マイクロソフトがMWC19 Barcelonaの開催に合わせて、新しいMR(Mixed Reality)対応の透過型ヘッドマウントディスプレイ「HoloLens 2」を発表しました。ブースでその実機をいち早く体験できた手応えをレポートしたいと思います。
初代のHoloLensは2016年に、透過型ディスプレイの向こう側に見える現実世界の上にCGの映像を重ねて投射するMixed Reality=複合現実体験の提案とともに、マイクロソフトが発表したスマートヘッドセットです。
例えば工場や製造現場で業務効率を高めるためのサブディスプレイとしたり、作業担当者の熟練度を高めるためのトレーニングデバイスなど、MRが人々のワークスタイルを変革する強力なツールであるとマイクロソフトはその価値を強く主張してきました。
3年の時を経て大幅にアップグレード
ただ、初代のHoloLensを何度か体験した筆者としては、本体が重くて長時間装着しづらく、また画面の視認性も今ひとつであると感じていました。
今回マイクロソフトはHoloLensのユーザー、あるいは体験者の声に耳を傾けながら、約3年ぶりに大幅なアップグレードを遂げたシリーズの第2弾のモデルを発売します。
発売予定時期はまだ2019年内とだけ、ざっくりと発表されていますが、今年のMWCに出展するマイクロソフトのブースで試作機のデモンストレーションを行っていました。なお予定価格は3,500ドル(約38.8万円)と、基本的にはBtoB向けのデバイスであるためか、それなりに高価なスマートデバイスです。ちなみに日本でも電話予約を開始しました。
没入感が高まり、重さも軽く。アイトラッキングも内蔵
初代機からの大きな改善点がいくつかあります。ひとつは視認性が高まって没入感がアップしたこと。透過型ディスプレイはアスペクト比が3対2、解像度はフルHD。視野が縦横2倍に広がり、1視野のピクセル数は23から47になって、ホログラフ表示の映像は密度を増しています。
HoloLensではヘッドセットの額あたりの位置にあるカメラでハンドジェスチャーを認識して、ディスプレイに表示されるオブジェクトの選択操作を可能にしていました。新しいHoloLens 2もそのインターフェースを維持しながら、さらに視線の動きを検知するアイトラッキングセンサーが内蔵されています。
ブースで体験したデモでは、カラフルなCGの鳥が差し出した手の指にとまったり、画面に表示されるオブジェクトを目線で追いながら、アイトラッキングセンサーのキャリブレーションを行う操作を体験できました。
アイトラッキングは目線として認識される範囲がまだ広すぎて曖昧な感じも受けましたが、追従スピードがもたつくことはなく十分にその役割を果たせていると感じました。プロセッサーにクアルコムのSoCに「Snapdragon 850 Mobile Compute Platform」が採用されています。アプリケーションの作り込み次第でいろんな工夫ができるのではないでしょうか。
着けて実感、装着性の良さ
新機種の改善点として挙げられている装着性は、とても良くなっていることがすぐに実感できました。
初代機は本体がやや前のめりなバランスだったので、身につけて歩く時には後ろ側のベルトを手で支えていないと前にずり落ちてくることがありました。
HoloLens 2はしっかりと安定して、メガネの上からでもゆったりとかけられます。デモンストレーションの体験時に歩いたり、顔を左右に向けてみても本体はしっかりと固定されたまま安定していました。
新機種は装着時のバランスをセンターに寄せて、かつヘッドバンドの位置を決めてから背面のダイアルを回して締め付けを調整するだけ身につけられます。今回は無理をして試作機を壊してしまったらえらいことになってしまうので、デモのスタッフにサポートしてもらいましたが、ユーザー本人がひとりでも簡単に着脱できると思います。
本体のメイン素材には軽くて剛性の高いカーボンファイバー素材が使われているそうです。さらに長時間使い続けても本体がオーバーヒートしないように、ベイパーチャンバーによる冷却構造を採用しました。ブースには体験希望者が長蛇の列をつくり、ほぼ休みなくHoloLens 2が稼働していましたが、筆者が自身の順番が来て本体を身につけた時にも本体が熱を帯びている感じはほとんどありませんでした。
HoloLens 2で医療VRを体験!
マイクロソフトのブースでは4種類のHoloLens 2によるデモを選んで体験できました。筆者は記者向けの優先チケットをもらって行列に並んだものの、自分の順番が来るまでに1時間待ちました。すごい人気でした。
選んだデモは教科書制作会社のピアソンが作った、医師を志す学生のためのMR対応トレーニングツール。ピアソンは初代HoloLensからマイクロソフトとパートナーシップを組んでいます。
病院の一室を再現したブースにはベッドが置かれていて、HoloLens 2でのぞき込むと女性の患者が横たわっています。一般的な病状に対する対処方法などが書かれたテキストが画面に表示され、目線を下にずらすとアイトラッキングセンサーが反応して自動的にテキストの文字が送られます。
別途患者が身に着けたセンサーの情報をスクリーンに表示することもできるので、遠隔医療のサポートツールとしてもHoloLens 2は活用できそうですが、一方で視界全体を覆うシースルータイプのスクリーンは、現実世界の景色の上にオーバーレイ表示される画像が視線の先を見づらくしてしまうため、実際には医療現場や危険な場所での手作業をサポートするツールとしては向いていないかもしれません。
マイクロソフトではHoloLensを使った業務支援のためのアプリケーション「Dynamics 365 Remote Assist」と「Dynamics 365 Layout」、ならびに新しい「Dynamics 365 Guides」で様々なユースケースを産業の枠組みを超えて創出できることが強みであり、エコシステムはますますブラッシュアップされているとしています。
VR/AR、MRのテクノロジーを使ったビジネスモデルの活用事例については、デバイスとソリューションを提供する企業の提案がやや似通っているところもありますが、各事例からのフィードバックを反映させて、今回大きな進化を遂げたシリーズの第2弾は期待が持てるデバイスになりそうです。