前回掲載した「『GR III』レビュー 平成の終わりに復活した最強のスナップカメラ」に続き、写真家の鹿野貴司氏にリコーのGR IIIに対する思いを綴っていただきました。「画質や撮影性能重視ならフルサイズミラーレス、手軽さ重視ならスマホ」という時代において、従来機のスタイルをかたくなに守るGR IIIの魅力はどこにあるのでしょうか。
腕の先がカメラになったかのように扱える
リコーが3月中旬に発売した「GR III」は、デジタルのGRとしては7世代目にあたる。僕は2、3世代目を使っていたが、両機ともすでに手元になく、4~6世代目は購入をパスした。よもや7世代目が登場するとは思っていなかったが、同時にGR的なカメラを欲していたこともあり、購入するのは自然な流れでもあった。
しかし、GR IIの発売からIIIの発売までの約4年間は、カメラ業界が大きく変わった時代でもある。スマホが生活に浸透し、カメラマンの僕でさえiPhoneがもっとも身近なカメラになった。正確には、ここまで身近なカメラは今までなかった、というべきかもしれない。
一方でミラーレスが台頭し、僕も仕事の多くをフルサイズミラーレスでこなすようになった。機材を運ぶ大型リュックは小さなショルダーバッグに代わり、車で行かねばならなかった撮影現場へは地下鉄や自転車で行けるようになった。
そんな時代にGRとどう付き合うか。ひょっとすると、スマホとミラーレスの中間で埋もれてしまうのではないか――。そんなふうにちょっと身構えていたのだが、それは杞憂だった。
GR IIIは電源ボタンを押し、すぐ隣のシャッターボタンを押すだけ。撮影までたったの2アクション。AFのための半押しをカウントしても、限りなく2に近い3アクションで撮れる。もちろん、絞りや露出補正、ホワイトバランスをいじれば手数はかかるが、それとてダイヤルやレバーでダイレクトに操作できる。スマホと違って操作系はかなり細かくカスタマイズできるし、測距点を任意で選びたいときはもちろんタッチパネルで指定可能だ。
そして、何よりスマホとの違いは「手になじむ」こと。GR IIIの幅と高さは、iPhone Xなどの一般的なスマホよりひと回り小さい。厚みこそあるものの、それゆえしっかりグリップできる。右手で握ったまま町を歩くと、まるで腕の先がカメラになったような感覚だ。28mmという焦点距離は、奇しくもiPhoneなど多くのスマホと同じ。カメラが右手の一部となって目の前を切り取るというGR独特の感覚は、この28mmという焦点距離だからこそ得られると思う。
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GRをGRらしく使いこなすには、露出補正がカギを握っていると思う。露出補正は右手親指のADJ.レバーで行うのだが、通常遊んでいる後ダイヤルにも割り当てられたらいいのにと思う(ISO200、1/4000秒、F3.2、-0.7補正)
作品撮りに使える画質になった
当たり前だが、1/1.8型センサーの時代に比べると画質も飛躍的に向上した。GR DIGITAL II/IIIでもRAWで撮影していたが、現像やレタッチをしたところで引き出せる情報が少なく、本気で作品が撮れるカメラではなかった。それがAPS-Cセンサーになって、LightroomやPhotoshopで意図する仕上がりへ簡単に追い込めるようになった。画素数も、GR IIの1600万画素から2420万画素と1.5倍にアップ。A1~A2といった大判プリントも余裕だろうし、35mmや50mmのクロップも躊躇なく使える。
GR IIIは徹底してぜい肉を削ぎ落とし、写真を撮ることをストイックに追い求めている。今回のIIIでは、これまで内蔵し続けていたフラッシュをついに廃止。結果、昔のサイズへダイエットすることに成功した。明るいレンズとボディー内手ブレ補正機構を内蔵しているわけだし、表現意図として閃光が欲しい人は外付けのフラッシュを使うはず、と判断したのだと思う。
販売店からは「フラッシュの付いていないコンパクトデジカメなんて売りにくい」といわれたかもしれないが、そんなときリコーの人たちは自信と確信を持って「そういう最大公約数的なカメラはGRじゃありません」と突っぱねるんじゃないだろうか。そうじゃなかったら、機能の“全部入り”が当たり前の時代に、こんなミニマムでソリッドなカメラは作れないと思うから。
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イメージコントロール「HDR調」で撮影……といいたいところだが、撮影後の画像にカメラ内RAW現像で反映させた。設定を考えながら撮影するのもいいが、後から仕上がりを追い込むのもまた楽しい(ISO100、1/400秒、F5.6)

著者プロフィール
鹿野貴司
1974年東京都生まれ。多摩美術大学映像コース卒業。さまざまな職業を経て、広告や雑誌の撮影を手掛ける。日本大学芸術学部写真学科非常勤講師、埼玉県立芸術総合高等学校非常勤講師。