株式会社オプティム(以下OPTiM)は、株式会社日本HP(以下HP)が2月に東京都内で開催したプライベートイベント「HP Reinvent World 2019」に出展。同社 執行役員 兼 OPTiM Cloud IoT OS事業責任者 山本大祐氏の講演を行った。

講演の中で、OPTiMが佐賀県で展開しているドローンとAIを利用したスマートアグリカルチャー(スマート農業と)、AIを利用した無人店舗の取り組みを説明した。

OPTiMが進めるドローンを利用したスマートアグリカルチャー(出典:HPと協業を進めるOPTiMのエッジAI戦略、株式会社オプティム)

AIとIoTソリューションを活用し、佐賀県の農場で実証実験

株式会社オプティム 執行役員 兼 OPTiM Cloud IoT OS事業責任者 山本大祐氏

OPTiMは2000年に創業したIT企業だ。日本国内でPC向け、スマートフォン向けのソフトウェアや、IoT向けのソリューションなどを提供している。2014年10月に東京証券取引所 マザース市場に上場し、2015年10月に東京証券取引所 市場第一部へ市場変更した。

同社は00年代にはPC向けのソフトウェアなどに力を入れていたが、10年代前半にはそれをスマートフォンに拡大し、10年代後半にAIやIoT関連のビジネスに力を入れるようになった。山本氏が率いるOPTiM Cloud IoT OS事業では、そうしたAIやIoTのソリューションを展開している。同社は多数のエンジニアを抱えるエンジニアリングファーストの企業として知られていて、山本氏自身も、過去にはIPAが行なっていた「IPA未踏ユース2005年度スーパークリエイター」に選出されるなどの実績を残しているエンジニア出身だ。

その山本氏が話したのは、OPTiMが佐賀県で行なっている2つのユニークな事業。1つがドローンとAIを活用して作付けしている作物を自動判別するソリューション、もう1つがAIを活用した無人店舗だ。

作付けをドローンの空撮映像とAIで判別するソリューション(出典:HPと協業を進めるOPTiMのエッジAI戦略、株式会社オプティム)

まず1つめのドローンとAIを利用した作付けのチェックは、カメラを搭載した固定翼型ドローンで農地を撮影するとともに、AIで作付けされている作物を自動で判別するというソリューションだ。

このようにAIが作付けしている作物を自動で判別していく(出典:HPと協業を進めるOPTiMのエッジAI戦略、株式会社オプティム)

そもそも「なぜこんなことが必要なのか」と言うと、国や県が農家に補助金を出す際に「特定の作物を作付けしていること」が条件に含まれるためである。山本氏は「従来は県の担当者らが、作物をいちいち目視で確認していて膨大な時間がかかっていた。それを大きく削減できると考えてプロジェクトをスタートした」と、事業の意義を説明する。

具体的に今回の佐賀県の例では、目視調査の場合、実にのべ約1,360時間と、県の担当者にとって大きな負担になっていた。仮にその時間を別の業務に割くことができれば、新たな住民サービスを生み出せるかもしれない。県民にとっても大きなメリットがある取り組みだ。まずは佐賀県の白石町で始めており、現在は佐賀県全土へと対象を広げつつある状況という。

講演会場で配られたスマート米。これは今回の佐賀とは別に、同社のAI技術を活用することで減農薬栽培を実現した千葉県の農場で生産された

ロス率0を実現した無人店舗、モノタロウ・佐賀大学との共同プロジェクト

2つめの無人店舗に関しては、実際に取り組みが行われている佐賀大学の構内店舗を例として紹介。これは佐賀大学のほか、”現場系”に強い通販サービスを運営するモノタロウと共同で取り組んでいるプロジェクトだ。

モノタロウと佐賀大学との共同プロジェクトによる無人店舗(出典:HPと協業を進めるOPTiMのエッジAI戦略、株式会社オプティム)

この無人店舗では、Amazonが米国で運営している無人店舗「Amazon Go」のような、大量のカメラを店舗内に設置して、客が何を取ったかをAIの画像認識で判別して決済までを自動化するのではなく、購入決済は来店客のスマートフォンで商品バーコードを読み取る形にしている。

山本氏は、「Amazon Goのような方式だと100台程度のカメラが必要になるし、それと同じぐらい大規模な処理用ワークステーションも必要になる。これは小売店にとっては現実ではないと判断した。そこで、カメラはセキュリティとマーケティング用に5台だけ用意して、決済は客のスマートフォンで行う形にした」と、より現実の小売店のニーズに即した方式を採用したと説明する。

店舗内の全景(出典:HPと協業を進めるOPTiMのエッジAI戦略、株式会社オプティム)

AIが店舗のカメラや入退店ゲート、各種センサーなどを制御・分析することで、防犯などのセキュリティ面を担っているほか、来店客の行動分析によるマーケティング面での店舗運営支援もできるようにしている。

カメラは5台でセキュリティとマーケティング観点でのモニタリングを行なっている(出典:HPと協業を進めるOPTiMのエッジAI戦略、株式会社オプティム)

気になるロス率(有り体に言えば万引きされる商品の率)は、驚くべき事に始めて半年の実績で「0」だったという。小売店では商品の消滅などのロス率をある程度見込んで運営がされている。もちろん大学の構内という比較的治安が良い場所ということを差し引く必要はあるが、小売店の利益に直結するロス率0という数字は注目に値する。

AIソリューション、現状ではクラウドよりもエッジが現実的

OPTiMのエッジワークステーション(出典:HPと協業を進めるOPTiMのエッジAI戦略、株式会社オプティム)

こうしたOPTiMのAIソリューションを裏で支えたのは、HPのエッジAIソリューションだったという。山本氏は、「ディープラーニング(深層学習)の学習と推論を、GPUを搭載するHPのワークステーションで行なっている。ワークステーションにHPを選択した理由は、こちらが必要としている量を確実に供給してくれる体制とサポート体制がしっかりと整っていたため」と、様々なベンダから検討した結果、HPを選択するに至った決め手を説明した。山本氏によれば、パブリッククラウドで提供されるGPUなども利用してみているが、現状では、「エッジにワークステーションを置く方が使い勝手が良い」と評価しているそうだ。

OPTiMのエッジワークステーションのラインアップ(出典:HPと協業を進めるOPTiMのエッジAI戦略、株式会社オプティム)
株式会社日本HP 専務執行役員 パーソナルシステムズ 事業統括 九嶋俊一氏(左)と株式会社オプティム 執行役員 兼 OPTiM Cloud IoT OS事業責任者 山本大祐氏(右)

なお、山本氏は、3月20日に書籍『成功に導くためのAIプロジェクト実践読本』を発売する予定という。どうやってAIのソフトウェアを書くのか、という従来のAI関連の書籍とは異なり、AIをどうやって自社のビジネスに投入していくかについてフォーカスした内容だそうだ。

「AIを使ったサービスは、従来のソフトウェア開発とはモデルが異なる。それを契約としてどのようにクロージングしていくかが重要になる。ソフトウェアの開発契約をどうしたらいいのか、ソフトウェアの知財をどうしたらいいのか、そのソフトウェアを使ったビジネスが拡大したときにレベニューシェアをどうしたらいいのか、そうした時に参考になる書籍にした」(山本氏)といい、社内ノウハウも惜しげ無く盛り込んだとのことなので、AI活用ビジネスを始めようという人は注目しておくといいだろう。

3月20日に販売予定の「成功に導くためのAIプロジェクト実践読本」(マイナビ刊 出典:HPと協業を進めるOPTiMのエッジAI戦略、株式会社オプティム)
(笠原一輝)