最後の「Apple TV+」は「one more thing.」のような特別な発表になった。Appleによるオリジナルビデオ作品を配信するサブスクリプション型サービスだ。映画、テレビ番組、ドキュメンタリー、「世界で最もクリエイティブな才能が生み出すオリジナルストーリーを届ける」とAppleはアピールする。5月に日本を含む100カ国以上で新しい「Apple TV」アプリをリリースし、秋にはMac版も追加。今秋に、グローバル規模で、そしてiPhone、iPad、Mac、そしてテレビで、いつでもどこからでもApple TV+を視聴できるようになる。

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オリジナル作品に関しては、スティーブン・スピルバーグ監督、J・J・エイブラムス監督、ジェニファー・アニストン、リース・ウィザースプーン、ジェイソン・モモア、ビッグバード、そしてオプラ・ウィンフリーが登場し、それぞれが手がけている作品について語り、会場は大いに盛り上がった。しかし、ユーザー視点では違和感も残る発表だった。素晴らしいゲストが次々に登場し、自ら作品について語っているのに、その作品の映像がほとんど披露されなかったからだ。

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米国の映画産業は岐路に立っている。映画館のチケット販売枚数が減少し、観客の鑑賞データを販売する月額定額制の見放題サービスが登場して論争になった。 『ROMA/ローマ』のようなNetflix作品がエミー賞だけではなく、アカデミー賞にノミネートされたのも話題になったばかりだ。米映画産業は伝統と変化の合間で揺れてる。

そうした中で、ハリウッド映画界の重鎮であるスティーブン・スピルバーグ監督が登場したのは大きなサプライズだった。そしてオプラ・ウィンフリーの登場である。日本では実感しにくいが、オプラは米エンターテインメント産業の大物中の大物である。司会、ジャーナリスト、俳優、番組プロデュース、企業経営、慈善活動、何をやっても、その長いキャリアにおいて常に人々の期待や予想を超えた成功を生み出し続けてきた。昨年のゴールデングローブ賞の受賞スピーチでセクハラや差別問題について語った際には、「オプラを次期大統領に」という声が一気に高まった。米国において、今のオプラ・ウィンフリーの言葉は特別だ。

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今回のApple TV+の発表がハリウッドへのメッセージだと考えたら、発表の演出には納得できる。スピルバーグとオプラの支持がハリウッドに与えるインパクトはとても大きい。"満点"を付けられる出来だ。ただ、Apple TV+で本当に他では観られないようなオリジナル作品を体験できるのか、映像を見て納得したかった人達も多かったと思う。そんな疑問の答えは、次の情報公開の機会に持ち越された。

  • Appleの全ての製品に共通する「カンタンに使える」「細部へのこだわり」、そして「プライバシーと安全」

最後に、イベントで強くアピールされなかったけど、とても重要なポイントに触れておこう。今回発表された4つのサービスには「プライバシー保護」が共通していた。リコメンド機能などに使う機械学習分析はデバイス内で処理し、サーバーに生のデータを送信することはない。ユーザーの許可なく、サードパーティとユーザーの情報を共有することもない。同社の全ての製品に通底するプライバシー保護が新しいサービスでも徹底されている。

大量のコンテンツを消費できるサブスクリプション型サービスでは、効率的なコンテンツへのアクセスを可能にする機械学習によるパーソナライズ、ユーザーの趣味趣向に応じてパーソナライズが重要になる。だからこそ、プライバシー保護が重要になる。「サブスクリプション+パーソナライズ」は「広告+パーソナライズ」を上回る市場になる可能性があるからだ。それを狙ったビジネスが暗躍し、ブラックボックスなパーソナライズでユーザーをコントロールし、フェイクニュースのようなトラブルが再び起こる可能性だって考えられる。

残念ながら、現時点で「プライバシー保護」を決め手にサービスを選ぶ人は少ない。しかし、プライバシーに関して安心して利用できる選択肢が存在することはとても重要である。だから今Appleがサブスクリプションサービスの提供に力を注がなければならない。なぜなら、それは今日のIT産業において、プライバシー保護を徹底するAppleにしか提供できないサービス (誰かを助ける行動)だからだ。