日本マイクロソフトが2018年11月30日に開催した「最新のモダンPC体験会・意見交換会」に出席し、その内容は別記事『「モダンPC」で日本市場を盛り上げる - 日本マイクロソフト』で紹介しているが、改めて感じたのが「個人ユーザーでも長期サービスチャネルであるLTSC(Long Term Servicing Channel、旧LTSB:Long Term Servicing Branch)が必要なのでは?」だった。

Windows 10は、年2回の「機能更新プログラム」(いわゆる大型アップデート)、毎月の「品質更新プログラム」(いわゆるセキュリティ更新プログラム)を提供し、機能改善やセキュリティ修正を施している。PCを常に使い続ける筆者にとって、機能改善・バグフィックスは有用だが、月に数回しかPCを使わないようなユーザーにとって、PCを起動すると各プログラムの適用と再起動を求められる状況に遭遇しやすく、快適な利用環境とは言えない。

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    Windows 10における2つの更新プログラム

そのためMicrosoftは「サービスチャネル」という概念を導入し、PCの使用頻度に応じて更新タイミングを選択可能とした。Windows 10の登場時はさまざまな混乱も生じたが、現在は旧CB(Current Branch)の「半期チャネル(対象指定)=SAC-T」、旧CCB(Current Branch for Business)の「半期チャネル=SAC」、旧LTSBに相当する「長期サービスチャネル=LTSC」と名称を変更している。

LTSCに関して少し解説すると、医療機器や産業用製品などに用いられることを想定して、不用なWindows 10コンポーネントを含まずに、「機能の変更がないという約束を守る」チャネルである。

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    Windows 10 Enterprise 2015 LTSB。UWPアプリなどはインストールされない。アップデートもオフラインで行う

ただし、LTSCを選択できるのは、Windows 10 Enterprise LTSC(旧LTSB)のみ。Enterpriseエディションはボリュームライセンスによる購入が必要で、我々のような一般消費者が手にすることは難しい。それ自体は問題ではないが、前述したように「PCの使用頻度が少ないユーザー」には、LTSCが最適なのではないだろうか。

さらに述べれば、Windows 10 HomeはSAC-T、Windows 10 ProはSAC-TおよびSACが選べるが、個人向けPCの大半はWindows 10 Homeだ。Windows 10 Proの場合、Windows Updateのタイミングをユーザー側で多少はコントロールできるのだが(更新の一時停止など)、Windows 10 Homeでは自動的に適用される。「PCを使おうと思ったらWindows Updateが始まった」は、ユーザー体験を損ねるし、PC離れの一因となってはいないだろうか。

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    Windows 10 Homeの「Windows Update」-「詳細オプション」

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    Windows 10 Proの「Windows Update」-「詳細オプション」

その上での個人向けLTSCである。もちろん非現実的な意見であることは重々承知だ。Microsoftがそのようなオプションを新たに用意するとも考えにくい。だが、「ユーザーの選択肢」という観点に立てば、更新しない自由を与えられていないのが現状だ。

もちろん、セキュリティ更新プログラムはきちんと適用されるべきである。品質更新プログラムの定期的配信が始まったことには、2001年7月に発見されたマルウェア「Code Red」や、2001年9月の「Nimda」といった大規模な感染被害を防ぐという背景がある。セキュリティホールをふさぐ必要性はまったくその通りとはいえ、機能更新プログラムを適用したくないユーザーの選択肢はない。

長年、モダナイゼーションが叫ばれてきたIT界隈(かいわい)だが、「変わらない自由」を得られない現状はWindows 10に限らず、基幹システムから個人使用のスマホまで半ば強制されている。例えば、その歩み追いつけない高齢者のPC離れは、筆者の周りでも顕著だ。コストやリソースはさておき、こうした状況を変えるには、新たな発想やより多面的な施策が求められるだろう。

阿久津良和(Cactus)