仕事終わりのサラリーマンが家路を急ぐ20時過ぎ。JR高円寺駅を南に下り、パル商店街を歩いていると、不思議な看板が目に入ってくる。

MONA BAR TOKYO ――。

看板には、穏やかなほほえみを浮かべる白い猫のようなキャラクター「モナ―」が描かれており、そこそこの存在感を放ちながら商店街の一角に佇んでいる。

BARと書かれているということは、お酒が飲める「BAR」なのだろう。隣で飲んでいる人から「あなたのココロのスキマ、お埋めしますドーン!!!!」なんて言われそうな“場末感”を醸し出しているが、同時に「なんだか気になる」不思議な魅力があった。

はたして、店内はいったいどうなっているのだろうか。ちょっとしり込みしてしまう雰囲気ではあったが、覚悟を決めて入店してみることにした。筆者には、やると言ったらやる「スゴ味」があったのだ。

  • MONA BAR TOKYO(モナバー)の外観。商店街を歩いていると、某掲示板でおなじみのキャラクター「モナー」が現れる

  • 店内へと続く階段

仮想通貨を広めるべく、ホットサンド屋からモナバーへ

いざ、店内に足を踏み入れると、入り口の怪しさからは想像できないほど、オシャレで清潔感のある内装が目の前に広がる。ところどころにモナーの顔が見え隠れするが、店内に置かれたウッド調のテーブルやイス、観葉植物を見る限り、まるで隠れ家的なカフェといった感じだ。

  • モナバーの店内

「もともと、MUSTANG TOKYOという、ホットサンドのお店を5年くらいやっていました。昼は今でもホットサンド屋さんですが、2018年の7月28日から、夜だけ仮想通貨のモナコインをコンセプトにしたモナバーに切り替えて営業しています」

モナバーの代表を務めるモナ子さん(仮名)は、店舗の形態をそう説明する。なるほど、ホットサンド。それならばオシャレさにも納得だ。そして、モナバーは、某掲示板の「モナー」そのものではなく、仮想通貨の「モナコイン」をコンセプトにしたBARらしい。

  • モナバー 代表のモナ子(仮名)さん。既存のお客さんを困惑させないよう、まるっきり仮想通貨のお店にするのではなく、夜の時間帯だけ店舗形態を変えたが、久しぶりに来店したお客さんからは「変な組織にのっとられたのかと思った」と言われたという。しかも今回、取材はOKだったが、顔出しと本名の公開はNGだった。もしかして、ほんとうは怪しい組織の一員なのかもしれない……

しかし、ホットサンドとモナコイン、両者はコンセプトも客層も大きく異なるうえに、共通項もないように思える。夜だけとはいえ、なぜモナバーをスタートさせたのだろうか。

「2017年の夏ごろから個人的な趣味で仮想通貨を触っていたのですが、これが非常に興味深くて。ちょうどホットサンドのお店が5年経過したこともあり、なにか新しいコンセプトがほしいと考えていたので、モナコインをテーマにしたお店をオープンさせることにしたのです」

新しい風を吹き込ませるべく、夜間の店舗形態を一新したモナバーだが、おそらく一番メジャーな仮想通貨はビットコインのはず。なぜ、モナコインをチョイスしたのだろう。

「モナコインは、仮想通貨のなかでも、投げ銭などのコミュニケーションが特に活発に行われている通貨です。その投げ銭のおもしろさを少しでも伝えられたらと思って、モナコインを選びました」

モナコイン保有者の間では、SNSなどで仮想通貨をチップ代わりに渡す「投げ銭」の文化が定着しているらしい。そこでモナ子さんは、仮想通貨に触れたことのない人にも、投げ銭の魅力を伝えたいと考えたわけだ。ちなみに投げ銭は、SNSのなかでも特にTwitterでの利用が多いという。アカウントを持っていれば、誰でも簡単にモナコインのやり取りができるのだとか。

すると、おもむろにスマホでTwitterを起動したモナ子さん。「試しにやってみましょう」と、操作を始める。

「モナバーをオープンする前は、ほとんどモナコインを持っていなかったのですが、今は結構持ってるんです。取引所で買ったのではなく、ほとんどみんなからもらったコインなんですよ。ちょっと送ってみますね」

“みんなからもらった”というモナコイン。クラウドファンディングのようなことをしたのだろうか。

「いえ、違います。例えば、『新しいメニューです』とつぶやくと、『いいね』を押す感覚で、みんなが投げ銭してくれるんです」

モナ子さんはあっけらかんと話す。みんな、そんな簡単に自分のお金を渡せるのだろうか。「いいね」はお金がかからないからバンバン押せるが、その要領でお金を渡すという感覚は、貧乏な筆者からすると、イマイチ理解できない。

「えっと、Twitterのアカウントは……、やすかマギカさん? あれですか、まどマギから取ってるんですかね?」

なんてやり取りをしていると、筆者のTwitterに<@MONABARTOKYOさんから@yasukamagicaさんにお届け物です! つ[3.9mona]>という通知が届く。ものの10秒足らずで、モナ子さんはやすかマギカに3.9MONAを送り終えていたのだ。

  • 3.9MONAが届いた

簡単にモナコインを渡す様子を目の当たりにして、非常に感心したやすかマギカだが、これだと取材に来てモナコインを受け取って帰るという、図々しい奴に思われてしまうではないか。どうすれば返せるのだろう。

「いえいえ、全然大丈夫なので、持っておいてください。今のレートだと3.9MONAで500円くらいですが、去年暴騰した時は1MONA2000円近くまでいったんです。なので、これだけで1万円くらいの価値になるかもしれません」

「自分のお金を渡す感覚がわからない」と考えていた自分が恥ずかしくなるくらい簡単に、モナ子さんは言った。まるで握手をするような気軽さで仮想通貨を渡す。これが投げ銭の文化なのだ。

ちなみに、今回いただいた3.9MONAには「ありがとう(サンキュー)」の意味が込められているという。ほかにも、0.114で「いいよ」など、語呂合わせで送ることが多いそうだ。受け取ったモナコインは、モナコインちゃんbotというアカウント(@tipmona)を使うことで、ほかの人に送ったり、取引所の口座があれば日本円にしたりすることもできる。残高を問い合わせることも可能だ。

  • 3.9MONA受け取った後、残高を確認したら、ほんとうにやすかマギカは3.9MONA保有していた