汎用AIを作ることは不可能だといわれていますが、御社のAIには汎用的に利用できるようなベースがあるのでしょうか?

飯沼氏:汎用AIというのは、AIをやっている側からすれば大きな目標です。天文物理学者にとっての、宇宙とは何かを解き明かすようなものではないでしょうか。今のAIに対して追加の研究をすることによって少しずつ成長していくと思います。われわれはUCL(University College London)と長期共同研究を開始していますが、次の世代のAIは何なのかを考え、それに対して必要なアルゴリズムの研究を重ね、伸ばしていくことを考えています。

多くの企業がAIを搭載していますが、今後の差別化ポイントはどこだと思いますか?

飯沼氏:まずAIで注目すべきポイントは、先にも述べた精度、スピード、アウトプットに対する信用レベル、より高い精度に育てるためのトレーニングのしやすさという4つがありますが、これらはしっかり見ていく必要があります。精度で良し悪しを測られることもありますが、使いやすさや信用レベルは見るべきポイントです。

開発側としては、特にレベルが重要ですね。AIのアウトプットに対するコンフィデンスが正しく管理されていなければなりません。アウトプットが間違っていてもコンフィデンスが正しいのならば、トレーニングが足りないということになり、改善できるわけです。

ユーザー側から見るならば、エンドユーザーとしては精度と使いやすさでしょう。どういうサービスで使うのかを考え、サービスに対して支障なくAIが動くかどうか。たとえば導入後すぐに成果を出したいのであれば、とくに精度が高いものがよいでしょう。しかし1-2年かけて精度を向上させ、より正確なものに育てるつもりがあるのならば、トレーニングのしやすさやコンフィデンシャルに注目しなければなりません。

パートナーとしてAIを利用したサービスを提供したり、コンサルティングを行うのならばトレーニングのしやすさとコンフィデンシャルは大事です。AIだからというよりは、システムや技術を導入すると考えて選ぶのがいいと思います。

開発側として伸ばすのが難しいのはどこでしょうか?

飯沼氏:ある程度のところからは、精度です。トレーニングのしやすさやコンフィデンシャル、スピードといった部分は工夫で対応できます。精度は100%ということはないわけですが、30%から60%、60%から90%と低い精度のものを向上させることはできます。しかし、その先が難しいのです。

どの段階でマーケットに出すのかは、マーケットに必要な精度とわれわれが到達できる精度の兼ね合いを考えて、ということになります。

AIの学習データとして、どんなものを与えればよいのかということは見えているのでしょうか?

飯沼氏:現在は大量のデータを与えることで精度を上げています。たとえば「Tegaki」の場合、正しく書かれている「あ」だけを認識できればいいのならば少ないデータで対応できますが、多くのタイプを理解させるにはいろいろな方が書いている文字が必要です。学習タイプが少なくなれば、少ない範囲での精度は向上させられても違うタイプの文字が読めなくなってしまうのです。

しかし今、UCLと次世代のAIを考えるにあたって、データ量が少なくとも正しい精度が出せるものにしたいと考えています。これができれば、いろいろな企業が少ないデータでAIを活用できる世界になります。

現在マーケットで競合と考えている存在はありますか?

飯沼氏:AIのマーケットは、まだどう使うかを検討している段階です。競合というよりは、共存しながら共創していく状態です。どうマーケットを創り出していくかを考えなければなりません。他社のやり方を、そういうやり方もあるのかと学ぶこともあります。それでAIのリーチできる範囲が広がります。マーケットを創ることが優先です。