パナソニックの中でBtoB向けのビジネスを展開する社内カンパニー、コネクティッドソリューションズ社(CNS)は、2017年4月に日本マイクロソフトの前代表執行役会長の樋口泰行氏が社長就任してからわずか半年で本社を大阪から東京に移転。同時に、組織をフラット化する大規模な改革を行った。

  • 東京本社のオフィスレイアウト

    東京本社のオフィスレイアウト

この改革では、「企業を動かすには、戦略よりも企業カルチャーが重要である」という樋口氏の考えに基づき、企業カルチャーと社員のマインドを変えることに取り組んでいる。改革の目標のあるべき姿として掲げるのは、チャレンジ精神、世界視野、危機感、多様性、ポジティブ思考、俊敏、アクション思考だ。これを踏まえ、同社は今後、企業ビジネスモデルを製品主体からソリューション主体へとシフトしようとしている。

  • コネクティッドソリューションズ社 変革のフレームワーク

同社が実施した働き方改革は、「ワークプレイス改革」「ICT利活用促進(Office365、Skypeの活用)」「人事制度改革(成果主義、自律型社員の育成)」「業務プロセス改革(顧客のためにならない社内向けの内向き業務を廃止)」の4つ。

  • コネクティッドソリューションズ社 働き方改革 取組全体像

東京への本社移転はワークプレイス改革の一環で、その狙いは、より顧客に近づき共創を加速させることや、組織間連携強化、コミュニケーションの進化にある。そのため、新しいオフィスでは関西や首都圏に点在していた部門を集結させ、部門を越えたフリーアドレス制度を導入した。

2017年10月の移転当初は、大阪のおよそ100名を含め、280名程度が本社に集結。その後、徐々に移転人数が増え、2019年3月現在では約450名が東京本社勤務になっており、このうち約200名が大阪からの移転組だという。

  • フリーアドレスを導入したオフィススペース

同社のオフィスレイアウトでユニークなのは、机の向きが一定でないこと。これは、明確な通路を作らないことで、社員がいろいろな隙間を通り、さまざまな人と目線が合うことで、偶然の出会いによる新たな会話が生まれることを期待しているという。

フリーアドレスでは、特段、運用ルールは定めていないという。

パナソニック コネクティッドソリューションズ社 人事センター 総務部 横浜総務課 汐留総務係 係長 羽毛田保男氏は、「フリーアドレスを開始して1年半になりますが、目的に応じてココに座ろうという感じに変わってきています。たとえば、今日は経理の人と打ち合わせをしたいから、経理の近くに座ろうという具合に、その日、そのときに必要な場所を考えながら座るようになってきています。正直、同じ場所に座る人もいますが、ルールを設けず運用するようにしています」と語る。

  • パナソニックコネクティッドソリューションズ社 人事センター 総務部 横浜総務課 汐留総務係 係長 羽毛田保男氏

パナソニック コネクティッドソリューションズ社 人事センター 総務部 横浜総務課 汐留総務係 主務 星英光氏も「どこにいるかのわからなくても、常にSkypeでやり取りしていますので、業務上問題はありません」と説明する。

  • パナソニック コネクティッドソリューションズ社 人事センター 総務部 横浜総務課 汐留総務係 主務 星英光氏

今回のフリーアドレスでは、内田洋行の働き方変革コンセプト「アクティブ・コモンズ」を採用。これは、オフィスワーカー自らが業務に応じて最適な機能と場所を選ぶ考え方で、一般的なフリーアドレスとは異なるという。

また、コミュニケーション進化に向け、社長室やドレスコードも廃止。ITではSkypeの活用を推進した。

  • 新オフィスでは社長室も廃止。写真中央の背中は樋口社長。こちらは社長優先席。役員には優先席がある。専用席ではないので、空いていれば一般社員も利用できるという

パナソニック コネクティッドソリューションズ社 カルチャー&マインド改革推進部 カルチャー&マインド改革推進課 課長 熊谷隆之氏は、 「ドレスコード廃止には、会社内のやりとりには気を使わず、業務をスピーディにやりましょうという狙いがあります」と説明する。

  • パナソニック コネクティッドソリューションズ社 カルチャー&マインド改革推進部 カルチャー&マインド改革推進課 課長 熊谷隆之氏

フリーアドレス用の座席数は社員数の6割程度だが、その分ミーティングスペースを十分に確保した。そのスペースは従来の5倍にも及ぶという。

一般的な部屋形式の会議室もあるが、オープンスペースの会議スペースが圧倒的に多く、リビングにいるようなリラックスした形で会議できるソファースペースや飛び入り参加OKの会議スペースもある。キャビネットの上に木製の板を載せた立ち会議スペースはユニークだ。中でも、ディスプレイとホワイトボートの両方を取り付けた可動式のキャスター付き「コロコロボード」は人気だという。

