2018年は“eスポーツ元年”と呼ばれるほど、eスポーツ関連の話題がさまざまなメディアで取りあげられるようになった。動画配信を見たり、会場で試合を観戦したりと、最近初めてeスポーツに触れたという人も多いのではないだろうか。

しかしながら、名称としての「eスポーツ」が世間で通じるようになっただけで、いわゆる「ゲーム大会」自体は20年以上も前から開催されている。そこで、黎明期からゲーム大会に参戦しているプロ格闘ゲーマーのウメハラ(梅原大吾)選手に、昨今のeスポーツムーブメントについて話を伺った。

今回のeスポーツブームは1~2年では終わらない?

――昨年は流行語大賞にランクインするほど、eスポーツが多くの人の目に触れました。長年ゲーム大会に出場し、結果を出してきたウメハラ選手は、このeスポーツのムーブメントをどう捉えているのでしょうか。

ウメハラ選手(以下ウメハラ):“eスポーツ元年”という言葉はよく聞きます。ただ、僕は2010年にプロゲーマーになったので、急に変わった印象はないんですよね。たしかに、右肩上がりで拡大しているのはわかりますが、「ここが境目」というのを感じたことがありません。むしろ、昨年って、何か変わったりしたのでしょうか?

――2018年は日本eスポーツ連合(JeSU)の発足に加えて、eスポーツのプロリーグがいくつか発足しました。クラロワリーグやモンストプロツアー、ぷよぷよカップ、さらにパワプロのeBASEBALLも昨年からプロ選手によるeスポーツリーグが始まっています。ウメハラ選手がプレイしている『ストリートファイターV AE(ストV)』も、RAGEの団体戦が昨年から開始してますよね。

ウメハラ:ああ、なるほど。いろいろ始まったんですね。

とはいえ、「ブーム」というものは長続きしないので、日本のeスポーツが単なるブームであるとすれば、いつまで続くのか興味もありますね。自分自身としては、世間的にまったく注目されていなかった頃からやっていたので、もし、このまま廃れてしまっても、元に戻るだけでしょう。

  • プロゲーマーのウメハラ(梅原大吾)選手。15歳で日本を制し、17歳で世界チャンピオンのタイトルを獲得。2010年4月、米国企業とプロ契約を締結して日本初のプロゲーマーになると、同年8月「世界で最も長く賞金を稼いでいるプロゲーマー」としてギネス記録に認定される。2016年、さらに2つの認定を受け、3つのギネス記録を持つ。現在、レッドブル、Twitch、HyperX、Cygamesの4社によるスポンサード・アスリートとして世界で活躍中。著書に『勝ち続ける意志力 世界一プロ・ゲーマーの「仕事術」』(小学館)、『1日ひとつだけ、強くなる。』(KADOKAWA/中経出版)など

――最近では、ゲーム業界以外の企業もeスポーツに参入してきています。ただ、投資の観点では、結果が出ないとあっという間に手を引かれてしまう可能性があるでしょう。そのような状況についてどうお考えですか。

ウメハラ:現状、人気選手の出場する大会は集客ができていますし、イベント自体が人気の場合は会場が大盛り上がりです。ですが、すべてのイベントがそうではないので、eスポーツ全体で考えると「そこまでではない」という印象ですね。マンガの『ワンピース』が売れているからといって、マンガ業界全体が潤っているわけではないのと同じです。

成功している例だけを取りあげて「業界がアツい」と錯覚し、「eスポーツが流行っているみたい」程度の考えで参入すると、なかなかうまくいかないのではないでしょうか。その結果、「収益が出ないので撤退する」ことはあると思います。そうなったときに、このeスポーツのムーブメントがどのように変化していくのか気になりますね。

ただ、心配はしてません。メディアに取り上げられなくなって注目度が下がっても、元々あった格闘ゲームコミュニティの核となる部分は変わらないので。eスポーツが生まれる前からあった僕らのコミュニティは、eスポーツがあってもなくても存在し続けますからね。

――ゲーム大会が世間的に注目されたのは、ウメハラ選手が活躍した『ストリートファイターII(ストII)』や『ストリートファイターZERO』の頃が最初で、次に『バーチャファイター(バーチャ)』が社会現象になったときでした。そして今回が3回めになるわけですが、このムーブメントは、以前と比べてどのように感じていますか。

ウメハラ:規模は回を追うごとに大きくなっている印象です。関わっている企業も多くなっているでしょう。例えば、『ストII』や『バーチャ』が盛り上がったときは、単純にそのゲームが流行っていたので、タイトルをリリースしているメーカーが利益を得る構造だったわけです。つまり、1社しか得しない。ですが、今のeスポーツブームは、いろいろなゲームがeスポーツとして関わっているので、その点で様子が違います。

『ストII』ブームが終わったところで、他のメーカーはなんとも思わないでしょうが、今回はeスポーツという世界が注目されているので、「ゲームを使って競い合う」ことが廃れたら困る企業、団体はたくさんいます。そう考えると、以前のように1~2年で終わってしまうブームではないのかもしれません。

プロの決心がつけば、ファン対応は自然と身につく

――eスポーツが急速に広まったことにより、選手だけでなく観戦者も増えてきています。プロとして、オーディエンスやファンへの対応も必要になると思いますが、そのあたりはいかがでしょうか。

ウメハラ:ファンの方々はもちろんですが、応援してくれるお客さんですよね。飲食店だろうが、なんだろうが、お客さんがいないことには成り立たないので大切です。その方たちへの感謝は忘れたことはありません。感謝の意は言葉よりも行動や態度で示すべきだと思っていますので、サインや写真撮影などは100%行うようにしています。

――eスポーツブームによって、いきなりプロ選手として扱われてしまうような人は、そういう意識を持ちにくいのではないでしょうか。

ウメハラ:僕もプロになる前、若い頃は、話しかけられても「ぶっきらぼうな対応」をしてしまうことがありました。その頃は、結果を出せているのは自分の努力のたまものだと思っていたので。

若い頃って、自分のことばかり考えがちなので、誰かにちゃんと教育してもらわないと、周りで支えてくれている人たちのありがたみが分からないものです。今の若い人たちも、特にこの業界でやっていくかどうか決めかねているのであれば、周囲への対応がおざなりになってしまうかもしれません。ただ、長くやっていく決心ができれば、徐々に身についていくのではないでしょうか。

もう1つ懸念しているのが、ブームのときに入ってくることの大変さですね。

僕は昔から、成功しては天狗になり、失敗しては卑屈になりを繰り返してきて、今があります。人間って、成功だけでも失敗だけでもダメで、そのような経験を積み重ねることが大事なのではないでしょうか。その結果、今では成功しても失敗しても気持ちの揺れ幅が小さくなって、軸がブレなくなりました。

今のブームで入った人は、規模が大きくなって注目されている分、失敗したときに受けるダメージが大きく、その揺れ幅も大きくなっている気がします。そういう意味で、今のブームで入ってきた人は大変なんだろうなと思いますね。

――ウメハラ選手がプレイしている『ストV』も、eスポーツブームによって多くの若手が入ってきましたが、その大変な時期に入ってきた彼らに対して、何かアドバイスなどをするのでしょうか。

ウメハラ:相談されれば、自分の考えを共有していますが、僕が彼らの年齢だった頃とは状況も環境も違うんですよね。それぞれ個性があって、キャラクターも違うので、適切なアドバイスができているかはわかりません。よく、「プロゲーマーの先駆者として自分の考えを伝えるべきだ」と言われますが、10年、下手したら20年違うわけですし、考え方も違いますから、一方的な意見は言いにくいですね。