韓国市場で2011年春に発売され、爆発的にヒットした家電があります。LGエレクトロニクスが開発した「LG Styler」です。登場から10年に満たない新しい家電ですが、いまや韓国では洗濯機と並んで必需品となりつつあります。人気の秘密を韓国で取材してきました。

必須家電のひとつになったLG Styler

LG Stylerは、衣類をケアする家電。大きなクローゼットのような本体の扉を開けると、中にはハンガーがセットされており、スーツなどがかけられる仕組みです。本体下部には大きなタンクが2つ内蔵されています。LG Stylerを稼動させると、内部で約90℃の高温スチームによって衣類のシワを伸ばしたり、ニオイを除去したり、といった衣類ケアを行います。また、1分間に約180回という振動によって、衣類に付着したホコリや花粉などを落とすこともできます。

  • 寝室に溶け込んで設置されているLG Styler。韓国では若年世帯を中心に普及が進んでいます

加えて、LG Stylerは乾燥機能も搭載。洗濯が終わって濡れたシャツなども、数十分で乾かせます。寝る前にあわてて洗濯したシャツ、朝になっても乾いていなくても、LG Stylerがあれば出かける前に乾かせるでしょう(それなりに余裕ある朝の時間は必要ですが)。

そんなLG Styler、韓国では爆発的な人気に。要因のひとつは、2015年ごろから韓国で問題となっている空気環境の悪化です。中国から飛来するPM2.5が韓国で急増し、空気の状態が一気に悪くなったとのこと。

洗濯物は外に干せず、一日着た衣類の表面には多くのPM 2.5が付着します。それをそのまま部屋に持ち込んでは、健康リスクにもつながりかねません。LGの調査によると、様々な疾患やアルコール、タバコよりも、PM2.5のほうが体に悪い結果をおよぼすという結果もあるそうです。

急務だったPM2.5対策を実現したのが、LG Stylerでした。スーツに付着したPM2.5をしっかりと落とせて、翌日もリフレッシュした状態で着られるというわけ。クリーニングの代わりに、そして衣類も管理でき、暮らしを便利にしてくれます。韓国では、そうしたLG Stylerのメリットが2015年ごろから認知され、販売につながっていきました。

  • LGエレクトロニクス リビングアプライアンス B2B育成事業 担当常務 チャン・ボヨン氏。入社以降ずっと洗濯機を担当してきたという、衣類のスペシャリスト

LG Stylerを含めて、韓国における衣類管理機市場の規模は2018年の30万台に対し、2019年は1.5倍の45万台を見込んでいます。現在の韓国市場では、LG Stylerが毎月28,000台のペースで売れているのです。ただ、LGエレクトロニクスで白物家電の責任者を務めるチャン・ボヨン常務によると、ここまでLG Stylerが普及するまでには、韓国でもまずLG Stylerの認知に4年の期間がかかりました。

  • 韓国のインテリアショップ「ハンセム」の店内。LG Stylerが他の家具と合わせて提案されていました

「韓国では2011年にLG Stylerを発売し、テレビCMや各種メディアで認知を広げていきました。2015年ごろPM2.5が広がったとき、それに対応できる家電として認知されたのが普及につながった理由です」(チャン・ボヨン常務)

LGの調査では、部屋の窓を開けて換気したことで入ってくるPM2.5よりも、セーターやポリエステルの衣類に付着して部屋に入るPM2.5のほうが多いという結果が。スチームと振動でPM2.5を除去するLG Stylerが効果的というわけです。

若い世帯は洗濯機とLG Stylerをセットで購入

韓国では結婚するときに、家電を一式まとめて購入するという習慣があります(日本でもそうした家庭は多いでしょう)。いまやLG Stylerは、冷蔵庫、テレビ、洗濯機などの必需家電と並ぶ人気。ロッテデパート本店でマネージャーを務めるキム・ジョンホン氏によると、共働きの若い夫婦の9割以上がLG Stylerを購入しているそうです。

  • ロッテデパート本店 マネージャー キム・ジョンホン氏

「LG Stylerがあると、洗濯の回数が減らせると評判です。だいたい、3回洗濯するところを1回にしてくれます。LG Stylerにセットした衣類は高温スチームと振動でケアができ、さらに乾燥だけでなく香りもつけてくれます。洗濯機とLG Stylerはセットで買う人が多いです」(キム・ジョンホン氏)

韓国・ソウルの歓楽街、明洞(ミョンドン)にあるロッテデパートのLG製品売り場では、2018年に約500台のLG Stylerを販売。2019年は5月の時点で、販売台数はすでに1,000台を超えています。若いカップルの結婚セットに加えて、シニア世代も子ども夫婦や知人からの口コミで興味を持ち、来店することが増えています。

  • ロッテデパートのLG製品を取り扱うコーナーでは、LG Stylerが中心に置かれていました

「LG Stylerのモデルには、3着が入る“スリム”、ミラーガラスの“プラス”、5着が入る“ビッグ”があり、選択肢が増えました。また、スマートフォンからプログラムをダウンロードできる“LG SmartThinQ”を利用すると、韓国で人気のアウトドアファッションのケアにも対応できます」(キム・ジョンホン氏)