  • ビデオ会議もできる少人数の会議スペース

  • リビングにいるようなリラックスした形で会議できるソファースペース(左)。右は廊下全体の黒板スペース

  • キャスター付きの「コロコロボード」。裏がホワイトボードになっており、用途に応じて使い分けができる

  • 通りかがり人の飛び入り参加を想定して後方にカウンター席を設けたコラボスペース

  • キャビネットの上に木製の板を載せた立ち会議スペース

  • 取材時に行われていた樋口社長(左)、原田副社長(中央)、貴志副社長(右)の会議。社長室や会議室ではなく、執務スペース横の小さな丸テーブルで行われていた

機密情報は除いて、オープンなスペースで会議を行うことで、周りの人に、『そういうことなんだ』と、理解してもらう狙いもあるという。

「ほかの部門が何をやっているのかを知ることも重要だと思っています。関係者を見つけて、その会議に引き寄せることも狙っています」(熊谷氏)

同社は、風通しのいいスピーディな意思決定に向け組織のフラット化にも取り組んでおり、これについて熊谷氏は、「部長や課長などの管理職をなくしたわけではなく、管理職を経ずに、トップと担当が直接話して決めるような形に変わってきています。もちろん、ワークフローなどの決裁フローは踏襲していますが、打ち上げの話など、色々なレベルの話があります。以前は人事経由で社長に確認していましたが、いまは直接樋口と話してすぐ決めています」と語る。

業務プロセス改革では、内向き仕事の削減を行っており、すでにこれまで毎週行っていた上司への週報の提出がなくなった。

「以前は週末にメールで上司に週報を提出していましたが、樋口の『業務まとめという儀礼的なものは廃止し、必要なときにその都度話し合うことで、スピーディーにやってください』という言葉に従い、週報は廃止しました。これは管理職は情報が集まってくるのを待つのではなく、取りに行きなさいというメッセージだと思います。樋口は、よくいろんなフロアを歩き回っていますが、それは情報を取りに行っているのだと思います」(熊谷氏)

また、同社は「しごとコンパス」という、パソコンのログから業務内容を分析するサービスを提供しているが、同社はこれを社内に導入して分析を進めている。

「問題点とわかってきたのは、メールのCCと会議です。会議であれば事前会議や事前会議のための事前会議の開催などです。このツールによって働き方を見える化し、メールの代わりにチャットツールを使うことで、メールのCCをやめようという動きにもなっています」(熊谷氏)

こういった改革の効果として、営業・事業部・製造部門が連携してこれまでパナソニックが製造業として培ってきた効率化・業務改善ノウハウを使って顧客の課題を解決する取り組みが増えているという。その結果、今年の1月には、それを専門に行う「現場プロセス本部」という新たな組織も生まれている。

内田洋行 オフィスエンジニアリング事業部 安田裕一氏

「経験や知見を生かしながら、製品の販売だけでないレイヤの違うお役立ちをしていこうという案件が増えています」(熊谷氏)

今回、コネクティッドソリューションズ社のオフィス全体の移転にまつわるマネジメントやプランニングを担当したのは内田洋行とパワープレイス。内田洋行 オフィスエンジニアリング事業部 安田裕一氏は、「コネクティッドソリューションズ社さまはスピード感のある社風で明確な変革目標を持っておられたので、組織関連携を生むためのオフィスづくりをとことん議論しました。1回に6時間以上をやったこともあります。業務や社風がダイナミックに変革する様子に私達も感服しています」と語る。

パワープレイス エンジニアリングセンター 古野嘉一郎氏

短期間で大阪から東京へのオフィス移転を支援したパワープレイス 古野嘉一郎氏は「関西や首都圏に点在する技術系やデザイン系などさまざまな部門の意見を集めながら浜離宮オフィスの移転を行いました。現在もフロア内部のリニューアルを繰り返し行っており、コネクティッドソリューションズ様の進化は続いています。企業風土を変えるための戦略的なオフィス構築は刺激的で、働き方改革を考えている日本の企業が学ぶべきことが非常に多いと思います」と述べた。

現状課題としては、会議参加の際、荷物をデスクに置いたまま離席してしまう点や、グループ会社とのコミュニケーションがあるという。

現在、グループ会社のパナソニックシステムソリューションズジャパン(PSSJ)と同居しており、両社が入り混じったフリーアドレスを実施している。そのため、隣にPSSJの人が座ることもあり、PSSJとどうコミュニケーションを深めてていくかがこれからのテーマだという。

今後はこれまで別々にあった改革を推進する合同フロア委員会を共通化し、コミュニケーションの仕方について話し合っていくという。

そして、今後の展開としては、本社以外の事業所に対しても、改革を広げていくという。

「工場はフリーアドレスはできないので、食堂など共通設備の快適化を進めていこうとしています」(熊谷氏)

また、照明を落とした空間など、個人がより作業に集中できるよ空間の創出も実現していくという。

今回の大阪から東京への本社移転は、発案からわずか半年で完了した。要因としては、樋口社長のトップダウンで実施された点が大きい。

熊谷氏は、「社長の樋口は、いい結果をもたらすことがわかっている場合は、多少の強制力を発揮してでも行うべきだと話しています」と述べたが、大きな改革をスピード感を持って実行するには、やはりトップのリーダーシップが重要なようだ。