NTTドコモは5日、災害対策に関する取り組みを説明しました。直近の災害(台風21号、および北海道胆振東部地震)では、どのような対応が実施されたのでしょうか? また、そこから得た教訓とは? NTTドコモ本社ビル・災害対策室で、担当者が説明しました。

  • NTTドコモが、災害対策に関する取り組みを説明しました

電波が停止! そのとき、どうする?

台風21号が発生したのは、2018年9月のこと。関西・東海地方では3日~5日にかけて記録的な暴風に見舞われ、広域停電が発生するなどの被害が出ました。そして直後の9月6日には北海道胆振東部地震が発生。最大震度7の激震が北海道を襲いました。この2つの災害が同時に発災したことにより、ドコモでは最大で約2,800局のサービスが中断。このため、約2,500名体制で基地局の復旧などにあたりました。

  • 台風および地震による激甚災害を受け、ドコモ社内でも直ちに復旧に向けた取り組みが開始されました(画像提供:NTTドコモ)

ドコモが台風21号により停波した基地局の「復旧報」を出せたのは、被災から10日も経ってから。また北海道地震に至っては、土砂崩れなどにより基地局に立ち入れないケースがあったため、発生から約5日後に「暫定復旧報」(基地局に立ち入りできない場所を除いた基地局で応急復旧したことを報告するもの)を出し、正式な復旧報を出せたのは20日も経ってからでした。この事実からも、2つの災害の被害の大きさが伺えます。

  • 台風と地震により、広範囲に渡ってドコモの通信設備が被災。同社では約2,500名体制で復旧に努めました

登壇した、NTTドコモ ネットワーク本部 災害対策室長の小林和則氏は、ここで地震発生から約6時間後の復旧エリアマップを紹介しました。

  • 地震発生から約6時間後には、復旧エリアが広がっていたことが分かります

  • NTTドコモ ネットワーク本部 サービス運営部 災害対策室長の小林和則氏

これを見てみると、たしかにグレーに色分けされた「サービス中断エリア」が広がる地域もありますが、札幌、釧路など人口が集中する都市部には、意外にもピンク色の「サービスエリア」が広がっていることが分かります。

短時間でエリアを復旧できた理由は、ドコモが展開する大ゾーン基地局 / 中ゾーン基地局の活用にありました。大ゾーン基地局とは、最大半径で約7kmのエリアをカバーできる巨大な基地局のこと。釧路市内の一部エリアでは、この大ゾーン基地局による運用が行われ、市の中心部から半径3kmの範囲がエリア化されました(運用期間は2018年9月6日16時26分から7日14時45分まで)。

  • 全国106箇所にある大ゾーン基地局。都道府県ごとに、概ね2局(東京は6局、大阪は4局)を設置完了しています

東日本大震災の教訓を受けて整備されたのが、この大ゾーン基地局でした。これまで実際に運用したケースはなく、今回がはじめての運用機会となったようです。この大ゾーン基地局について、小林氏は「予備の予備として整備しているもので、普段は電波を出していません。よほど大規模な災害が発生しないと使わない基地局なので、使う状況にはなって欲しくなかった、というのが本音のところです」と説明しています。

  • 大ゾーン基地局の運用により、釧路市内における広域エリアが救済されました

また災害時には、中ゾーン基地局の運用も欠かせません。普段から電波を発射している中型の基地局で、災害時に電源を喪失してもバッテリによる24時間以上の駆動が可能。またアンテナの角度を遠隔で操作することで、電波の弱い地域をカバーできるのも特徴です。

小林氏によれば、それは「裸電球の傘の角度を変えるようなイメージ」とのこと。地震により800ほどの基地局がサービスを中断しましたが、札幌の中心部などでは、こうした技術で近隣の基地局から電波を融通することで復旧エリアを拡大。このほか移動基地局、移動電源車を設置して対応した地域もありました。早期にエリア復旧できた背景には、そんなテクノロジーの活用があったようです。

  • 近隣の基地局から電波を融通できる中ゾーン基地局。ドコモでは2019年度末までに全国2,000局以上で展開予定です(2017年度末には1,474局を展開済み)

バッテリーの用意も災害対策のひとつ

今回の北海道胆振東部地震では、一時、道内の全域が停電となる”ブラックアウト”が発生したことも大きな問題となりました。ドコモでも、ドコモ北海道ビル(札幌市)などで携帯電話無料充電サービスを実施しましたが、あまりに利用者が多かったため「1人につき20分間まで」など時間を制限。それでも充電に約3時間待たされるスポットがあり、また基地局のバッテリー枯渇により充電サービスの提供を中止せざるを得なかったスポットもあったそうです。

  • ドコモでは、携帯電話無料充電サービスも実施しました

そうした課題から、今後はドコモショップに蓄電池や太陽光発電システムを設置し、基地局や自社ビルで非常用電源の強化を図っていく方針です。

  • 広範囲で商用電力が戻らない長時間停電の発生を想定。バッテリーを枯渇させないために、ドコモショップでも対策を考えています

ハザードマップと照らし合わせつつ、安全な場所に基地局を打っている同社ですが、それでも被災してしまうケースがあるとのこと。そのため、今後は衛星通信も活用するなどして被災地域の孤立化を防ぐ試みを実施していくと説明します。「現在、ドコモでは衛星通信できるシステムを載せている移動基地局車を全国に40台所有しています。また可搬できる衛星システムが40数台あるので、これを通常の移動基地局車に乗せるなどして運用することも考えています。今後は、その数を増やしていくとともに、山中などに展開できる小型化したタイプの開発も考えています」と小林氏。

  • さらなる災害対策を推進していきます

中ゾーン基地局や衛星基地局の充実、電源の強化、復旧エリアマップの高度化などにより、同社では今後2年間で200億円規模の災害対策を追加で行う予定。小林氏は「ネットワークのさらなる強化に加え、ドコモショップの備えや被災地支援を目的としたシステムの高度化など、ALLドコモとしての災害対策力を強化していきます」と説明していました。

大ゾーン基地局の運用には注意点も

小林氏は、記者団からの質疑応答にも対応しました。釧路で初運用となった大ゾーン基地局ですが、電波を出した範囲が(最大半径の7kmではなく)3kmにとどまった理由について聞かれると「電波を上から発射するために、電波干渉する問題がありました。被災状況を確認してみると、釧路市内には電波を正常に出せる基地局がいくつか残っていることが分かり、そのため3kmが最適との結論に至りました」と回答。また広範囲で電波を出すと、ユーザーひとりが利用できるデータ容量もそれだけ小さくなってしまうことも予想されたそう。「結果的に、半径3kmに絞り込んだことでうまく運用できた面もあります」と説明していました。