆にRyzen 7 3700Xは非常に低めに推移しており、このあたりのコントラストが判りやすい。

グラフ47は、TMPGEncを利用してのx265のエンコード(4Thread)での消費電力変動である。やはりCore i9-9900Kは冒頭320W以上に消費電力が跳ね上がるもの、その後は180Wあたりまで消費電力を下げるという不思議な動きになっている。Ryzen系も冒頭ちょっと消費電力が跳ね上がるが、それはせいぜい30~40W程度であり、傾向がCore i9-9900Kとは全く異なっている。

グラフ48は3DMarkのFireStrike Demoでの変動である。こちらはCPUというよりもGPUがメインになるので、必然的にCPUによる消費電力の差は小さくなっている。

最後のグラフ49はFinal Fantasy XV Benchmarkである。2Kで高品質の場合の変動をまるごと追っかけたもので、こちらもGPUによる消費電力がメインである。

ということで、この4つのグラフから稼働時の平均消費電力をまとめたのがグラフ50である。こうしてみると、Ryzen系が結構消費電力高めに見えるが、実はIdleの消費電力が全然違うのが判ると思う。理由はおそらくX570マザーボードである。なにしろハイエンドで全部てんこ盛りの上、PCI Express Gen4のサポートなどもあるから、それは消費電力が高くても当然、という訳だ。

そんな訳でIdle時の消費電力との差を求めたのがグラフ51である。まずDhrystoneとWhetstoneであるが(詳しい解説はDeepDive編で)、とりあえずDhrystone/WhetstoneについてNative 32bitの結果とこの消費電力、及び効率をまとめたのが表2と表3となる。実は一番効率がいいのが、無理せずに性能を出しているRyzen 7 3700Xだった、というのもさもありなんという感じである。Ryzen 9 3900Xはやはり性能を引き上げるべく動作周波数を上げているため、効率がCore i9-9900Kとほぼ同等レベルになっている。とは言え、Ryzen 7 2700Xに比べると恐ろしく改善されている訳ではあるが。やはりトップエンドの製品は、効率を犠牲にしても性能を引き上げているので、どうしても効率は二の次にせざるをえないのだろう。Core i9-9900Kにしても、DDR4-2933にするといきなり効率が落ちてるあたり、ピーク性能を取るか、効率を取るかというのは難しい判断だということが判る。

■表2
性能(GIPS) 消費電力(W) 効率(GIPS/W)
i9-9900K 366.20 104.6 3.50
i9-9900K(2933) 390.40 126.7 3.08
R7 2700X 285.11 142.0 2.01
R7 3700X 380.52 109.9 3.46
R9 3900X 552.00 167.1 3.30
R9 3900X(3200) 552.88 174.0 3.18
■表3
性能(GFLOPS) 消費電力(W) 効率(GFLOPS/W)
i9-9900K 230.00 106.1 2.17
i9-9900K(2933) 231.35 109.8 2.11
R7 2700X 204.57 136.8 1.50
R7 3700X 229.65 99.4 2.31
R9 3900X 331.59 149.8 2.21
R9 3900X(3200) 332.09 156.4 2.12

同様に表4は、グラフ9のTMPGEnc Mastering Works 7のエンコード速度と消費電力から、エンコード速度効率を計算したもの(*1)だが、一番効率が良いのはやはりRyzen 7 3700Xで、Ryzen 9 3900XはCore i9-9900Kなみ。ただそれでもRyzen 7 2700Xよりはずっと効率が向上している事が判る。

■表4
性能(fps) 消費電力(W) 効率(fpm/W)
i9-9900K 10.3 119.9 5.15
i9-9900K(2933) 10.3 120.6 5.12
R7 2700X 8.0 160.1 3.00
R7 3700X 11.0 120.1 5.50
R9 3900X 15.9 186.6 5.11
R9 3900X(3200) 15.9 190.7 5.00

(*1) 数字を元々のfpsで計算すると少数以下2桁目の違いになってしまって判りにくいので、数字を60倍し、1分あたりの処理枚数であるfpm(frames per minute)にして効率を計算している事に注意されたい。

◆考察 - よくぞここまでの性能に

ということで、まず今回はCPUの性能評価に絞ってご紹介した。折角の7nmプロセスながら、頑張って動作周波数を引き上げたために性能/消費電力比はあまり宜しくないのが残念ではあるのだが、それでも従来に比べるとずっと改善しており、バランスも良い。なによりRyzen 9 3900Xのピーク性能はCore i9-9900Kに全く遜色ないところまで来ており、Ryzen 7 3700Xもかなりのものの上に、省電力性も悪くない。よくぞここまで性能を高めた、というのが率直な評価である。

個人的には、これはOverclockでどこまで引っ張れるかよりも、Underclockでどこまで消費電力を下げて効率を改善できるかを追求したほうが面白そうで、その意味ではRyzen 5 3600あたりはかなり狙い目の製品なのかもしれない。

それとは別にして、ここまでRyzen 9の性能が高いと、ベンチマークのリファレンスとして利用できるレベルに達していると判断できる。なので、この後にお届けするRadeon RX 5700シリーズとRTX Superシリーズの評価は、このRyzen 9を使ってやることにしたいと思う(というか、現実問題としてPCIe 4.0に対応してるのがこれしかないから、という理由もあるのだが)。

さらにDeep Dive編では、「ではAMDはいかにしてこれを実現できたのか」、というあたりを出来る限り解析して行きたいと思う(ので、気長に待ってほしい)。