バーチャル上のキャラクターとして動画配信を行う「バーチャルYouTuber(VTuber)」。2018年には「ネット流行語大賞」の金賞と、三省堂の「今年の新語」第5位に選ばれるほど話題になった。いまでは6000以上のキャラクターが活動中だと言われている。
しかし、ブームの起きた2018年よりも前からバーチャル上で活動しているグループがあった。2016年に結成したデジタル声優アイドルの「22/7(ナナブンノニジュウニ)」だ。22/7をプロデュースするのは、「AKB48」や「乃木坂46」「欅坂46」などを手がけた秋元康氏。常にアイドルの時代を築き続けてきたと言っても過言ではない彼が次に着目したものの1つが、バーチャルの世界だったのだ。
22/7は、11人のメンバーと、彼女たちが演じるキャラクターで構成されるグループ。各キャラクターの声はもちろん、モーションキャプチャによるキャラクターの動きも、ミュージックビデオのダンスも、担当の「デジタル声優アイドル」本人が演じている。
一般的なVTuberと大きく異なる点は、声優本人がリアルでの公演も実施することだろう。もちろんその際は、バーチャルではなく、生身の人間として歌とダンスを披露する。
バーチャルでもリアルでも活動する22/7。声優でもありアイドルでもあるメンバーは、どのように仕事に向き合っているのだろうか。今回、メンバーのなかでいち早くYouTubeチャンネルを開設し、VTuberとして活動を始めた「藤間桜」役の天城サリーさんに、お話を伺った。
バーチャルとリアルの境目をつなぐデジタル声優アイドル
アニメ声優の場合、決められたセリフを限られた話数のみ担当するのが一般的だ。しかし、22/7というグループでは、各メンバーがそれぞれ1人のキャラクターを演じながら、動画や番組に出演する。
つまり、自分ではないキャラクターとしても、アイドル活動をしなければならないのだ。そのあたりについて、難しさはないのだろうか。
「難しいと感じる部分はありますね。『桜ちゃんはこういう子』というメモを頭のなかに用意しているんですが、動画配信などで長い時間演じていると素の部分が出ちゃうこともあります」
ついつい演技ではない自分の素が出てしまうという点は、声優でもありアイドルでもあるというユニークなコンセプトを持つ22/7ならではの悩みと言えるだろう。
「声のトーンを少し高めにしたり、『まみむめも』を丸めに発声したり、素の部分が出ないようにかなり気を遣っていますね。でも、ファンの人たちって、私が完璧に藤間桜を演じているときより、たまに私の素が出たときのほうが『天城が出たぞー!』って盛り上がってくれることもあるんです(笑)」
その点におけるファンの心情としては、アニメファンというよりもアイドルファンの側面が強いのかもしれない。アイドルは通常、「生身の人間」でありつつ「アイドル」を演じている。そんななか、たまに覗かせる「1人の女の子」の部分に強い関心を抱くのだ。天城さんら22/7の活動は、そうした「キャラクター」と「生身」の境目が、これまでのアイドル以上に複雑になっているからこそ、素が出たときのファン反応がより大きいのではないだろうか。
また、22/7ではバーチャルの活動だけではなく、リアルライブでファンと触れ合う機会もある。リアルのイベントでは藤間桜と天城サリー、どちらのキャラクターで臨むのだろう。
「バーチャルライブでは桜ちゃんとして、リアルライブでは天城サリーとして臨みます。ただリアルでも、ダンスに“桜ちゃんらしい動き”が入っているところは入れるようにしていますね。例えば2ndシングル『シャンプーの匂いがした』のDメロでは、みんな一列に並ぶところがあって。桜ちゃんはそこで大きくジャンプするんですが、ライブのパフォーマンスでもそこは再現するようにしています。モーションキャプチャも自分たちがやっているんだよ、ということを伝えるためにも、ちょこちょこ意識して入れてるんですよ」