紙に描くように、液晶画面にイラストや手書き文字などを直接描けるのが液晶ペンタブレット。なかでも、多くのプロフェッショナルイラストレーターやデザイナーたちから支持されているのがワコムの製品。そんなワコムが1月8日に発表した液晶ペンタブレットの新製品が、15.6型フルHD(1,920×1,080ドット)の「Wacom Cintiq 16」(以下、Cintiq 16)です。
従来までの16インチモデルの半額以下の価格帯
Cintiq 16で最初に目を惹くポイントは、なんといっても価格です。ワコムといえば、プロフェッショナルも愛用する製品の品質と機能に定評がありますが、それなりに高価なので、ホビーユーザーには手を出しにくいイメージがありました。
たとえば、ワコムストアの税込み価格は(2019年1月8日現在)、すでに発売されている「Wacom Cintiq Pro 16」(以下、Cintiq Pro 16)が181,440円。一方、新モデルのCintiq 16は、同じ15.6型ながら73,224円と、半額以下の価格帯です。
Cintiq Pro 16とCintiq 16の最大の違いはターゲットとなるユーザー。Cintiq Pro 16はプロフェッショナル・ハイアマチュア向けでしたが、Cintiq 16は、美大生や漫画家・イラストレーターといった「プロフェッショナルを目指す人」をターゲットにしたエントリーモデルなのです。
低価格モデルながら「描いていて楽しい」を追求
エントリーモデルとはいえ「プロフェッショナルを目指す人」がターゲットなだけあり、Cintiq 16のスペックは充実しています。
ペン入力時の読み取り分解能は最高0.005mmで、筆圧検知は8,192レベル、傾き検出も±60レベルと、指先の細かな動きにも追従。これらはプロ向けのCintiq Pro 16と同等です。付属するペンも、プロラインと同じ「Wacom Pro Pen 2」が付属するほか、アンチグレア加工した液晶表面の描き心地にもこだわっているといいます。
メディア向けのCintiq 16発表会では、Cintiq 16とCintiq Pro 16の両方を試用できました。筆者も両方を使ってみたところ、Cintiq 16も描き味はかなり自然。液晶画面の表面に絶妙な摩擦があり、液晶ペンタブレットになれていない筆者でも、紙に描くように自然な絵が描けます。
一方で、もちろんCintiq Pro 16と異なる点もあります。目立つところでは、まず液晶画面の解像度。Cintiq 16は1,920×1,080ドットのフルHDサイズと、Cintiq Pro 16の4K解像度(3,840×2,160ドット)よりも低くなっています。また、Cintiq 16はAdobe RGBカバー率もCintiq Pro 16より低く、マルチタッチ機能やダイレクトボンディングにも対応していません。
今回は短い時間の試用でしたが、個人的にはあまり解像度の違いは気になりませんでした。意外と描き心地に影響したのは、ダイレクトボンディングの有無。ダイレクトボンディングとは、視差を少なくした製品のこと。ダイレクトボンディングを採用したCintiq Pro 16は、「ペン先を置いた場所に直接線が描ける」ような描き心地でしたが、Cintiq 16は「ペンと画面の間に薄いガラスが一枚ある」ような小さな違和感があります。
また、マルチタッチの有無も、使用感に影響があるでしょう。Cintiq 16はマルチタッチ非対応なので、ピンチインやピンチアウトといった指の動作で画面を拡大・縮小できない点は、少々使いにくく感じました。
プロのイラストレーターが語る「液タブ」の選び方
Cintiq 16の発表会では、ベネッセの進研ゼミや英語教科書のニュークラウンなどにイラストを提供しているイラストレーター、加藤アカツキ氏がゲストに。2017年12月のコミックマーケット93では、公式紙袋のデザインを手がけています。加藤氏は実際にCintiq 16を使いながら、液晶タブレットの選び方について語りました。
加藤氏は普段から液晶ペンタブレットのレビューもよくしているといいます。最近は非常に安い液晶ペンタブレットも発売されていますが、使ってみると使い勝手が悪く、絵を描くことがストレスになる製品もあるといいます。このような製品に当たらないため、液晶ペンタブレットを選ぶときは、実際に試し書きをしたうえで、以下の3点をチェックとアドバイス。
- ペン先への追従スピード
- 視差
- 画面の摩擦
初心者からプロフェッショナルまで、どんなユーザーでも重視すべきなのが、カタログスペックには書かれない「ペン先への追従スピード」とのこと。追従スピードが遅い液晶ペンタブレットは、すばやくペン先を動かすと線が思った場所に描画されません。
たとえば、すばやく「C」の字を描くと、ペン先が通った軌道よりも小さな軌道で「c」と描画されてしまうそうです。さらに、四角などの輪郭を描いて中を塗りつぶすとき、追従スピードが間に合わない製品は、「中央部分しか塗りつぶせない」といった問題が起きるといいます。
このほか、自分が描きたいと思った部分に描画できるか(視差)。描いたときにペン先がつるつると滑りすぎないか、面を塗っていくときに抵抗が高すぎて腕が疲れないか(画面の摩擦)といった、「描き心地」も重要だといいます。
Cintiq 16を試用した加藤氏は、「解像度やダイレクトボンディングに対応していないなどの理由で、『描く快感』はプロラインのほうが上」としつつも、「描き心地などはエントリーモデルとは思えないほど良い」と評価しました。
また、「最近のイラストレーターは線画からフルデジタルで描くことが主流になっています。このため、とくにプロフェッショナルのイラストレーターは効率化が重要です。自分の思うように線が描けないと、作業時間が増えるだけでなく、メンタルがイライラするのも問題です。最初から質の悪い液晶ペンタブレットを使っている人は実感しにくいかもしれないけれど、作業時間にかなり関わってくるので、最初から良い製品を選んでほしい」ともコメントしました。