もともとLG Stylerは、5着が入る大型サイズから登場しましたが、2015年から普及が進んだのは3着タイプの“スリム”です。LG Stylerの認知が広がるにつれて、全高が15センチ高く、ロングコートなども入る“ビッグ”に再び注目が集まっているそう。庫内が広いビッグなら、布団をケアできる布団モードも搭載しています。衣類だけじゃない使い方ができるのも、人気の理由です。

韓国では高級ホテルで導入が進む

LGのチャン・ボヨン常務によると、2011年の発売時、LG Stylerは一般家庭ではなく法人販売のほうが向いているのではないか、という意見が多かったとのこと。しかし、LGエレクトロニクスでは、LG Stylerを各家庭に1台以上ある定番家電にするため、あえてBtoC市場を主眼に、一般ユーザーに認知を広げる戦略を選びました。

それが実を結んだのは2015年。先にも少し触れたように、PM2.5をケアするため、一般家庭でLG Stylerの導入が進みました。同時に、法人市場の開拓も積極的に進め、大きな市場となったのがホテルです。

  • ソウル郊外に位置する新しいホテル「コートヤード ソウル ボタニックガーデン」も、いち早くLG Stylerを導入

今回、ソウルにある2つの新しいホテルを訪ねました。ひとつがソウル郊外、金浦空港のほど近くに位置するマリオット系「コートヤード・ソウル・ボタニックパーク」です。このホテルの各フロアに2つずつ、隣接する植物園を眺められる「コーヤードスイート」ルームがあり、ウォークインクローゼットにLG Stylerが常設されています。

  • LG Stylerは、コーヤードスイートに設置。リビングのある広いスイートルームながら、2万円前後から宿泊できます

ホテル近辺は開発中ということもあり、平日はビジネスマンの利用が多く、「LG Stylerはビジネスマンから好評」(総支配人 マルコ・ピガット氏)といいます。

「LG Stylerは非常に便利だと感じました。宿泊されたお客さまからも非常に反応が良く、 LG Stylerがあるからこの部屋を選んでいる、という声も聞いています。毎日ケアできるので、ビジネストリップで持ってくるスーツは一着で済むそうです」(マルコ・ピガット氏)

  • ベッド横のウォークインクローゼットにLG Stylerを設置。各国語のマニュアルも用意されています

実際に、LG Stylerが設置された部屋に宿泊してみました。 丸1日取材して、ホテルの部屋に戻ったあと、シャツをLG Stylerにかけ「リフレッシュ」モードでケア。たったそれだけで、シャツに付いていた汗や焼肉のニオイがなくなり、スチームの効果で生地はふんわり。翌朝の着心地はとても良いものでした。宿泊するホテルの部屋にLG Stylerがあるとわかっていれば、旅行に持って行く服を減らせると実感しました。

  • コートヤード ソウル ボタニックガーデンの総支配人、Marco Pigatto(マルコ・ピガット)氏

明洞にある「ロッテホテルソウルエグゼクティブタワー」でもLG Stylerの導入が進んでいて、スイートルーム全室に設置しているそうです。

  • ロッテホテルソウルエグゼクティブタワーのシャルロッテスイート。1泊70万円から

高級ホテルが LG Stylerの導入を進める目的には、エグゼクティブをはじめとする宿泊客を獲得することもあるでしょう。 LG Stylerのあるホテルなら、衣類のケアを手軽にできることを体験した宿泊客は、リピーターになってくれます。ホテルの差別化にもつながります。

  • こちらもウォークインクローゼットの中にLG Styler

日本市場でのLG Styler

日本市場はどうでしょう。LGのチャン・ボヨン常務は、韓国の実例を生かして、日本でも積極的に展開していくと語ります。

「日本では40代男性が買われることが多いと聞いています。韓国のPM2.5と似た点として、日本には花粉の問題がありますね。LG Stylerを使うことで、衣類から花粉を除去できたという声も聞いていますし、スーツを頻繁にはクリーニングに出さなくてよくなったという、好意的な声も聞いています。

LG Stylerの普及には韓国でも4年かかりました。日本では店頭デモで使い方を紹介するとともに、SNSを使って利用者の声を紹介するなどして、LG Stylerを広めていきたいと考えています」(チャン・ボヨン常務)

LG Stylerは韓国と日本だけでなく、ロシア、アメリカ、シンガポール、ドイツといった多くの国で展開をスタート。衣類を洗濯機で洗うのではなく、クローゼットに吊るしながらケアするという新しいスタイルは、世界中で広がり始めています。

「日本でも『変なホテル』グループの一部でLG Stylerが設置されるなど、法人向けの展開は始まっています。現在、日本ではスリムとミラーガラスのモデルを販売していますが、もっと認知が高まってニーズがあれば、ビッグサイズやより多彩なモデルを用意したいと考えています。

これは日本に限ったことではありませんが、最優先で考えているのは、シルクなど様々な生地のケアがすばやくできるようになることです。そして、一家に1台ではなく、各部屋に1台、置いてもらえることを目指しています」(チャン・ボヨン常務)

韓国の一般家庭はもちろん、ホテルへの導入も進むLG Styler。日本では発売から2年が経過し、認知度もだいぶ高まりました。日本は韓国と同じく、焼肉など匂いが強い食事をする機会が多く、スーツや制服を着る文化もあります。LG Stylerが活躍できる環境といえるでしょう。 LG Stylerを使うことで衣類管理が楽に……という認識が広がれば、普及にも弾みがつきそうです。