ヴイエムウェアは「Any Device,Any Application Any Cloud」をビジョンとしているが、最近、「Any Cloud」の要素に「エッジ」「テレコ(Teleco)」が追加された。これによって、同社のクラウド戦略はどう変わったのか――VMwareでプロダクトとクラウドサービスの最高責任者を務めるラグー・ラグラム氏に話を聞いた。

  • VMware 最高責任者(プロダクトおよびクラウドサービス) ラグー・ラグラム氏

  • ヴイエムウェアのビジョン「Any Device,Any Application Any Cloud」

クラウドへのニーズが高まる通信業界

なぜ、ハイブリッドクラウド、パブリッククラウドと並んで、「エッジ」と「テレコ(Teleco、通信事業者の略)」がクラウドの要素として含まれているのだろうか。ラグラム氏に尋ねてみたところ、「エッジもテレコも、われわれの次の10年に向けて大きなビジネスチャンスを持っている」という答えが返ってきた。

ラグラム氏によると、通信業界ではデータセンターの仮想化が進んでいないうえ、仮想化されていないサーバがネットワーク機器に結びついており、5Gなどの新たなテクノロジーを導入したいと思っても難しい状況にあるという。

そこで、必要となる技術が、物理層からネットワークの機能を切り離すことができるNFV(Network Functions Virtualization)というわけだ。NFVはネットワーク機器を使わずに、仮想化機能によりルータ、スイッチといったネットワーク機能を汎用サーバ上で実現する。

ヴイエムウェアでは、通信事業者がNFVによって「ネットワーク・スライシング」「エッジ・サービス」「SD-WAN」といった新たなネットワークサービスを提供することを促進するとしている。

  • VMware vCloud NFVは通信事業者の事業創出を支援

「NFVは5Gをデプロイメントするためだけでなく、収益を上げるためにも必要」とラグラム氏はいう。

総務省は2020年に5Gの実用化を目指すとしているが、それを踏まえ、ラグラム氏も「5Gの整備は2020年までに進めないといけない。そのため、通信事業者は急ピッチでネットワークのアーキクテチャを刷新しようとしている」と話す。

また、ヴイエムウェアは統合型のクラウド管理プラットフォームとして「VMware Cloud Foundation」を提供している。今年11月には、最新版「VMware Cloud Foundation 3.5」が発表されたが、ネットワーク仮想化製品「VMware NSX-T」との統合が追加され、同製品の導入の自動化とライフサイクル管理が可能になっている。「KDDIやNTTといった通信事業者はクラウドサービスを提供しているが、彼らは自社のクラウドサービスにVMware Cloud Foundationを利用できる」とラグラム氏は説明した。

顧客のエクスピリエンスを刷新するエッジ・クラウド

エッジについては、「ここ2年くらい、エッジの重要性に気づく企業が増えている」と、ラグラム氏は説明した。企業がエッジを活用したいと考えるトリガーは「カスタマーエクスピリエンスの刷新」だという。

「銀行の支店、小売りの店舗、製造業が抱える工場などがエッジに当たる。さまざまな企業がデジタルトランスフォーメーションによってカスタマーエクスピリエンスを変えようとしている」

例えば小売りであれば、店舗のさまざまな場所にセンサーを設置しておき、センサーが来店した顧客を検知したらデジタルサイネージに情報を表示して案内するといったエッジの活用が考えられる。この時、「店舗側でもアプリケーションを走らせる必要がある。つまり、店舗にもインフラを構築しなければならなくなる」とラグラム氏。

また、銀行では各支店で顧客対応する行員がタブレットを活用することで、これまでとは異なるカスタマーエクスピリエンスを提供することで、新たなビジネスを生んでいる。

ラグラム氏は「新たな技術を活用してユーザーエクスピリエンスを見つめなおしてみるといった考え方はクラウドにも適用できる。その結果、クラウドをエッジに適用していくというデマンドが増えている」と話す。

ヴイエムウェアはエッジを「ネットワーク」と「デバイス」という2つの要素からとらえている。ネットワークについては、SD-WANを使うことで、エッジからの接続を容易にすることを狙っている。デバイスについては、ユーザーが所有しているものは「VMware Workspac ONE」によって、IoTデバイスは「VMware Pulse IoT Center」によって管理するとしている。

従業員のエクスピリエンスを向上するWorkspace ONE

デジタルワークスペースプラットフォーム「Workspace ONE」は、あらゆるデバイスにおけるあらゆるアプリケーションの提供と管理するための機能を提供する。

ラグラム氏は、「デジタルトランスフォーメーションの側面から考えると、Workspace ONEは、モダンなデジタルエクスピリエンスを提供するなど、従業員によい影響をもたらす」と話す。

「現在、企業で働くオフィスワーカーが利用するデバイスはWindows PCに限らない。ノートPC、スマートフォン、タブレットなどさまざまなデバイスを利用するようになっている。Workspace ONEは、彼らが利用するあらゆるデバイスに一貫性のあるデジタル体験を提供する。その際、企業が安全に利用できるよう、セキュリティと管理性を確保する機能も提供する」

ラグラム氏は「Workspace ONE」のさらなるメリットとして、デバイスやアプリケーションからさまざまなデータを収集し、機械学習によって、ユーザーエクスピリエンスを向上する点を挙げる。

例えば、収集したデータからアプリケーションのパフォーマンスを解析することで、利用状況を改善することが可能になる。

収集したデータはセキュリティベンダーとの共同作業により、セキュリティ上の課題解決にも利用されるそうだ。

「エッジ」は今年のIT業界におけるトレンドの1つであり、さまざまな企業がエッジに関する戦略を発表している。NFVに関する製品を持ち、クラウドでエッジまでカバーしていくヴイエムウェアの戦略は特徴的と言える。来年はさらにエッジに関する市場が活発になることが予想され、同社の新たな取り組みに注目したい。