「モダンPC」
これは日本マイクロソフトが定義する、最新PCのひとつのカタチだ。日本マイクロソフトは、モダンPCの説明と最新モダンPCの紹介をテーマに、メディア向けの催しを実施。普段の記者会見とは異なり、新たな発表はなかったものの、PCを取り巻く現状など興味深い話を聞けたので、内容をご報告したい。
日本マイクロソフトが2020年までの注力領域として掲げるのは、「インダストリーイノベーション」「ワークスタイルイノベーション」「ライフスタイルイノベーション」の3つ。モダンPCは、働き方や生活様式を改革する上で重要な存在となる。
IDG Japanの調査によれば、2018年第2四半期の国内PC出荷台数は、コンシューマー市場が前年同期比で9.7%減の100万台を振るわなかったものの、ビジネス市場は同19.1%増の174万台と堅調だ。これらの数値からは、「生産性を向上させるためのPCは今後も必要」「個人はスマホ(スマートフォン)で十分?」という姿が見え隠れする。
その一例として日本マイクロソフトの檜山太郎氏(日本マイクロソフト 執行役員 常務 コンシューマー&デバイス事業本部長)は、「かつて文部科学省との会話で衝撃だったのは、卒業論文をスマホで書いていた大学生がいたこと。弊社の新入社員からも、キーボードが苦手という声が一部あり、『キーボードが苦手でナゼいけない?』と思っていた」というエピソードを明かす。
日本マイクロソフトも、キーボードがベストな入力デバイスとは強弁していない。ただ、「創作活動を行うにはキーボードやペンデバイスが必要。我々は環境やデバイスの準備が必要と考え、大学生や新入社員に対して、PC利用の効率性を高めるためのプロモーション活動が最初の一歩」(檜山氏)としている。
さて、日本マイクロソフトが定義するモダンPCとは、下図のスライドが概要を示す。2in1 PC、厚さ18mmを切るウルトラスリムPC、光学ドライブや多くのポートを備えるAll-in-One PCを必要条件とし、いくつかの機能を推奨項目に掲げた。また、日本マイクロソフトは、大手量販店におけるPC売り場環境のモダン化や、モダンPCに精通した販売員の拡大を目指す。
檜山氏「モダナイゼーション(現代的なモノに置き換えること)をしていないPCと比べて、モダンPCを購入したユーザーの商品満足度は18ポイントも高く、顧客推奨度の得点は3倍、ブランド満足度も40%向上した。
PC市場を活性化するため、最新の技術や機能を使ってもらえるようにするのが我々の責任。現在のモダンPCは、PC全体の中で4割程度にとどまるが、これを6割まで押し上げたい」
次に、国内外におけるPC市場の差について目を向けてみよう。
「グローバル視点で日本市場を見ると、教育分野のデジタル化促進が大きい。自身専用のPCを持っている学生の割合は2割(欧米は7割)、親などから借りている小中学生は3割(欧米は8割)」(檜山氏)と、その差が大きく開いている。PCが必須の企業においても、「PCは使うが、リースなどの関係から低スペックなPC」というケースは珍しくない。
「モダンPCが備えるパフォーマンスは、法人でも重視される。日本と海外企業の違いは大きく、欧米ではIT環境の悪い企業に人は集まらない。日本の一部企業のように、PCの持ち出しやマイPCの持ち込みを禁止していたり、新しく入社した社員に古いPCを与えたりしては、欧米の企業では皆が辞めてしまう」(日本マイクロソフト 執行役員 コンシューマー&デバイス事業本部 デバイスパートナー営業統括本部長 梅田成二氏)
欧米企業と比べて日本企業のITリテラシーが低いことは、近年問題視されてきたが、中堅中小企業ではIT専任者を置く余裕がない……という現実もある。「そうした企業の経営者と話しても、現状のままで良いとは思っていない。この課題を解決するのが、モダンPCとクラウド」(梅田氏)とし、Microsoft 365 Businessのデータ保護統制機能や、サイバー脅威の防止をアピールした。
筆者が個人的に興味を覚えたのは、Always Connected PC構想についての回答である。Microsoftが2017年12月に発表したこの構想は、Qualcomm SnapdragonチップセットでWindows 10を20時間以上稼働させ、常にネットワークに接続することで、スマホ的なPCと体験(と生産性)を実現するものだ。
残念ながら日本市場への展開時期は未定であり、記者の1人が戦略を尋ねたところ、「Always Connected PCをカテゴリーとして推したいので、デバイスが出そろってから」(梅田氏)と述べた。
ただ、日本市場においては、MVNO業者によるSIMカードの購入などハードルも高い。「販売チャネルの選択も課題のひとつ。PCは顧客に対する説明(編注:機能やスペックなど)が求められる商材のため、販売員のスキル向上も必要」(梅田氏)。
市場として準備期間が必要だとはしながら、「2020年までには販売チャネルも整うと見ているので、我々も対応したい」(檜山氏)と、日本市場におけるAlways Connected PCの可能性を示した。
阿久津良和(Cactus)