今のeスポーツには、プロになりやすいがゆえの弊害がある
――昨年の盛り上がりを受けて、今年のeスポーツには何を期待しますか。
ウメハラ:一般的なプロ競技と比べると、現状のeスポーツはプロになるのが簡単なんですよね。もちろん、なりたい人が誰でもなれるものではないですが、リアルスポーツとは違って、新作ゲームが出てから死にもの狂いで1年プレイしたらプロになれる可能性があるんです。ただし、1年くらい活躍できても、それを維持するのが難しい。プロになりやすいというのは、裏を返せば代わりがすぐに見つかるってことですから。
リアルスポーツの世界は、プロになるのが本当に大変ですが、大変だからこそ、プロになればある程度の収入を得られますし、育成してもらえる環境があります。もちろん、プロになったからといって全員が大成するわけではないですし、結果が出なければ数年で引退という厳しい現実もありますが、eスポーツもリアルスポーツのように「かなり難しい、だけど、プロになれればある程度の待遇がある」ほうが好ましいと思います。
趣味で少しやってみて、それでちょっと上手かったらプロになれるのは、やはり違うような気がします。リアルスポーツとの根本的な差が、こういった質の面で現れているのではないでしょうか。
僕はゲーム業界の発展を願っていますし、そのために努力を惜しまない覚悟はできています。決して業界の縮小化を説いているわけではありません。ですが、世の中にはバランスがあり、今のeスポーツブームはそれが明らかにおかしいと感じています。ブームの裏にeスポーツの抱える不安定さがあるように思いますね。安定した業界の成長のためには、たとえプロへの門戸が狭くなってしまったとしても、その辺の歪みは見直したほうがいいのではないかと思います。
現状には満足しているが、ガイル以外の新キャラも使いたい
――次に、ウメハラ選手個人のことをお聞きしたいのですが、選手として成績や活動など、2018年を振り返ってみていかがでしたか。
ウメハラ:『ストV』が発売された2016年、そして翌年の2017年はカプコンカップ出場に必要なポイントを稼ぐため、毎週のように海外の大会に出場し、それこそ十数カ国まわりましたが、2018年はそれに比べると早い段階でポイントを稼げたので、そこまで海外遠征に行かずに済みました。例年よりは、体力的にも精神的にも楽な印象でしたね。
――海外遠征が少なかったことに加えて、RAGEの開催などがあったので、日本での活動が増えた印象です。
ウメハラ:そうですね。そもそも海外へ遠征できるのは、大手スポンサーがついていたり、プロチームに入っていたりと、ある程度環境が整っている人たちなんですよね。日本での活躍の場が増えたことで、そこまで環境を整えられない若手でも、実績を積んで注目されて、スポンサーが付いたり、チームに入ることができたりという好循環が生まれている気がします。
先ほど「プロになりやすすぎる」と話しましたが、アメリカはeスポーツが早くから盛んになって日常化しているので、もっと簡単にスポンサーがつくこともあり、プロが身近な存在なんです。日本の格闘ゲームプレイヤーは、レベルが高い割には見返りを得られるようになるまでの道が遠いんですよね。プロになるための基準は高く設定されるべきだと思いますが、そこまでの道筋がまったくないのも困るわけです。そういう意味では、日本で活躍の場が増えたのは喜ばしいことです。
――では2019年の目標はいかがでしょうか。
ウメハラ:プレイヤーとしての目標は毎年変わらないですね。練習をして本番でそれを活かして、結果を残せればいいと思っています。ただ、「現状の課題」や「これからの目標」といったものが、実はもうないんですよ。個人的にやりたいことはすでに達成して、ひと段落した感じです。2016年からTwitchグローバルアンバサダーとして行ってきた「Daigo The BeasTV」での動画配信も、自分なりのスタイルができてきた感じもしますし。
あえて言うのであれば初心に返って、目の前のことを一所懸命やる、ですね。毎年こういう話がでると、「こういうことをしたいです」という具体的な目標があったんですが、今年は本当にそういうのが浮かばないですね(笑)。今の僕にとっては、プレイヤーとして地道な活動を続けることが大切のような気がします。
――『ストV AE』がシーズン4に入り、バランス調整や新キャラの登場がありますが、そのあたりはいかがでしょうか。配信動画では「影ナル者」や「是空」を使っていましたが、ガイルから使用キャラの変更は考えているのでしょうか。
ウメハラ:理想を言えば、新しいキャラクターを使って今年1年活動したいですね。それは是空とは限りませんが。僕はプロである前にゲーマーなので、キャラクターに新たな発見を見出したり、新鮮味を感じたりしながら楽しみたいんです。もちろん、ガイルが楽しくないわけではないですよ。
――例年通りであれば、シーズン4もあと5キャラ追加されると思いますが、その中から強さとおもしろさのバランスがいいキャラクターがいたら、そちらを使う可能性があるわけですね。
ウメハラ:もちろんありますよ。というか、そうなって欲しいです。ただ、新しいキャラクターはじっくり育てる時間がないのも事実なんですよね。1年って短いんです。ほかのプレイヤーの練度も上がっていますし、それに追いつくだけで精一杯になってしまい、トーナメントで上位に入るのはかなり難しい。そうなると、やはりガイルになっちゃうのかな(笑)。
――最後にeスポーツがまだよくわかっていない人や、ゲームをあまりプレイしない人に向けて、ひと言いただけますでしょうか。
ウメハラ:eスポーツと聞いて、「なんじゃそりゃ」って思う人は多いと思います。業界的に盛り上がってきているので、新しい何かが始まっている雰囲気のなかで、ちょっと気になっている感じではないでしょうか。僕の専門とする格闘ゲームは、特にそれぞれの個性が輝くフィールドなので、対戦する様子を見て、僕らの独特の個性や魅力を少しでも楽しんでいただければなと思います。
――ありがとうございました!